森の中に息吹く全長44mの木琴! 菱川勢一監督に聞く、ドコモ「森の木琴」撮影秘話!!

2011.05.13 Fri

 

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菱川勢一監督。ウイニングボールと一緒に。
菱川勢一 プロフィール:1969年生まれ。91年に渡米。ニューヨークにて数多くのミュージックビデオの編集を手がける。帰国後1997年にドローイングアンドマニュアル設立に参画。モーショングラフィックス黎明期から活躍し、日本のモーショングラフィックス分野の第一人者。映像作家のみならずWebディレクター、グラフィックデザイナー、空間デザイナー、写真家など表現のステージを選ばず多彩な顔を持つ。海外での広告賞やデザイン賞受賞多数。武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授。
緑深い森の中で、バッハのカンタータ第147番の木琴の音色が駆け巡るNTT docomoのWebCM「森の木琴(Xylophone)」。檜の間伐材を利用した携帯電話「TOUCH WOOD SH-08C」のプロモーション映像だ。森の息吹が宿ったような映像に惹き付けられ、癒された人も多いのではないだろうか。手掛けたのはモーショングラフィックス黎明期より活躍するDRAWING AND MANUAL(D&M)所属の菱川勢一監督。New York Timesを始め海外メディアでも話題となった本作について、菱川監督に話を伺った。

■ 「森の木琴」企画誕生から実現に至るまで
「PLAY WOOD 森の木琴」
dir: 菱川勢一(DRAWING AND MANUAL)|cd: 原野守弘(ドリル)||c: 山田のりこ(ドリル)|ad: 西田淳(ドリル)|sd: 松尾謙二郎(invisible designs lab)|wood engineer: 津田三朗|D.O.P: 山本栄太郎(Shadow-dan)、鈴木陵生(DRAWING AND MANUAL)|edit: 木村仁|pr: 大磯俊文(エンジンプラス)、千原秀介(エンジンプラス)|a pr: 吉野谷綾子|prod: エンジンプラス|a: ドリル、電通|
――今回のWebCM「森の木琴」について、DRAWING AND MANUALで担当されてた所と全体のチーム編成について教えてください。
僕らはWebムービーを担当しています。ドリルさんからのアイデア「森の中にある巨大な木琴の上を、重力で転がる球が音楽を奏でる」を元に、一緒に企画を詰めていきました。アイデアとしてはストレートで、今回の商品「TOUCH WOOD」のテーマでもある間伐材にとにかく興味を持ってもらう作品創りというのが大きな主旨でした。木を使って木琴を創って、木の素晴らしさや楽しさをストレートに伝えようと。
企画の段階で、ドリルのクリエイティブ・ディレクター原野守弘さんとは海外でも通用する映像を目指しました。例えばソニーのBRAVIAのCMとか意識しましたね。伝えたいメッセージに向かってそぎ落とせるだけ、そぎ落とす。最初のコンテでは余計な演出も書いてるんです。最初は日本のコマーシャル的な演出コンテだったのですが、(ドリルの)原野さんとのやり取りの中で、メッセージ性の強い物にストイックな方に引き戻されていきました。

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販売価格も7万7910円と高額だが、先行発売分も完売となった「TOUCH WOOD SH-08C」。マスプロダクションでの木材利用の減少と海外からの安価な輸入材により危機に瀕する林業。日本の森は大半が人工林。そのため手を入れないと山は痩せていき、木材のクオリティも落ちてしまうという悪循環に陥ってしまう。その打開策の一つとしてmore treesが企画し、docomo、sharp、olympusが賛同し実現したのがこの間伐材で創った携帯電話「TOUCH WOOD SH-08C」。
――音楽はどなたが担当されたんですか?
サウンド・デザインは九州に拠点を構えるインビジブルの松尾謙二郎さん。原野さん、松尾さんとは長年の付き合いで、特に松尾さんとはお互いソニー・コンピュータ・サイエンス研究所に関わっていた頃から、かれこれ10年くらいの付き合いになります。今回のテーマが木琴を創るというお題で、松尾さんも相当苦しんでいました。「いやー、今回は出来るかどうかわかんない! 不確定要素が多すぎてゴールが見えない」って。そこで彼の友人のアーティスト、津田三朗氏に相談に行きました。そこから九州大学の有志も巻き込んでの試行錯誤は始まります。

