アイルトン・セナの伝説の鈴鹿最速ラップを音と光で甦らせろ! Hondaインターナビ dotsプロジェクト「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」制作陣インタビュー!

2013.09.27 Fri

 

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後列左から:藤岡将史(電通クリエーティブX|プロデューサー)、真鍋大度(ライゾマティクス|アーティスト/プログラマー)、保持壮太郎(電通|プランナー/コピーライター)、菅野薫(電通|クリエイティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト)
前列左から:外山良子(電通クリエーティブX|プロデューサー)、大来優(電通|アートディレクター)、キリーロバ・ナージャ(電通|コピーライター)、澤井妙治(Qosmo|サウンドディレクター)、関根光才(ディレクター)
photo by zenharu tanakamaru
クルマと人の豊かな関係を考えるHondaの「dots」プロジェクト。1989年のF1日本グランプリ予選、マクラーレン ホンダ MP4/5でアイルトン・セナが鈴鹿サーキットの当時世界最速ラップを記録した。その走りは伝説として歴史に刻まれている。当時、セナのパートナーだったHondaはマシンのエンジンの提供のみならず、他のチームに先駆けレース中の走行データを解析、記録するテレメトリーシステムを導入し、セナの世界最速ラップを生んだ。テレメトリーシステムは、アクセル開度や、エンジン回転数、車速の変化などの走行データをリアルタイムに記録し、レースの更なるレベルアップに貢献した。

今回ご紹介する映像「Ayrton Senna 1989」の主人公は、このテレメトリーシステムによって記録されたテレメトリーデータ。インターナビのWebサイト「dots lab by internavi」にて公開されたその映像は、テレメトリーデータからアイルトン・セナの最速ラップを音と光の演出で再現したもの。実際の鈴鹿サーキットに設置したスピーカーとLEDライトの超巨大インスタレーションを撮影している。本作を手掛けた、菅野薫(電通|クリエイティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト)、真鍋大度(ライゾマティクス|アーティスト/プログラマー)、澤井妙治(Qosmo|サウンドディレクター)、関根光才(ディレクター)の4人に、このモンスター級のプロジェクトについてインタビューした。

Honda「Sound of Honda - Ayrton Senna 1989 -」
《ALL PROJECTS》cd/creative technologist/pl: 菅野薫|c/pl: 保持壮太郎、キリーロバ・ナージャ|ad/pl: 大来優|creative technologist/pl: 米澤香子、三浦直也|promo: 植田みさ|account dir: 鏑木崇雄、佐藤琢磨、金聖源、平野貴詩|client supervisor: 三河昭広、澤戸寛明
《FILM》dir: 関根光才|ca: 上野千蔵、国枝礼樹、浅賀達志|a-ca: 平野哲朗|l: 甲斐洋輔|a-l: 佐藤巧|key grip: 市原登志幸|camera car: 寺島厚司|artist/prog/se: 真鍋大度|LED installation pr: 千葉秀憲|prog: 比嘉了|LED system support: 玉田邦夫|LED installation support: 柳澤知明、本間無量、堀宏行|laser support: 山本龍哉|sound dir: 澤井妙治|sound des: 河村知之|sound eng: 田鹿充|sound system: 東雅明|recordist: 高橋勝|SFX: 鴫原大輔|ed: 瀬谷さくら、遠藤知洋|mixing eng: 綾城重理人|pr: 藤岡将史、外山良子|pm: 宮下研也、平田日向子|web pr: 石川治彦|a: 電通|prod co: 電通クリエーティブX|digital prod co: Rhizomatiks、Qosmo
――公開するや否や世界中で話題となったこのプロジェクト「Sound of Honda」ですが、HondaのF1復帰のニュースと相まって、多くの感動を呼びました。
菅野薫(以下、菅野):タイミングに関しては、2015年からのHondaのF1復帰の発表など、いろいろと偶然が重なったんです。実は僕がインターナビを担当し始めた2011年の初頭から、「Sound of Honda」という企画を提案していました。Hondaのモノづくりの資産の大きな一つはエンジンです。ホンダらしいエンジン音って特徴があって、ドライバーにとってドライブの体験として大事なファクターです。
インターナビは、ドライビングライフを豊かなものにするサービスを提供するブランド。スマートフォンなどを使ってHondaの象徴的なマシンのエンジン音を体験して楽しんでもらうというアイデアは当初からあって、最初に「Sound of Honda」のアプリとしてカタチになりました。

