ピクトグラム(絵文字)デザインが世界を変える!? 第一人者、太田幸夫かく語りき

2010.08.06 Fri

 

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太田 幸夫(おおた ゆきお):日本サイン学会会長、多摩美術大学教授を経て太田幸夫デザインアソシエーツ代表、NPO法人サインセンター理事長。1939年愛知生まれ。多摩美術大学卒。同研究科およびイタリア国立美術学院修了。視覚言語ロコス、通産省シンボルマーク、新非常口サイン、アメリカEWC、国連大学、ISO国際図記号プロジェクトなどを実績とするグローバルな視覚言語の開発をめざす。「ピクトグラム(絵文字)デザイン」、「サイン・コミュニケーション」(柏書房)、他受賞多数。
トイレに地下鉄駅、制限速度から撮影禁止までーー私たちの生活を支える「ピクトグラム」(絵文字/絵ことば)の数々。”走る人”のマークでおなじみの「非常口」サインで世界標準化を果たすなど、日本を代表するピクトグラム・デザイナーの太田幸夫氏が、その50年近い研究成果を注いで制作中の”ピクトグラムなムービー”とは? 氏が手掛けた世界初のコンピュータ・アニメーションや、”人類みな恋人”を願い作り出された視覚言語など、知られざるピクトグラム秘話を通して、”人類史上最大のディスコミュニケーション状況”が今、明らかになる。

■前代未聞、“ピクトグラム・ムービー”の銀河系
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「目で見ることばの歴史と拡がり」 機能分類と形象シンボル抽出:太田幸夫|ad: 太田幸夫|de: 深田美千代
太田幸夫多摩美術大学教授退任記念講演「コミュニケーションデザイン:目で見ることば」(2010年2月多摩美術大学デザイン学科主催/上野毛キャンパス講堂)で行われたプレゼンテーションデザインより。外界の多様な意味を形象としてとらえてきた人類のコミュニケーション活動の軌跡を9種類の機能で色分けして時代特性を図化した。(クリックで拡大)
――ピクトグラムをテーマに、これまでにない映像作品を制作されているそうですね。
人類の歴史においてこれまで生み出されてきた無数の視覚言語、すなわち“目で見ることば”を分類配置した銀河系のような集合体を俯瞰し、そこにクローズアップしていくことで、それぞれの働きを紹介していく映像です。ここで表現しているのは、ピクトグラムの歴史的な役割と可能性ということです。このテーマは、著書「ピクトグラム「絵文字」デザイン」(1987年/柏書房)の中でも取り上げましたし、私が13年前にコンピュータサイエンスの世界最大の学会IEEEの国際学術会議で行った基調講演の主題でもありました。このようにこれまでもお話ししてきたテーマを、今回は映像によってよりダイナミックに、楽しみながら理解してもらいたい、と考えた次第です。

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「非常口」サイン。太田氏がデザインを整え、ISO(国際標準化機構)での検討を経て、1987年に世界共通のサインとして採用された。
――監修を務められた「第1回 いのちを守るデザイン展」(2007年)では、非常口のサインを中心に防災・安全に関わるピクトグラムを取り上げていましたね。
防災に関わるピクトグラムということでいうと、今、私が大きな危機感を抱いているのが、地震や火災の際に建物の中から外へ脱出するための「避難誘導システム(Safety Way Guidance System)」です。私の猛反対にも関わらず、床や壁、階段の手すりなどに10cm幅の蓄光テープを張り巡らす案が5年前に国際規格に採用されてしまった。これはレストランやホテルなど、あらゆる公共の場所において、火災の煙の中で避難経路を示すために蓄光テープを貼り巡らすものですが、人の命を守るためとはいえ、美観が大幅に損なわれてしまうようなものはいかがなものか。しかも、国際会議の座長は蓄光素材メーカーの社長なのです。

よいデザインとは、機能に加えて、周囲の環境と調和するものでなければならないはずです。にも関わらず、10cm幅の案が日本の国家規格でも採用されようとしています。そもそも、ただ蓄光材でラインを引くだけでは、逃げる方向がわからずに火の元のほうへ行ってしまうおそれもある。矢印で方向を指し示すなり、それが動画で表示されるなどのダイナミック・システムでないと意味がない、というのが私の主張です。

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日本の国家規格採用の是非が問われている、蓄光材を張り巡らした「避難誘導システム」の例(National Research Council of Canada)
それに、建物が密集している日本の場合、例え屋外に脱出できたとしても、安全を確保できたとはいえません。阪神淡路大震災では、屋外へ脱出後に倒壊した建物の下敷きになり、そのまま焼け死んでいく人を前に、消防士が水の出ないホースを手に立ち尽くしている、という状況がみられた。建物の外に出た人々を、さらに安全な場所へ避難させる必要があるのです。私が「広域避難場所」のサインをデザインしたのはそのためです。