――試行錯誤はどのように進んでいったのでしょうか? この完成映像のようなものは当初から見えていたのでしょうか?
いや、全然(笑)。プランニングの初期の段階では軽い感じで「木琴いいじゃん!」って盛り上がって、「螺旋にして」「森の中を縫うように」とか好き放題いっていました。隣で松尾さんは「それは無理です」って(笑)。実際、例えば螺旋にするってことは、ガード等をつくらないとボールは落ちてしまうし、階段状でないと(叩かないと)音は鳴らない、カーブって言うのは斜めにしないと遠心力でボールが飛んでってしまう、といった事を図解で説明されて、僕たちも「そうだね、無理だね」ってまた落ち込んで、っていうのを繰り返していました。

――最終的にこのカタチに落ち着いたのは?
階段状にするというのを突破口にしていくのですが、形状として、真っ直ぐっていうのが出てきます。形状の最終的な決断は「真っ直ぐ」。やはり日本らしいし、なにしろ潔い。そうして決めた「真っ直ぐ」でも、意図したように転がすには試行錯誤を繰り返しました。試した種類は24種にもなりましたが、とにかくいい感じに転がすための溝を作るのに苦労しました。「出来ました!」って九州チームから送られてくる写真を見て「造形的に美しくないからボツ」なんていう鬼のようなことを言って。木琴製作チームには本当に苦労かけてしまいました。

――サウンド、デザインに加えて、力学的かつ工学的な部分はどう解決していったんですか?
普通ボールを転がすと加速していってしまうんです。それを楽曲にするためには構造的な調整が必要です。松尾さんと九州大学チームの元、博多に住む木材加工職人の池山英二さんなどに助っ人として関わってもらいました。広告なので木琴の仕上がりの美しさも重要でしたし、本職の職人さんに入ってもらったんです。

■ いざ、ロケーション・ハンティング! 64箇所の山を巡る。
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木琴の制作現場は九州の嘉麻市。博多から車で約1時間半の場所にある。メイキング映像はこちらから。
――NTT docomoのサイトで公開されているメイキングでは64箇所もロケハンをしたとありますが、木琴制作現場のある九州で探していったのでしょうか?
いや、いろいろです。割と九州を中心に探していたんですが、その理由は単純に制作している九州大学と松尾さんのラボから近いというのと、撮影時期が2月後半だったので、雪の問題がありました。当初は、プロダクツが四万十の檜を使っているので四国という案もありましたが、必然的に南下して鹿児島や九州地方を中心に探していきました。インビジのスタッフ清川進也くんがとにかく毎日車でまわって探していきました。

――ロケーションのポイントは?
やっぱり傾斜があること。九州チームからだいたい12度から15度くらいの斜度が必要だと計算が出ていたので、平地で作るとスタート地点の高さがえらいことになる。適度な斜面のある、綺麗な風景の森で、間伐されている所とそうでない所が混在した状況、混沌とした森が理想的でした。ロケハン中は「切り株があって、光が入っている場所」と、僕からの条件もどんどん厳しくなってきて(笑)。探して探してようやく、この嘉麻市の森がどうやら良さそうだということでみんなでロケハンに行きました。結構雪は積もっていたのですが、間伐されていて、広い抜けがありました。僕たちの見方として、撮影のためにクレーンなどの特機が置けるかどうかというのも重要なポイントです。僕は絶対にクレーン撮影をしようと決めていたのですが、「クレーン持ってくの!?」ってプロデューサーは頭を抱えていましたね(笑)。でもその場所はちょうど広い場所があってクレーンも問題なく設置出来ると。
また、ちょうど切り株があったんです。商品カットで使えないかなって閃きました。はじめは木琴のシーンと商品カットは別で撮影する予定だったんですが「その切り株をゴールにして木琴を設置出来ないか?」って。実際に施行してくれる大工さん達と見てみると、森の上の小さな池から切り株までちょうど木琴の長さの約50m(実際の木琴は44m)。計ったようにぴったりと入ったんです。そうすると小さい小川を超えたりするんですよね。このアイデアは現場を見ての思いつきでした。