往年のHonda車のエンジン音をiPhoneで気軽に無料で楽しめるアプリ「Sound of Honda」。マクラーレン ホンダ MP4/5のサウンドも追加されている。
《APP》designer: 金原崇人(METAPHOR)、山口幸太郎|sound dir: 澤井妙治|sound des: 河村知之(Studio MUU2)|prog: 徳井直生(Qosmo)、浦川通(Qosmo)、吉村隆則(Studio MUU2)|pr: 石川治彦(Shipoo)
菅野:アイルトン・セナの鈴鹿最速ラップを音の光で再現したこのムービー「Ayrton Senna1989」は、アプリケーションの「Sound of Honda」のプレゼン資料に追記した「この仕組みを使えば、セナのテレメトリーデータからエンジン音を再現することも出来ます」というメモ書きから始まりました。テレメトリーデータというのは、80年代後半にHondaがF1レースに導入した、走行中の車体の状況を通信で取得し、車体状況をリアルタイムで把握、記録し、ドライバーにフィードバックして走りをよりよくしていく技術。
それは今インターナビがやっている、日本中のクルマの走行データをリアルタイムで集めて、そのビッグデータから誰よりドライバーにとって有益なサービスを生み出す思想の原点であると感じていたんです。

Hondaのインターナビをはじめとしたテレマティクス技術開発チームにもセナのテレメトリー技術担当だった方が在籍していたり、「面白いんじゃないか」と評価していただいて、Qosmoの澤井(妙治)くんやライゾマティクスの真鍋(大度)くん達と共に実現に向けての試行錯誤を始めました。

当初はセナのエンジン音の再現ということしか決まっていなかったアイディアが、鈴鹿サーキットに実際のスピーカーを並べてセナの走りを再現するという無謀なまでに巨大なインスタレーションの企画にジャンプしたのは、電通社内のクリエイティブチームの中でもテクノロジー担当でないコピーライターやアートディレクターからの提案でした。鈴鹿サーキットでセナの伝説の走りを再現って、テクノロジー担当としては技術的な壁が何個も思い浮かんでしまって言い出しにくいことですが、出来上がるものを想像すると間違いなく面白いので、本気で考えてみようという気持ちになりました。

1989年10月21日。第15戦日本グランプリ予選本選2日目。ホンダのエンジニアによって記録されたアイルトン・セナが樹立した世界最速ラップ1:38.041のテレメトリーデータ。この1枚の紙からプロジェクトはスタートした。
※画像クリックで拡大します。
真鍋大度(以下、真鍋):それを最終的に映像で見せるとなると、音だけだと物足りないものになると思ったんです。その場で出ている音なのか、後で付けたのか、見ている人にとって曖昧になりそうな予感がありました。そこに光があることでより分かりやすく伝わるだろうと思い、LEDを提案しました。

――テレメトリーデータは、紙に心電図のような波形でアクセルの開閉具合などが記録された走行データですが、そこには当時のスタッフの想いも刻まれているわけです。この企画で目指した最終的なゴールは?
真鍋:お宝ですよね。凄いものがあるんだなって思いました。

澤井妙治(以下、澤井):紙には結構びっくりした。

菅野:この紙はセナが走っているその瞬間に書き込まれた、セナが残した足跡なんですよね。受け取った時、手が震えました。その気持ちをみんなに届けることがチャレンジでした。データのビジュアライズって今や様々な分野でめちゃくちゃありますよね。このプロジェクトはデータの単なるビジュアライズにとどめず、そこにエモーションやストーリー性をもたせて“データがひとの心を動かすことが出来るか”ということに挑戦しています。とは言え、すごく難しくて。

澤井:僕らが目指したのは、気配を甦らせられるかということ。当時の映像を使うのではなく、音と光だけでの再現ですから、音量的に何デシベル出ているから再現出来ている、いない、がプライオリティではなく、聞いた時の印象として気配が甦っているかどうかなんですね。それが重要な要素でした。

デジタイズされたデータと再現されたエンジン音は「Ayrton Senna 1989」サイト上に公開されている。
《WEB / Sound&Data》dir: 永嶋敏之(METAPHOR)|sound dir: 澤井妙治|designer: 金原崇人(METAPHOR)|web gl developer: 増田一太郎、関洋輔(METAPHOR)||pr: 石川治彦(Shipoo)
※画像クリックでサイトにアクセスします。
真鍋:それにしても、5.8kmのインスタレーションという信じ難いスケール。「本当に出来るのか?」というのがあったので、「出来ることは早めに」とシミュレーターを作りました。それは、テレメトリーデータをデジタイズして、実際の鈴鹿サーキットの図面と照らし合わせたLEDのシミュレーターなんです。LEDを何個、どのように置いたら、こういう見栄えになって、こういうアングルだと、これくらいの高さで見えます、というものですね。現場の想定は、シミュレートでどんどん進めていきました。
ただ、音は未知の部分が大きかったので、現場でどうなるんだろうっていうのはありました。

