「進撃の巨人」の漫画家、諫山創インタビュー! トラウマという財産!? 人生観と漫画創作が濃密に交わる諫山創の視点とは?

2013.12.04 Wed

 

1986年生まれ、大分県出身の諫山創氏。「進撃の巨人」を2009年から「別冊少年マガジン」にて連載中で、現在、単行本の発売部数は2,500万部を突破した。その快進撃は周知の事実だが、2013年4月~9月にはテレビアニメ(荒木哲郎監督)がオンエアされ、江の島には80トンの砂の巨人が登場し、超大型巨人がペイントされた4,000万円の痛車フェラーリが作られ、スピンオフ「進撃の巨人 悔いなき選択」の連載がスタートした月刊マンガ誌「ARIA」2014年1月号は約5倍に増刷されるなど、その勢いはとどまることをしらない。

残酷な描写が多い作品ながらも幅広い読者に熱狂的に受け入れられている「進撃の巨人」について、そして“諫山創”という人物について、伊藤ガビンがその実像を紐解くインタビューをお届けする。

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諫山創(いさやま はじめ):大分県出身。2009年「別冊少年マガジン」創刊号から「進撃の巨人」を連載。2011年、同作で第35回講談社漫画賞少年部門受賞。
photo by zenharu tanakamaru
マンガ「進撃の巨人」の作者、諫山創さんのインタビューをお送りいたします。今、もっとも売れているマンガのひとつである「進撃の巨人」。デビュー作であり、現在も進行形である神話の、その制作のバックグラウンドについてお話をうかがいました。

――諫山さんは、いろいろなインタビューで自分が影響を受けた作品たちを、かなりあけすけに語っていますよね。その中でも、自分の現在のマンガに直接的な影響を与えたものっていうと何になりますか?
それは中学生の時に読んだ「ARMS」というマンガですかね。それが一番大きいと思います。マンガは元々読んではいましたが、はじめて心底面白い! と思ったのが「ARMS」なんですよ。今でもその影響は続いていて、たとえばストーリーを考える時にも「これがオリジナルARMSだとすると、モデュレイテッドARMSがこれで」と当てはめるとすごく整理されるんです。

――ああ~、タイトルにもなっている体に埋め込まれた兵器ARMSのバリエーションが、進撃の巨人を考えるときのヒントにもなっていると。考えるときのガイドみたいなことになっているんでしょうか。
「ARMS」を意識して描いたわけじゃないけど、無意識の中に「ARMS」があったということですね。後から「あ、これはアレの影響だな」と気づくことは多いです。他にも「地獄先生 ぬ~べ~」というマンガの中に人食いモナリザが出てくる回があるんですけど、あの人食いモナリザが“巨人”だってことに今年になって気づきました。

――もう少し詳しく教えてください。
「ぬ~べ~」に出てくる人食いモナリザの怖さは、巨人の怖さにそっくりなんです。小学生の時に読んでトイレに行けなくなるほど怖かったんですよ。それが“怖さ”を描こうとした時に、どこからか出てきたんでしょうね。

――それも気づかず描いていたことに、最近になって気がついたと。
思い出したきっかけはよく覚えてないんですよ。たぶんネットで「ぬ~べ~、よかったよね」みたいな書き込みを見て、その前後を見たら「モナリザの回は最悪で、トラウマだ」と書いてありまして、それで画像検索とかしたんですよね。そうしたら、ああ、これが巨人だったんだって気がつきました。人食いモナリザって微妙にモナリザの顔がでかいんですよ。それで歯が草食動物みたいな臼のような歯を持っていて。そういう部分ですね。

――他にも「ジョジョの奇妙な冒険」とかたくさんの作品の名前をよくあげてらっしゃいます。それらの共通点として、自分の体を完全に自分では制御できないとか、体の中に異物のようなものが入っているとか、体が暴走したり変身したり、という共通点があるような気がします。
ジョジョは変身ヒーローものではないですけれど、スタンドという自分を象徴するものが具体化して出てくるというところがすごく好きですね。それと、ジョジョの場合はマンガ以外のものから受けた影響を結構マンガの中で表現するじゃないですか。そういう部分が自由だなあと思って好きですね。