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全長44mの木琴。撮影の一週間前から泊まり込みでの設営が始まる。雪や雨といった湿気、そして、イノシシが突っ込んでくる森ならではのリスクに、毎日ハラハラの連続だったそうだ。
――雨、雪も降らず無事設営を終える事ができたとの事ですが、実際の撮影にはどれくらいの日数を掛けたんでしょう?
4日間掛けています。初日、僕とプロデューサーで早朝に現場に入ってテストをした所、一発で下まで音楽を奏でながら転がっていくんですよね。「よしっ! いった! あと撮るだけでしょ。松尾さんってすげーな」って気持ちになりましたね(笑)。撮影時間は早朝から午後3時くらいまで。それを過ぎてしまうと、光の感じが繋がらなくなってしまう。基本的には順取りで上から順番に撮っていっているんです。クレーンの位置を変えながらアングル違いとか相当撮りましたね。
3日目からは商品カットに集中しました。切り株上に並べた商品に「ボールがゴールしてくる時にコツンってあたって商品の横に止まるといいな」って思いついたんです。池山さんは「えっ。止まるの!?」って。止まるってことはスピードダウンしていかなくちゃいけない、ということは最後の最後ギリギリ転がって弱い力でポトッと落ちてくるように、鍵盤の角度を調整しなくちゃいけない。

――切り株に細工しているのかと思っていました! 匠の技ですね。
池山さんは黙々と鍵盤外してカンナで削っていました。かっこいいーなんて見守っていましたが(笑)。職人さん凄いですよね。鍵盤も間近で見るとスパッと一直線なんですよね。

――撮影したカメラは何を何台使用されたのですか?
一眼レフカメラ2台です。木琴部分はキヤノンのMark II 7Dで撮っています。インサートで入っている森の実景はMark II 5Dで撮影しています。使い分けている理由は木琴の撮影はズームが多いので深度が浅いとフォーカスが合わないためです。レンズはキヤノンの純正をチョイスしています。
森の実景部分では鹿の絵を撮るのに苦労しました。唯一生命のあるものが登場するカットなので重要でした。うちの鈴木(陵生|D&M ディレクター)に任せていたのですが、4日間全く別行動で山に籠っていましたね。でもそのおかげで、通常なら粘らないと撮れないような奇麗な光や山の絵が撮れてるんです。

■ 4日間におよんだ撮影の舞台裏から、菱川監督のディレクション哲学まで。
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D&Mの鈴木氏に託された鹿のショット。鹿探しには地元の猟師に協力してもらった。石鹸の匂いが御法度のため、4日間お風呂禁止で山に籠り鹿の映像の撮影に成功した。
――完成映像は木琴と森、人工物と自然との調和具合だったり、ボールが転がっている間「がんばれっ!」って気持ちになったり、癒しを感じたり、見入ってしまう3分間ですが、演出面で一番大変だったことは何でしょうか?
あのボールが可愛く感情移入出来るようにしたいと思ったんです。ボールが感情や意思を持っているかのように見えるのが重要でした。一番のこだわりと言ってもいいかもしれません。だから素直に転がっちゃダメなんです。途中で右往左往するまで粘って撮りました。九州大学の子達は無事に落ちずに転がってくれることを目指してたんですが、僕は更にリクエストをしていたんです。「落ちそうで落ちないように」と。用意しているボールにも個体差があって、ボール自体に性格があるようで感動しました。木琴を奏でることはさることながら、一生懸命なところを伝えたかったんです。
あとは、日本的なところかもしれませんが、映像の余白を創るアングルを考えました。カメラマンの山本栄太郎さんと凄く調整していきました。日本の庭に対する考え方とか、そういうものを意識しているかもしれませんね。日本の美学って余白の美っていわれることもありますしね。
採用したカットも、いわゆる“いい画”ばかりを使ってないんです。それも削ぎ落としていく作業でした。説明的にならないように、どこまで削ぎ落とせるか。でもあんまり削ぎ落とすと何にもなくなっちゃいますけどね(笑)。木琴が「どうだ、凄いだろ」と、どや顔しないように、なるべく慎ましい感じに映像が成り立つようにしています。