澤井:音に関しては、まずは「音のスピードがどういう環境でどう動くのか?」という検証したり、スピーカー選びにも気を使いました。音が速いスピーカー、音を鳴らした後、すぐに止まってくれるスピーカーでないと、音がダラッとしちゃうんです。
その後、本番用のスピーカーを80mの規模で並べて、音量や速度がきっちりと動いているかを体感するテストをしています。テストではみんなの表情を大切にしました。みんなの表情が「いける!」ってなっていたら、あとは本番で80mの断片をひたすら広げていけばいいわけですからね。

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鈴鹿サーキットでの再現に先駆けてスピーカーとLEDでの再現テストの様子。80mの直線に本番と同じFUNKTION-ONEのスピーカーとLEDを並べて、映像の見え方も検証している。
――再現に使った走行音の収録はどうされたんでしょうか?
菅野:現存しているMP4/5のエンジン音を回転数、ギアごとにサンプリングして、テレメトリーデータを当て込んで再生するというやり方です。当時セナが乗っていたマクラーレン ホンダMP4/5は、栃木県のコレクションホールに収蔵されていて、デモンストレーションなどで適宜運転されるんです。現存するマシンをサーキット上で走らせてあらゆる状況のエンジン音を録音することを試みました。
収録に関してはマイクを車載したり、路上で撮ったり、離れた場所から音の反響も含めて録音したりしました。

――“セナ足”と呼ばれる特徴的な走りを再現するための苦労もあったのでは?
澤井:エンジンサウンドのサンプリングを担当されたサウンドデザイナーの河村知之さんの執念というか怨念しかありません(笑)。河村さんは、クルマのゲームの領域で昔から第一線で活躍されているエンジン音をシミュレートして再現するプロなんです。

再現されたセナのエンジン音のスペクトラム。音量的はほぼ常にマックスの状態だが、細やかな倍音構成の変化で音色が変化している。
※画像クリックで拡大します。
菅野:波形に河村さんの顔が見えるって言われているよね(笑)。
鈴鹿サーキットって跳ね返りの音が凄いんです。今のエンジンは当時より25年経っている分、超厳密にいえば誤差はあると思うんですが、河村さんが当時の音に再現するチューニングをしています。

■ 超巨大インスタレーションの設営作業
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全長5.8kmに及ぶ鈴鹿サーキットにスピーカーとLEDを設置。LEDは10mの等間隔で配置された。
――規模的にも世界で例を見ない巨大インスタレーションですし、相当数のスピーカーやLEDを配置し、調整していくわけですが、思い描いていた結果を得ることは出来ましたか?
真鍋:手前味噌系でアレですけど、実際にコースで走らせた時、シミュレーターでの計算通りにいった時があって、それは感動しましたね。「あ、計算合ってた!」って。
建て込み中のエピソードで印象的だったのが、鈴鹿サーキットは一般の人も入れるようになっていて、子供が「あー!クルマが走ってる!」って来てみるとクルマがいない・・・。

澤井:子供はクルマがいないのが分かると「はてな?」という不思議そうな表情の後、「すごーーい!」ってなるんですね。一方大人は「はてな?」ってなって、「なんだよ、走ってないじゃん」って落胆する傾向にあるのが個人的には興味深かったです。

一番最初に現場で音を鳴らした時、低音がワーーーッと出ていて「走ってる走ってる!」って光才くんが言ってくれて「よかったーー!」と。音を鳴らした瞬間、取り敢えずスタートラインにはちゃんと立てたという実感がありました。セッティング中も集中していると、メインストレートを逆走してきた作業車と「ヤバイ!ぶつかる!」って一瞬思った時に「いけた!」って。やっている自分が一番分かっているはずなのに。