――ああ、名前の付け方とか・・・。
そうですね。そういう部分に“熱さ”を感じるんですよ。少年マンガ的な熱さですね。

2013年12月9日に発売予定の最新刊「進撃の巨人(12)」(講談社コミックス)
――自分が「うおおおお!」と思ったものがそのまま注ぎ込まれてるとか。ブログではよく映画の話題をとりあげてらっしゃいますけど、映画からの影響はどうですか?
ストーリー作りは映画からの影響が大きいです。やっぱりよく出来ている、レベルの高いストーリー多いですから。

――例えばタランティーノの名前をあげてますよね。彼の場合は、それまでの映画からの影響がすごく大きいわけですけれど、そういう要素は諫山さんにもあるような気がします。
荒木飛呂彦さんみたいに音楽をマンガにできるか、映画をマンガにできるか、で言うと僕はできない方ですね。でもマンガから受けた影響でマンガを描くというのは、狭い感じで嫌なんです。

――作品にダイレクトに出てこないまでも、マンガ以外で深く影響を受けているものというのは?
ニュースというのはあるかもしれないです。時事的な。それは自分の世代的なものから来ているのかもしれませんが。

――え。それは例えばどういう?
多感な時期に世の中がどうだったかということに影響を受けると思うんですけど、僕が10代の頃って政治的な意味ではなくネット右翼が全盛の頃だったんですよ。その時の世の中の雰囲気にすごく影響されていると思います。

――みんながイライラしていたりということですか?
結構、細かく世代って分かれていると思うんですね。氷河期世代とかゆとり世代とか。そして、その世代ごとに“敵”がいると思うんです。僕らの世代の敵というのは、「情報を握っているもの、発信する情報を操作するもの」だと思うんですね。誰かがメディアを使って自分たちの都合のいいように情報を操作している、そういう思いが植え付けられているんです。そういう不信感を必要以上に持っている世代だと思うんですよ。

――権力そのものとはちょっと違うんですね。
今の40代以上の人だったら、“官僚憎し”とか、“オカミ憎し”というところがあるんだと思うんですけど、そうじゃなくて、情報を操作している側が敵、という意識があります。多感な時期が、ちょうど世の中にネットが広がっていった時期で、知らなかったことがネットでもYouTubeでもいっぺんに手に入るようになって、それから常に世の中を俯瞰して見るようになってしまったような、そんな世代なのかもしれません。

――それはある種、冷めた視線でもありますよね。
例えば、僕はブログをやっていて、そこにコメント欄があるんですけど、自由に書き込めるようにしているんです。実はこれは結構な覚悟が必要なんですよ。
世の中、いい人しかいないっていう前提でこれをやると、誹謗中傷のコメントが書き込まれた時に、こんな酷いことを書く人がいるんだとか、なんて醜い人間がこの世にいるんだ、とショックを受けるわけですけど、でもそれは考え方次第だと思うんですね。どんなに酷いこと、例えば、台風で屋根が飛ばされても台風憎しっていうより自然現象だから仕方ないって思いますよね。人間って何をするかわからない自然現象のようなものだと思うんです。

――ところで、何かのインタビューで「自分は逃げるタイプの人間」って答えているのを読んだんですね。危機的な状況が目の前に現れたら逃げる、と。でも、マンガ家という職業はかなりリスキーだと思うんですよ。「逃げる」と言ってるのに、マンガ家という道を選ばれたのはどうしてなんでしょう。
それはまず学生時代のやってた落書きの延長っていうことはありますよ。マンガは日本だと土壌が広いし、マンガで食べていくための方法もよく知られているし、間口が広いんですね。

