久野遥子が語るCuusheのMV「Airy Me」。1年半を費やした卒業制作は、あちら側がこちら側に“入れ替わる”アニメーション

2013.07.26 Fri

 

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久野遥子:1990年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、現在会社員。在学中は少女や動物、ヤンキーをテーマにしたイラストレーション、立体物、アニメーションなどいまいちグラフィック感のないものを中心に制作。漫画も描いたりします。
2013年7月17日、Dazed Digital上でワールドプレミアされた、Cuusheのミュージックビデオ(MV)「Airy Me」。東京発のレーベルflauに所属するベルリン在住の日本人女性アーティストCuusheは、EP「Girl you know that I am here but the dream」(2012年)で世界のメディアで特集されるなど注目を集めている。彼女のデビューアルバム「Red Rocket Telepathy」(2009)収録曲「Airy Me」の、5分30秒に渡るアニメーションMVを手掛けるのは、1990年生まれの久野遥子氏。多摩美術大学グラフィックデザイン学科の卒業制作として、1年半、独力で作り上げたインパクトのある世界をインタビューでご紹介!

■ 卒業制作として作られた「Airy Me」
Cuushe「Airy Me」
dir: 久野遥子
――「Airy Me」は卒業制作として作られたのですね。
本当は3年生の時、課題で「好きな音楽にアニメーションを合わせる」というので作り始めたのですが、完成しなくて卒業制作になってしまったんです。

――1年半を費やして作り上げられたんですね。
本当に絵を描くのが遅いんです、私。普通だと背景と人物をバラバラに描いたり、背景が動かなかったりというやり方があると思うんですが、私の場合、背景と人物がくっついて描いているので。最後の方は間に合わなくなって友達にスキャンや着色を手伝ってもらいました。

――Cuusheさんの楽曲「Airy Me」でアニメーション制作をしたいと思ったのは?
インターネットでCuusheさんを知って、「Airy Me」を聴いた時に凄く物語性のある曲だなって思ったんです。でも、後で本人に聞いたらそこまで思ってなかったらしいのですが(笑)。その物語部分をアニメーションで補完するものを創ってみたいという、ファン活動的なモチベーションでした(笑)。

――Cuusheさんともやり取りをしながら作られたのですか?
Cuusheさんとは制作の後期に仲良くなった感じでなので、オープニング以外はやり取りをしていません。このMVは2つの楽曲を使っています。タイトル以降の「Airy Me」(1分12秒から)は、4年生の9月に一度完成したんですが、物語的に足りていないと感じたんです。それでCuusheさんにお願いして、私の描いた絵コンテを見て選曲してもらったんです。それがプロローグの約1分のオープニングシーンにあたります。オープニングの楽曲「Steamy Mirror」(ニューアルバム「Butterfly Case」収録曲)は、アニメーションの動きに合わせて、テンポを早くしていただきました。

■物語について:漫画作品と繋がるバイオSFの世界
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1枚1枚手で描いた原画は、総数3,000枚ほどになる。
――楽曲を聞いた時、どんな物語が頭に浮かんできたんですか?
ちょっと恥ずかしいですね(笑)。曲が空間的で、遠くの音、近くの音、そういうのって絶対物語があるなって思っていまして・・・。実は漫画も描いていまして、「Airy Me」と世界は同じなんです。異物になっているものとまだ異物になりきれていないものがいまして、その異物になってしまった方、順応している立場の者ですね、彼らに欲求や愛情や憎しみを求めていった結果どうなったかっていうお話なんです。
「Airy Me」的なものを漫画でやろうとすると難しいというか、30ページくらいでは収まらない気がしていて、30ぺージに収めようとすると、漫画作品「へび苺」になるんです。映像って情報量が増やせるので、より濃い話をCuusheさんの力のある楽曲とで作った、アニメーション版になります。

――漫画家さんとしても活動されているんですね。
漫画は中学生くらいから描いているんです。担当さんがついたものの、子供の描くものなので色々アドバイスをもらいました。一番印象的だったのは、物語に対して「感覚で描くな。構造的に考えろ」と言われたことでした。