真鍋:本当に凄い臨場感だったよね。「ヒューーン、おっ?」って思ったらスピーカーだったっていう。それくらい臨場感があるんです、サーキットで聞いていると。

関根光才(以下、関根):アングルチェックしている時に「轢かれる!」って何度も思いました。

澤井:でも僕、コース上で音を聞いていないという痛恨の失敗が。それが一番ヤバかったらしいんですが。そうだよね・・・って。もうこんなこと二度とないでしょうね・・・。

関根:LEDやスピーカーの設営だけでも大変なことになっていた状況でしたね。

澤井:図面で作業していて、現地に行くとその規模に圧倒された。そこまでチェックしに行こうとなっても、むっちゃ遠いんですよ。想像を遥かに超えていて。

真鍋:歩いて行けないから原チャリで移動。バイトが音を上げて帰るっていうね。東京ドームを経験しているけど、その比でないスケール。どういうことかと言うと、サーキット上には電源が無いんですね、当たり前ですが。じゃあ、まずは電源を5.8km這わせるところから始めるわけです。電源の束を現場で目の当たりにしたときに、ヤバいなって実感しました。

菅野:さらに言うと、そもそも今回のプロジェクトをやるのに十分な電力をサーキットに入れるという工事を事前にしています。

澤井:スピーカーも音を出すにはアンプが必要で、それを使うにはジェネレータもアンプの台数分必要。メインストレートは傾斜があって、そこにスピーカーを水平に立てるために木片を作って確保する作業だとか・・・(笑)。

真鍋:えげつないですよね。

澤井:現場で一番苦労したのは、メインストレートのスタンドの屋根って凄い反響するんです。スピーカーのフェイスを5度上に向けるだけで、全然聞こえ方が変わってしまう。しかも、音は音源(スピーカー)の位置からの距離によって遅れて聞こえる(音速:約345メートル/秒)つまり、300m、600m先のスピーカーから流してる音が空気を伝わる段階で遅れる、しかも風速にも影響されたりするんです。現場ではそういうのを決めていく作業が延々と続きました。

――メインスタンドを視点として作っているんですね?
菅野:映像の中でも観に来てくださったみなさまや、オペレーションをしている大度くんと澤井くんがいる場所、メインスタンドを中心に構築しています。機材のコントロール、再現される音も、最終的にメインスタンドをスイートスポットに設定しました。

■ 関根光才監督の映像演出における挑戦
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撮影にはALEXAを使用。夜中の撮影のため、セナの走った軌道(LED)を捉えようとすると、スピーカーが闇に沈みんでしまうという課題が。試行錯誤を重ね、スピーカー1個に対してスピーカー用のライトを一灯当てることでクリアした。
「一番考慮したのは、被写体の広大さです。事前に、プレビズでスピーカー一個単位で細かく全てのアングルを決めています。5.8km、一周分、アングルが似て飽きないように努めましたが、プレビズ制作だけでも丸一日掛かりで苦労の連続でした。絶対に必要だと思ったのはクレーンです。被写体の規模を考慮し、ハイアングルに入れるように準備をしました。撮影に関しては、とにかく撮影、照明、特機、S3(カメラカー)スタッフの鬼の働きがあって実現出来た作品です」(上野千蔵カメラマン)
――映像の演出を担当された関根監督にとって、このプロジェクトはどういうものでしたか?
関根:音のインスタレーションを映像にして残すことが僕のミッションです。それって実際に(鈴鹿サーキットに)体験出来る環境が作れるかどうかが重要であり、映像を見る人にも刺激的な結果に繋がると思ったんです。なので、その環境を作るということを優先しました。
撮影となると、単純に被写体がとてつもなくデカい。5.8kmある被写体って誰も経験したこともないサイズだと思うんです。一つのことを決定、変更するだけでも、とんでもない物量と総量になります。カメラをどう置くのかを決めるのも一筋縄ではいかないんです。とにかく技術的なことを含めて、課題が満載でした。

演出面でも、LEDを使うのでやっぱり夜の撮影になります。そうすると、今度は照明をどうするかという話になってきます。LEDの種類は? 置き方は? と。
巨大な被写体を撮りきるために、撮影スケジュールや段取りが密接に関わってくる。そういう実務的なハードルが山のようにありました。そういう中で何が出来るのかというのを考えるのが一番大きかったです。

――“データで感動をつくる”というミッションには、どう取り組んだのでしょうか?
関根:セナの走りの再現を見ている人の存在しかないと。「観客は本当に必要なのか?」という議論にもなりましたが、それがないと意味が成立しないと思ったんです。当時、レースに関わった人、セナの音を覚えている人たちがいて、その人たちを通して、映像を見る人が初めて追体験が出来るわけです。そういう人の表情を通して、「あ、ちゃんとセナが甦っているんだな」ということが分かる仕組み、第三者の存在の必然性がありました。規模の大きさから、現場は容易に混乱する中、エモーショナルな表現にどう取り組むのかは、難問でした。