――あ、ではリスキーだとは思ってなかった?
映像とかよりは作るのにお金もかからないですから、ハードル低いですね。

――マンガ家になりたいって言う人はたくさんいるけれど、実際にコマを割ってマンガを仕上げる人は少ないじゃないですか。それには“努力”が必要なのでは?
コマ割とかそういうのは最初は出来ないのは当たり前だと思っていて、そういうのはそのうち慣れるだろうと思ってました。高校の頃からコマは割ってましたけど、自分に一番できることはストーリーだってことで、ひたすらネームをいっぱい書いていて、ほかのことはあんまり気にしていませんでしたね。

――でも面倒くさいじゃないですか。モチベーション高かったんですね。
それはないですね。

――マンガって、トーン貼ったりマンガ用の紙に描いたりしてました?
そうですね。田舎には売ってないんで、高速バスにのって福岡まで行ってやっと手に入れるという。

――めちゃくちゃモチベーション高いじゃないですか。
それはちょっと頑張りましたね。でも、福岡まで行ったことで満足してました。ここまで行動してみせたんで将来マンガ家になれるんじゃないかって。でもマンガ描いてるって恥ずかしくて誰にも言ってなかったんですよ。

――親にも、友だちにも?
そうです。自分の部屋がたまり場になっていたので、描いたマンガが置いてあってバレたりもしたんですけど。

――え。バレるのに。
友だちが僕のマンガを見つけて手にとりますよね。それを僕が何も言わずに取って、スッとこう隠すみたいな。完全に異常な行動なんだけど、それを見ても何も言わないでいてくれるっていう。

――バレてるじゃないですか(笑)。
田舎なんで保育園から中学までずっといっしょで、その後もずっといっしょだったり。高校生くらいの頃って、自分の将来の夢を人に言うのが恥ずかしいっていうのがあると思うんですよね。

――確かに。
でも、高校の同級生たちとは、そこまで仲よくはなかったですよ。ただ実家の僕の部屋が離れみたいにな、倉庫を改造した部屋みたいなところだったんで、エロ本のたまり場になってたんですね。エロ本図書館みたいな。そこにみんなエロ本を持ってきて取引の場所として利用されてました。

――エロ本すごく読みふけっていたんですか?
それはもうすごい勉強しました。勉強だけはすごくしていましたよ。

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TVアニメ版「進撃の巨人」Blu-ray第5巻。初回特典として、諫山氏原作のフルカラーコミック(80ページ)が封入される。
――勉強(笑)。「進撃の巨人」に強く影響がある作品として「マブラヴ オルタネイティヴ」(アダルト向け恋愛アドベンチャーゲーム)というゲームの話もいろんなところでされてますよね。あれも結構激しい内容だと思うのですが、この部屋でプレイされたってことですか?
師匠みたいな同級生がいたんですよ。

――こういうことに関する?
そうです。その師匠の影響でエロ小説を読むようになり、そのあと「マブラヴ」を作ったアージュっていう会社の「君が望む永遠」という名作ゲームにはまったんですね。その後のラノベとかいろんなものに影響を与えた作品なんですけど。その流れで「マブラヴ」もプレイしたんです。それが最初はエロゲーだと思ってプレイしていたら、すごいSFだったというか、あらゆるものを詰め込んだ作品でものすごく影響を受けてます。

――どういう部分にですか? 世界観やストーリーですか?
“作り手の姿勢”に一番影響を受けてます。“お客様”に楽しんでもらおうとか、いい気持ちになってもらおうというんじゃなくて、嫌な思いをさせてやろうとか、トラウマを負わせてやろうとか、そういう姿勢ですね。

――おおお・・・そのあたりが今回お聞きしたいことの中心部です。
たとえば萌えキャラが、振り向いたら宇宙人に食べられているところだったり、しかもそれが解剖学的に描いてあったりですね。上顎の上から中身が見えたりとか刺激の強い絵が、突然出てくるんですよ。今でこそ、こういうゲームがある、ってことが有名になっているのでそんなに驚きはないかもしれないですけど、発表時にリアルタイムでこれを見ているとすごく混乱しておかしくなりそうでした。そういう部分が本当に独特なんですよね。