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カメラマンの山本栄太郎氏。クレーンの位置を変え、アングル違いで撮影していった。
――奏でる曲についてですが、バッハのカンタータ第147番を選んだ理由は何でしょう?
森に設置が始まる10日前、ギリギリまで曲が決まらなかったんです。本当にギリギリ。松尾さんからも曲を決めてくれと泣きが入っている状態でした。DTMでシミュレーションをして、テンポの早い楽曲や「美しき青きドナウ」とか試行錯誤していたのですが、最終的にバッハのカンタータを僕から提案しました。宗教曲の歌詞が静謐な森の感じと合うとおもったんです。歌詞で「主よ」と言っているのを森に置き換えると深みを持たせられるんじゃないかと。ただ宗教歌なので議論はありましたね。まさかその後に震災になると思ってもみなかったので、ここまではまるとは当時考えてもいませんでした。

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田中貴金属グループ 企業CM dir: 菱川勢一
自然を相手にする映像を多く手掛けるようになったという菱川氏監督作品より。貴金属という自然の物質の美しさ、儚さ、価値を北海道のありのままの美しい情景で表現した。一切の合成なしでトマムの山頂に1週間泊まり込んでタイムラプスで撮影。カメラマンはUNIQLO Calendarの撮影も手掛ける藤倉翼氏。
――映像と音との関係って親密だと思うのですが、モーショングラフィックスも精力的に創られてきた菱川さんはどのように考えていますか?
音に対してというよりも、映像、特に編集って音と同じようにグルーヴがあると思っているんです。映像の限界は秒間30フレーム。その中で自分なりの刻み方をしていくと、ある一定の法則みたいなのがあって、それがはまるとグルーヴ感が出ると思うんです。音楽でいうと「あのベーシストのベースラインはグルーヴィーだ」というのと映像編集も近いものがあるなと感じているんです。映画の編集で監督が編集マンを決める時にいつも同じ人を指名するのって、そういうリズム感じゃないかと思うんです。

――バンドメンバー決めるようなものですね。
そう、まさにバンド! 僕はタイトルバックとか音楽と近しい映像を創ることが多いので、常日頃大事にしているのはこのグルーヴ感なんです。波形を見てカットしていくのでなく、聴きながらマークインをしていく。フィジカルに、自分のリズム感で、もしかすると厳密にはちょっと遅かったりずれていると思うんですが、これが個性だと思うんです。それを大事にしなくちゃいけないなって思ってます。音と映像ということで言えば、デレク・ジャーマンとか凄く気になりますよね。音と映像の関係をどう考えてるんだろうって。「ブルー」とか、青い映像って言われてもな・・・て思うんですが、よくよく観ると凄く面白くて。あとは、ミュージカルとか大好きですね。ああいう音楽と舞踏とか、音楽と場面だとか。映画でいえば「ブルース・ブラザース」とか、もう名作です。ヒューマン、ペーソス、音楽、全部が詰まってる感じ。特に役者の間合いなんかは最高です。間合いっていうとそれまでかもしれないですけど、映像っていうのは時間軸が命なので、間合いがすべてなんでしょうね。
森の木琴で何度もテイクを重ねていた所っていうのは、きっとその間合いなんでしょうね。それが僕のフィールに合っているかどうかっていう。他人にはよく解らないNGとOKなんですよね。NGが何にNGなのか監督本人しか分からない。ちゃんと撮れていてOKっぽいけどNGなんだ・・・と。僕はそこで多分間合いを見てるんだと思うんです。心を鬼にして「もう一回お願いします」って(笑)。

■ 5つの質問 一問一答
1: 一番影響を受けたものを教えてください
文学。高村光太郎
2: この職に就いたきっかけは?
中学の時、美術の先生にホメられたから。
3: 一番好きな映画は何ですか?
2001年宇宙の旅
4: 作業場のまわりに必ずおいているものベスト3は?
ブロアー、ブラシ、インクボトル
5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
ピアノ(ジャズピアノ)を弾くこと
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