■ セナとHondaの魂を背負ったプロジェクト
Honda「Sound of Honda - Ayrton Senna 1989 -」プロジェクトムービー
dir: 中西尚人|ca: 浅賀達志、宇崎慎二|sound dir: 澤井妙治|ed: 和田壮史|mixing eng: 三神健太|pr: 藤岡将史、外山良子|pm: 宮下研也、平田日向子|a: 電通|prod co: 電通クリエーティブX|cast: 木内健雄、澤戸寛明、川合一仁、熱田護、金子博、今宮純、真鍋大度、河村知之、澤井妙治
――当時のエンジニアやセナの本気度や、現在のHondaチームの想いも背負っての挑戦ですが、みなさんはどういう想いで向かい合いましたか?
菅野:この題材を下手に扱っちゃいけないものだというのはありました。2015年以降、Hondaはマクラーレンと組んで次の黄金時代を築こうとしている、Hondaの歴史上においても凄く大事な局面だし、再現する題材は日本のモノづくりがカッコよかった瞬間の一つでもあるので、大事な想いがかなり詰まっているのです。Hondaの社員の僕たちの上の世代の多くの人は、それが好きだったからHondaに入社してきたような人たちがたくさんいるので、扱うのは凄く勇気のいることでもあったし、プレッシャーはありました。

真鍋:やっぱり、「デジタイズする作業を僕らがやってもいいのか?」っていう。今回のプロジェクトで一番大切な作業だと思うんですが、Hondaエンジニアの人が僕や比嘉(了)が作ったそのシミュレーターを見て、凄く嬉しそうにしていて、「あ、いけるのかな」って。バリバリの一流のエンジニアの人に喜んでもらえたというのは、凄く嬉しかったです。

澤井:当時のF1はヨーロッパが主流で、ブラジルや日本はアウトサイダー。それが理由で(セナとHondaとの間に)リレーションが生まれたんじゃないかっていう話があって、そういうのを聞いていたら、僕が海外にライブをしに行った時の気持ちとかを思い出したんです。通じ合うものがあったんだろうなって、そう感じました。

菅野:すごく前に大度くんが「ぼくたちが子供のころのHondaやソニーって凄くカッコよくて、みんなが誇りに思っていて大好きなブランドだった。日本のモノづくりやエンジニアリングやクリエーションというものが世界においてリスペクトされていて、自分達も欲しいと思っていたのが薄れてきている。僕は日本のクリエーションがもっとカッコよくなってほしいんですよね」って言っていたのが僕の中に残っていて。
昔は、お給料貰ったらHondaのクルマを買うんだという人多かったと思うんです。広告屋なので、そういう側面で、ちょっとでもブランドに貢献できたらいいなという気持ちもありましたね。

真鍋:子供の頃、F1って特別な感じで、日本を代表するものだった。今はどのジャンルも、実力あるのに上手いことやられている感じがあって。だからこのプロジェクトはそういうカッコいいことをアピール出来るし、このスケール感のプロジェクトなんてなかなかないだろうなって。たぶん一生こんなにケーブル巻くこともないだろうなって(笑)。凄くいいプロジェクトだったから、完成して良かったですよね。

澤井:海外からのフィードバックもあんだけ早く集まるって凄いよね。

菅野:このプロジェクトは、HondaのオフィシャルFacebookとTwitterで一度だけの告知にも関わらず、数時間後には米国WIREDの記事になったりしたのですが、正直どういうルートで広がっているのかも分からない。海外から「Hondaカッコいい」「Hondaありがとう」って反響が凄くきたのにも、広告として本当に正解だな、意味を成しているなと思いましたね。
本当に、実現するということだけで精いっぱいだったところも含めて、やりきった達成感が拡散したのでしょうか(笑)。

新しいコンテンツ「3D-View」を9月26日に公開。WebGLテクノロジーを使って、3Dでセナが鈴鹿サーキットで記録した最速ラップの1周分のエンジン音と走行軌跡を様々な視点から体験出来る。
《WEB / 3D-View》technical dir: 對馬正(fuzz)|web gl developer: 安井健太郎(fuzz)、角田達哉(fuzz)|CG dir: TAKCOM(P.I.C.S.)|sound dir: 澤井妙治|dir: 永嶋敏之(METAPHOR)|designer: 金原崇人(METAPHOR)|prog: 増田一太郎、関洋輔(METAPHOR)|pr: 石川治彦(Shipoo)、藤岡将史、外山良子
※画像クリックで拡大します。
――最後に、このプロジェクトを通して得たものを教えてください。
菅野:僕はこういうホンダブランドにとって大事なテーマで、これだけの規模のことをやれるチャンスって滅多にない中、大事なプロジェクトをこのチームと一緒にやれて、世の中に出せたということがとても感慨深いです。