――見ている人を裏切ったり、ショックを与えたりですか。
“悪意”っていうんですかね。受け手のことをまったく気にかけていないっていうか、ただいたずらに傷つけてやろうっていうか、そういう姿勢をもろに食らってしまったんです。
ぬ~べ~の人食いモナリザもそうなんですけど、トラウマですよね。その時は本当に困ったんですよ。怖くてトイレにも行けなくて。でもそれが財産のように感じるんですよね。

――え、その“悪意”みたいなものが?
ファストフードみたいに誰もが簡単に楽しめるもののよさもあるんでしょうけど、僕はゲテモノというか、記憶に刻まれるもの、そういうものに影響を受けてきたし、自分でもそういうものを作りたいと思っています。

――トラウマ体験が人生を豊かにすると?
そうです。嫌な体験ですね。
多分死ぬときに思い出すのは、そういう地獄のような体験から脱した時のことだと思うんですよ。そういうものを「いや~、あの時は頑張ったな」「やることやったな」って思うんじゃないかと。そういうのを走馬灯に見ると思うんですよ。いかに豊かな走馬灯を最後に見れるか、ということに生きているところあります。
RHYMESTERの方がラジオで、人生は死ぬまでの暇つぶしって言っていて。その方の「フラッシュバック、夏。」って曲の歌詞にも「きっとすべては最期の一瞬に見るという走馬灯の準備」って出てきて。その影響もありますね。

――つまり、そういう走馬灯に加わるような体験を作品を通して読者に与えたいってことですよね・・・。諫山さんご自身は、マンガやゲームなどのメディア以外でのトラウマ体験というのはあるんですか?
ありますね。小学校の時、サッカークラブに入ってたんですけど、ある日思いっきり蹴られたボールを真正面から顔面に受けたんですよ。

――え、それ・・・ですか?
それ以来怖くなってしまってサッカーどころじゃなくなってしまったんです。

――顔面バーン!がそんなに深く・・・。
それで向上心がまったくなくなりました。

――顔面バーン・・・。
サッカーを楽しもうとか、うまくなろうという気がまったくないまま、でもやめられずにサッカーを続けなくちゃならなくて。親が運動音痴で、そのコンプレックスを僕を使って解消しようとしたんでしょうね。半狂乱で「やれ」と言われて。
仲のいい幼なじみたちのいるチームなんですけど、その中で自分は落ちこぼれであるってことを自覚するというか、「自分は徹底的に役に立たない存在なんだ」と思い込むことで自分を保つというか。自己否定というものをこの時にものすごくしたっていうのはありますね。

――なんらかの形で「役に立つ」と思い込むことで自分を保とうとする人も多いと思いますが。
だと思うんですけどね。でも、ちょっとやる気を出すと試合に出されるんですよ。出されたらすごく困るんですよ、サッカー楽しくないし、幼なじみたちが作る空気もね、「おまえ早く交代してくんねえかな」って感じなわけです。口には出しませんけどね。それもう耐えられないんですよ。だから自分を二度と試合に出さない方向に向かったというか。役に立たない人間に向かったというか。

――絶対にやめられない状況のなか、自分を保つために徹底的に自己否定したと。でもそこで、役に立たない人間になろうとするというのは、ずいぶん思い切った決断ですね。
役に立つようになって、成長することで、解決しようというのは、今になってからは少し思うんですけど、当時はなんかこう、やることなすことすべて裏目に出るというか、積極性を出すと人に迷惑をかけることばかりで。そういう思いが、いろんなことの前提になっていったような気がします。

――やる気を出すと試合に出されて迷惑になるから、やる気を出さないで生き延びる。
そうです。今思えば、その経験が、あらゆることの地道な努力を否定する考えになっていったんだと思います。勉強も、その他のいろいろなことも。