にもかかわらず、標識メーカー各社がそれぞれ勝手なデザインを地方自治体に売り込んでいる。旅先によってバラバラの「広域避難場所」の標識が使用されていたら、あなたはそれが避難先を示すサインだと認識できますか? なぜ言葉ではなく視覚言語を用いるのか、それは“誰にでも、すぐにわかる”ものにするためです。だからこそ、日本国内、さらには国際的にサインを統一していく必要があるのです。
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太田氏がデザインを手掛けた、「広域避難場所」サイン(JIS案内用図記号)

■ピクトグラムで“バベル後の世界”に立ち向かえ

――そうした問題に対し、ピクトグラムはどのような解決方法をもたらしてくれるのでしょうか?
例えば自動車の運転席を見ると、ワイパーやヘッドライトなどのスイッチには、必ずそれを示すピクトグラムが表示されています。グローバルなマーケットを持つ自動車産業は、日本経済の大黒柱の一つですが、もしこれらのスイッチが「ワイパー」「ヘッドライト」など文字によって表示されていたら、言語圏によって異なるものを作る必要があり、今のような輸出市場は形成されなかった。誰もが理解できるコミュニケーション方法としてピクトグラムが用いられたことによって、現在の日本の経済的繁栄があるといっても過言ではありません。

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1.人:シンボル辞典より Man: From The Symbol Dictionary|2.5つの人種と色の使い方:「国際絵ことば」より Sign for the 5 Groups of Man: From International Picture Language|3.地球上の勢力分布 Machte der Erde: From Die bunte Welt
――ピクトグラムとは、コミュニケーションの障壁を乗り越えるためのデザイン的回答なのですね。
そもそもピクトグラムのルーツは、ドイツの哲学者、オットー・ノイラートが1920年代に開発した「アイソタイプ」という絵ことばです。彼は、経済学や政治学、社会学や都市計画などの学問知識は一般の人々の生活にこそ役立つべきなのに、専門領域化が進んで理解が困難になっている状況を憂い、人々が自らの問題を理解・共有し、より主体的に生きていくことができるような手立てがないかと考えた。そこで、例えば人口分布のような社会統計を絵文字による棒グラフで表すなど、専門的知識なく社会の状況を理解できる仕組みを考えたのです。

■めざせ“人類みな恋人”! 非言語コミュニケーションが未来をひらく
視覚言語「ロコス(LoCoS : Lovers Communication System)」 太田幸夫多摩美術大学教授退任記念講演「コミュニケーションデザイン:目で見ることば」(2010年2月多摩美術大学デザイン学科主催/上野毛キャンパス講堂)で行われたプレゼンテーションデザインより。
――先生のご活動も、そうした信念に基づいてのものでしょうか。
60年代にイタリアに留学した際、言葉の壁を痛感したのが最初のきっかけかもしれません。そこで1964年に、「世界の人々が恋人のように理解し合うことを願い」、たった19個のオブジェクトで文章を構成し、誰でも30分の学習でマスターできる視覚言語「ロコス(LoCoS)」を開発し、国際会議でも発表しました。

また、アメリカのEWC(国立東西文化センター)によるプロジェクト「国際相互依存状況の視覚化」(1978年)では、政治問題やエネルギー資源の枯渇、環境などのあらゆる問題に対し、人類の協調と智恵の共有こそが必要だという考えから、各国の政策決定者にその解決策を提案したのですが、私はそこで、「地球規模の問題をピクトグラムで表現し、みんなで共有していこう」という、非言語コミュニケーションの試みをスライドショーで発表しました。

「国際相互依存状況の視覚化」(Visualizing Global Interdepencies)(1978-79年) project coordinator: アーロン・マーカス|designer: 太田幸夫、アーロン・マーカス
そして、この作品を見た国連大学から、大学の理念と実践をより多くの人に知ってもらうための映像制作の依頼が来ました。私は友人の英国人コンピュータ・サイエンス研究者のアラン・キッチンに協力してもらい、世界初のコンピュータ・アニメーション作品「生存は分かち合いから」を完成させています。
「生存は分かち合いから “Sharing for Survival”」(1983年) design director、graphic designer: 太田幸夫
こうした試みを通して、コミュニケーション問題を解決すべく、私たち1人1人が自分たちの生をより主体的かつ豊かに築いていける方法を研究していますが、大切なのは、“目で見ることば”はあくまで人類共通の社会資産だ、ということです。ですから、これは私1人の趣味や好みの問題ではないし、私1人でどうこうできる問題ではない。これは地球市民である私たち全員の問題です。だからこそ、みなさん1人1人の力が必要なのです!

文:深沢慶太 / Text:Keita Fukasawa

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