関根:日本のエンジニアリングっていう、さっき大度くんの言っていたこと、80年代の憧れられていた頃、世界一だった頃、それって失われていないはずだけど、ステップダウンしている現在、セナと一緒に気持ちや魂を燃やすことをやったんだなと思います。広告だけど楽しんでやれて、モノづくりをしている人間としてこういうカタチとなって嬉しいですね。

澤井:僕は、ここ10年でやっていたことの集大成というか、全ての要素が入っていた。ただスピーカーをいっぱい置いてこういう音を鳴らすというんじゃなくて、F1の音を再現するだけならロジックで大体予測出来るのですが、アイルトン・セナっていうヒーローの音を再現、しかも鈴鹿という場所でやるっていうのが実際に出来た。
僕らの世代って、子供心にセナは凄く憧れの存在だった。F1好きというのを除いても強烈に刻まれていたので、同世代のチームでこの企画に取り組めるっていうのは感慨深いものがありました。振り返ってみると、ジミヘンの音を再現するくらい凄いことで、プロジェクトの期間中「これでいいのか?」って自問自答を繰り返していましたね。

関根:僕らの世代にとっては、マイケル・ジョーダンやセナって数少ない貴重なヒーローなんですよね。その軌跡に携わるのは面白かった。

真鍋:このプロジェクトはドキュメンタリーだと思うんですよね。事件じゃないですけど、それをちゃんと捉えるプロジェクト。あの1枚の紙からここまでスケールアップするっていうのが凄いことだなって思うし、スケールアップしているんですが、データに忠実なんですよね。セナが走ったと言っても過言じゃないと思うんです。
“データで時代、スケールを超える”、そういうことが出来たのが凄く良かったし、そういう見方をすると色んなデータが世の中にはあって、ここまでのことが出来るんだったら、他にも甦らせるとかいったことに挑戦してみたいなと思いました。

関根:当時のエピソードで「セナの方がデータを超えてくる」って有名な話があって、Hondaがシミュレートした、人間の限界値で作った完璧な走行データをセナの走りが超えてきた、という。そういう、人間の力がコンピュータを超えるっていう話はゾクゾクしますね。

菅野:神みたいなエピソードも沢山ありますよね。セナは凄く耳がいいんですよ。経験則上、マシンからこういう音が出たときにこういうことが起こっているというのを感覚的に凄く知っている。
一方で、他のレーサーと比べても圧倒的にデータをちゃんと見ていたらしいですね。実感値とデータを毎回復習していたらしくて。コンピュータをセナが超えて、それでエンジニアも頑張ってまた超えてくる。人とテクノロジーの関係において、お互いに切磋琢磨している状態という話は、色んなところで示唆があるのではないでしょうか。

■ 5つの質問 一問一答
1: 一番影響を受けたものを教えてください
菅野:Jazz
真鍋:Hiphop
澤井:コロコロコミック、ジョン・フルシアンテ
関根:学生時代、アメリカで写真のクラスを取り、そこで初めて現像、プリントをした時、紙にイメージが焼きつけられる、というのがすごい強烈でした。
2: この職に就いたきっかけは?
菅野:内定
真鍋:退職
澤井:中学生のころから、朝起きれなかったので
関根:上記の経験がすごいインパクトがあったんですが、自分はスチルじゃなくて動画がやりたいな、と。
3: 一番好きな映画は何ですか?
菅野:E.T.
真鍋:「風立ちぬ」(予想)
澤井:フォレスト・ガンプ 一期一会
関根:パリ、テキサス」。「」も好きです。
4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
菅野:Mac、お茶、iPhone
真鍋:水平器、MacBook Pro、レーザー距離系
澤井:Marlboro(メンソールライト)、Mac
関根:パソコン、iPhone、あと・・・なんだろう・・・車?
5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
菅野:論文を読む
真鍋:タイ(バンコク)のローカルブランド
澤井:Powerbook G3とG4でMac OS 9を動かすこと
関根:なかなかなくて困っています。現場が一番おもしろいですかね~。
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