――顔面にボール当たったがためにそこまで。
はい。努力しちゃいけないんだ、っていう考えに行き着きました。

――そういうトラウマが、みんなにも必要だということですか?
いえ、まったくそうは思いません。もしそういう子がいたら救ってあげてほしいです。

――でもそのトラウマ体験がなかったらマンガ描いてなかったかもしれないですよね。
そうですね。劣等感があったからマンガを描いて、それをお金に変えて生活できているってところがあります。だから過去に戻ってその劣等感をなくしたいかと言えば、そうは思わないです。今がなくなってしまいますし。でもそういう劣等感にいま苦しんでいるんだとしたら、ない方がいいですよね。

――いま劣等感に苛まれている真っ最中の人はどうしたらいいと思いますか?
何か作ったらいいと思います。音楽を演奏するでも、マンガでも。表現したら結構救われる気がしますね。逆にいうと、劣等感のある人は、何か表現せずにいられない人が多いと思いますよ。

――さきほど、努力しちゃいけないんだ、という考えに行き着いたという話でしたけど、マンガを描くってそれ自体がものすごい努力を必要とすると思うのですが?
マンガを描くのは宝くじを買う行為だと思ってます。宝くじを買うのは努力ではないって考えなんですよ。

――マンガを描くことが宝くじを買うことなんですか?
そうですね。やっぱりギャンブル性高いと思います。それで生活するのはすごく難しいことだと思うし。

――宝くじは買うだけだけど、マンガは描かないといけないじゃないですか。
マンガに挑戦するってことは宝くじ買うような感じですよ。それに僕は絵を描くよりストーリーを作ることをしたいと思っていたんで、地道な努力で画力を伸ばそう、真正面からぶつかろうという気はなかったし、今もないです。

――そのマンガで、生活できるどころじゃない成功をしているわけですが、日々、締め切りに追われているわけで、それも地味な努力という感覚はないんですか?
ないですね。マンガを描くことはやっぱりどこか遊びというか仕事とは思えてないです。

――“働く”ってなんですか?
自分が“働く”という実感を持ったのは、上京してしばらくやっていたネットカフェのバイトです。週3日のバイトなんだけど、きつかったです。あの時の方が人のためになにかしているという感じがしました。

――人にためになにかするのが嫌なんですか?
いや、それは楽しい部分。掃除してお客さんに気持ちよく使ってもらうというのは楽しいです。それはマンガにも活かされていると思うんですけど。ただ、バイト先が繁華街の池袋で、しかも深夜とかに、酔っぱらいがわーっと来て、どうしようもないんですよ。むちゃくちゃなこと言うし、その辺でゲロ吐いたり、うんこしたり。その時には、人を憎むということすらできなくて、この人たちとは意思の疎通ができない、人間じゃないんだと思い込むことにしました。動物園ですよ。うんこの始末とか。

――そういう部分がきつかった?
いや。自分の仕事のできなさ、ですね。サッカークラブで感じたような劣等感、集団の中で自分が劣っている部分というのを感じてしまうんです。大人なのでさすがに必死に仕事を覚えて頑張ろうとするんですけど、人より劣っていると感じましたね。僕はマンガ描いてなくて普通の仕事についていたら、相当つらかったと思います。

――酔っぱらいたちが巨人の原型のひとつだという話を聞いたことがあります。
ええ。でも巨人たちに関しては、最初は怖く見せたいという一心だったんですけど、いまは可愛いものになってきたりもしてます。いや、わかんないですけど。

――描いてるうちに変化してきたんですか?
そうです。無邪気なおじさんって可愛いですよね。

――諫山さんにそれを受け入れる余裕ができたんでしょうか。いま当時のような酔っぱらいに出くわしたらどうしますか?
全力で関わらないですね。

――あ、そこはそうなんですね(笑)。
酔っぱらいに対応してた時は店員という立場でしたから。店員に対して酔っぱらいは容赦無いですから。獲物だ! くらいの感じですよ。それで店員という立場上逃げるわけにもいかなくて。