――論理的に組み立てていく物語の創り方は、漫画で学ばれたのですね。
これ、でも、掲載されたといっても2年も掛かっているんです。大学2年生の時に描いていて、担当の編集者さんが預かるってことでそのまま放置されていて(笑)。それで掲載されなかったので、気持ちとして、やっぱりこの世界観をもう一度描きたいなっていうのがあって「Airy Me」に繋がっているんです。

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久野酸素「へび苺」
「Airy Me」が完成した頃、「月刊コミックビーム」2012年11月号にて、遂に掲載された読み切り漫画。サーカス小屋を舞台にした、バイオSFと少年少女の恋物語。
――両方ともマッドサイエンティストやキメラが登場する幻想科学的世界ですね。漫画はサーカス小屋が舞台で、アニメーションの方は病院が舞台となっていますね。
アニメーションの方がやっぱり空間を描けるので、ここからあそこまで走るっていうのがエンターテイメントになるんですね。漫画だと空間のどこからどこに行くのって凄いコマ数が必要になって、それを綺麗に絵で説明したからって必ずしも面白くなるわけじゃないというか。あくまで漫画では絵は説明なので、それだとやっぱり漫画として分かりやすい表現にした方がいい。アニメーションだったらそういうディテールがエンターテイメントにちゃんと転化するので、そういう意味で空間をどんどん使える場所にしたいなって考えました。

実はこれ病院ではなくて実験施設なんです。区切られている部屋が沢山あって、生活感がなくて、凄く広い場所を想定しました。映画「シャイニング」のホテルのような感じがいいなっていうのと、Cuusheさんの音がハウリングしたり響いたりしている感じが、病室の感覚かなって思ったんです。
その実験施設で白衣を着た男性が出てくるんですけど、彼がマッドサイエンティストで、近隣の住人は病院だと思っているけど、実はそうでない。中には実験生物しかいないような場所なんです。ベッドに横たわっている患者さんもそうなんです。

――淡い色を主に数種類使い分けて物語を語られていますね。
4色使っています。黄、赤、緑、水色と、それぞれ時間軸の違う世界を描いています。冒頭の部分が一番未来の話なんです。時間軸上は一番新しくて、黄色が一番認識出来ている事実的な時間、あとは妄想でなんですが、緑はそのどっちともつかない世界で、黄色の中にあるどこかの時間なんですが、でも時間軸は違う。時間軸が分かれても認識出来るのかっていうのは、漫画やイラストレーションだと難しいのですが、映像だとすんなり出来てしまうんです。混在しても、観る方は分かった感じになれるので、そういう意味で完全に主観的な時間軸でやってみたいと思っていました。

漫画だと文字情報が先に来て、絵の情報ってなんとなく遅く伝わるような感じがあるんですが、映像だとスピーディーに伝わるんです。なので、映像的にも音楽的にもやっぱりこの表現が出来ると思ったんですね。
そうすることによって、自分がどこまで自分なのか、曖昧になるようなものを目指したんです。

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物語に戻ると、漫画もアニメーションも、最終的には異物がそうでないものに“入れ替わる話”なんです。看護婦さんの脳味噌が弾けちゃう箇所で、看護婦さんがいなくなって入れ替わるという瞬間なんです。だから、ラストシーンではもうナースキャップをかぶってないんです。脳みそがある場所がないので、もう別人という感じです。

――ゾワっとしますね。お話を聞いてまた何度も見ると、新たな発見や秘められた繋がりが発見できそうです。

■ 創り方篇:インスピレーションは手塚治虫と諸星大二郎から!?
久野氏による原画。上段、下段のカットでは、背景が変わる絵(左右)を描き、その後2枚の間を埋めるように描いていった。
※画像クリックで拡大します。
――原画は頭から順番に描いていったんですか?
基本的にそうですが、シーン内でカットの変わる頭の絵を先に描いて、だんだん間を埋めるように作っていっています。
例えば、背景が動くところ、激しく変わるところをまず描いているんです。後ではどうにもならないところなんです。

――下準備としては絵コンテを描かれたんですか? 完成までの1年半で内容は変化していったんですか?
物語の流れは完成作品も一緒です。数ヶ所は過不足なところがあって変えたりはしていますが、物語的には変わっていないです。絵コンテでは、まだ地下室に行くアイデアは無くて屋上を描いています。
逃げるのに屋上に行くのも変かなって思って、地下室を思いつきました。もっと表沙汰になっていない危ないものがある場所が生まれました。