――そういう忌まわしい過去をマンガの中で解消していっているような感覚はありますか?
それはあって、通過儀礼のシーンとかを意識して描いているんですけど、自分がどこか大人に成れてない感じがするんで難しいところでもあります。

――まだ大人に成りきれてない感じがするんですか?
ちょっと自信ないですね。

――「進撃の巨人」は強烈な成功体験ですよね。それで自信を持ったということは?
マンガが支持されたことで、調子にのることはあると思います。というか、調子にのっていると思います。すごく嫌なんですよ、調子にのることって。すごくみっともないと思いますし、そんな嫌なこと絶対しなくないと思っているんですけど、それでも、自分のコントロールできないところで調子にのってると思いますね。生活の心配をしなくていいという時点で、ものすごく性格に影響が出ていると思います。

――危機感を感じるんですか?
生活できるかどうかの危機感はなくなったかわりに、そういう危機感の感覚自体を失ってしまう危機感というのがあります。

TVアニメ「進撃の巨人」
――最初は宝くじ感覚ではじめたマンガだったわけじゃないですか。それが成功して、モチベーションは当初と変わってきていますか?
最初の頃はやっぱり“生活をすること”が目標でした。それからだんだん生活できるようになったら、自分の好きなことをしよう、そのために描こうという気持ちになって、さらにその後アニメになったので、またそこで少し意識が変わりましたね。アニメで認知度が段違いにあがったので、そうなると責任感みたいな意識が生まれます。これをちゃんと終わらせないと、という気持ちが強くなってきてます。

――終わらせ方ですか。「進撃の巨人」の終わらせ方の構想は連載当初から決まっていると公言されてましたよね。そこもゆらいでいるんでしょうか?
構想もゆるいし、今になって新しくできた設定もあるし、思いもしなかったキャラクターがすごく動き出したりするし。

――物語自体が勝手に動き出してるんでしょうか。となると最初に考えていた結末と違うものになる可能性もある?
そうですね。

――それはものすごい変化ですね。僕はこれまでのインタビューを読んだり、今日お話を伺っていて、最終的にものすごい度肝を抜くトラウマ的な終わらせ方を画策しているのかと思っていました。
それも迷ってますね。初期衝動としてはトラウマを与える系だったんですけど。例えば、「ミスト」って映画は、見ている人全員道連れで殺してやるみたいなところがあるんですけど、そういうことがやりたい気持ちがあったんですが、今は、アニメを経て結構な層の方々にご支持をいただいて、さすがにそんな犯罪的なこと、悪意のこもったことはできないというか、そもそもそれが本当に自分のやりたいことだったとは思えなくなってきているところがあります。

――おおお・・・。
迷ってますね。
あの、街角で変わった行為をしてる人とかいるじゃないですか。片や、その横を通り過ぎて行く品行方正な普通の人がいる。どっちに興味あるかっていうと前者ですよね。それと同じような意味で、悪い人はニュースになるけれど、普通のいい人っていうのはニュースにならないですよね。そう考えると、エンターテイメントって、よくない行為のことなんだなって思うんです。それに自分が興味を持つのもそういうものなんですよね。

――裏切りたい。
そうですね。

――でも、迷っている。
はい。

――諫山さんがどういう結論を出されるのかすごく楽しみです。


大好評のアニメに続いて、実写映画化の情報もついに解禁! 平成「ガメラ」三部作や「ローレライ」、「のぼうの城」などを手掛けた樋口真嗣監督に、脚本は渡辺雄介氏&町山智浩氏のタッグが担当、諫山氏も脚本や登場キャラへのアイデアを出すなど、原作ファンにとっても期待が高まる! 2014年初夏に撮影がスタートし、2015年に公開予定とのことなので、続報を待とう。
■ 5つの質問 一問一答
1: 一番影響を受けたものを教えてください
「ARMS」
2: この職に就いたきっかけは?
流れです
3: 一番好きな映画は何ですか?
第9地区
4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
ももクログッズ
5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
多いです
取材・文:伊藤ガビン
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