絵コンテの画に差がある理由については、「がっしりと描いているところは、たぶんビジョンがはっきりしていたんでしょうね(笑)」とのことだ。
※どちらも画像クリックで展開します。
――キャラクターデザインはどの段階でされたのですか?
そんなにはっきりとしませんでした。あまり作り込むと作れなくなっちゃう質なんです。そういう意味では、そんなにキャラクターに執着があるわけではないのかもしれません。事前に凝って作っても、動くとまた印象が変わちゃうんで、静止画のところで考えてもなって思うんです。

――アニメーションのタッチは、漫画のそれともまた違うんですね。
アニメーションは本当にギリギリ伝わるラインで沢山描ける線にしています。

――内臓が爆発するようなシーンもあります。迫力がありますが、そういったものが好きなんですか?
あまりグロいの得意じゃないんです、結構怖いと思ってしまうんです。手塚治虫が好きで、「鉄腕アトム」に「十字架島」っていうお話があって、それに出てくるロボットがスイッチを押すと犬や馬になったりするんですが、ある時壊れてしまって混ざって気持ち悪い生き物になるシーンがあって、それが凄いトラウマになってしまって。でも、その皮膚感覚っていうのを再現したいなっていうはありました。それと諸星大二郎「蒼い群れ」(コミック「ぼくとフリオと校庭で」収録)の恐怖感覚も意識したひとつです。

――カメラワークも一つの特徴です。ぐるんぐるん回るアイデアの意図するところを教えてください。
やっぱりカメラを動かしたいというのがありました。空間があると現実感が増すっていうか、そこにいる感覚って単純に楽しいなって思ってしまうんです。
激しい動きは、動けない存在(患者)からすると、視覚自体がもう欲望。そういう意味で熱を帯びて追っていっているのです。カメラが動けば動くほど、患者の情熱が伝わると思って。

―― 一番気合を入れたシーンはどこでしょうか?
やっぱり爆発するシーンです。あそこで滑ってしまったら悲しすぎるって思ったんで、一番ウワッとなる状態を考えました。凄く気持ち悪い感じというか生理的に見たくないけど、でも直接的じゃないというのを考えたんです。顔が割れていって肋骨みたいなのが一瞬見えて、何かが出てくるのが気持ち悪いかなって。「遊星からの物体X」が好きで、あんな感じの4つに割れるっていうのを以前課題でやったので、今回は“膨らむ”という別の動きに挑戦しています。

――繰り返し登場する、意味深なモチーフについても教えてください。
リンゴは知恵の実というか罪の果実というので描いています。蝶は曖昧なんですけど、標本的な囚われるイメージを暗示していて、リンゴから出てくる芋虫は博士に完全に作られたものなので、蝶は博士から生まれた完全な生命体なんです。顔のある蝶も、囚われた中にいるけど、外の世界に出ていきたい欲求があるんです。オープニングは、その予兆のようなものでもあります。

――なるほど。動物のランプはどうですか?
ウサギのランプで、耳に線が入って耳の熱で光っているんです。あれも完全に向こう側の生物で、元々はウサギだったんですけど、もう考えることもやめて完全にモノになってしまった。患者の目線からしても一番なりたくない存在なんです。無自覚でモノになってしまった存在なんです。蝶が飛んでいる時に見えるんですが、天井のランプはウサギだったというわけです。

――今後はアニメーション同様、漫画も続けられるんですか?
担当さんからも漫画は人生経験があればあるほどいいって言われたので、書きたいんですが、好きだからといって近づくとかえって離れてしまう気がして。今描いても面白い漫画が描けるとは思わなくて。そういう意味で、描くよりも溜めていく時期だと思っています。

■ 5つの質問 一問一答
1: 一番影響を受けたものを教えてください
漫画的な表現
2: この職に就いたきっかけは?
映像に関わりたかったからです。
3: 一番好きな映画は何ですか?
真夜中のカーボーイ」「2001年宇宙の旅」「花とアリス
4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
PC、えんぴつけずり(壊れた)、コップ
5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
男性社会
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