網膜の内側で起きている音を可視化したら? 連作第3作目「こうこう」について、大橋史監督が語る!

2013.05.03 Fri

 

「Animatope」「CHANELER」に続く大橋史監督のショートフィルム3部作の第3作目「こうこう」が完成した。自主制作作品として大橋史がこだわってきたシェイプアニメーションの探求、音楽家、羽深由理氏とのコラボレーション作。映像と音の関係についてアカデミックに解剖、再構築してきた最終章となる「こうこう」は、エンターテイメント性の高い仕上がりとなっている。

ノーマン・マクラレンの「線と色の即興詩」、マルコム・サザーランドの「バードコールズ」、元永定正の「ちんろろきしし」、永井一正のイラストレーションといった作品群からのインスピレーションに加え、象形文字やトンパ文字といったアジア風の造形感覚を盛り込んだ「こうこう」について、大橋史監督、音楽を担当した羽深由理氏、滝野ますみ氏による解説をお届けする。

「こうこう」
dir: 大橋史|composer: 羽深由理|mixer: 滝野ますみ|vocal: Luschka|drums: 田中教順(from DCPRG)
――“見たモノを描いたのではない。見ようとしたモノを描くのだ”をテーマにされた「こうこう」ですが、この方向性を決めた理由は?
大橋史(以下、大橋):新作の構想をする時点で、前作「CHANNELER」とは真逆の方向性にしたいという考えがありました。言ってみれば「CHANNELER」の反動で出来たような作品です。「CHANNELER」は“観客の知能に訴えかける作品”を目指したので、「こうこう」は“観客の官能に訴えかける作品”を作りたかったんです。つまり、美術的な文脈の理解がなくても直感的に楽しめる、エンターテイメントに振り切ったアニメーションを作りたいと考えていました。

「こうこう」ではシンプルに“音節の可視化”に挑んでいます。可視化する音節を作曲するのは、「Animatope」「CHANELLER」でも共作した羽深由理さんと、和田敦さんのアニメーション作品「グレートラビット」でもサウンドデザインを手掛けている滝野ますみさんです。
歌と歌詞は、ニコ動カルチャーで人気のシンガーソングライターのルシュカさんを、ドラムに田中教順さんを迎えての制作となりました。

ちなみにこの作品は、羽深さんと滝野さんが在籍する音大の修了・卒業制作でもあるんです。「Animatope」、「CHANNELER」(大橋氏の卒業制作品)と共作を続けてきた集大成と考えると感慨深いものがあります。

■音を目で聴く制作工程とは?
本格的な制作に入る前、50音節表を制作。各音節にどんな運動が適切なのかを記したビジュアライズのルールのスケッチ。
※画像クリックで展開します。
――多重録音を用いたノンナラティブ・アニメーション作品となっていますが、音楽と映像どのように作業を進めていったのですか?
大橋:日本語の音節の面白さを引き出せるように、音楽と映像の起伏で考えて作っています。羽深さんと滝野さんと最初にディスカッションをした時に、ドミノ倒しのような横の流れ=和声とリズムがダイナミック且つアクロバティックに展開するユニークなものにしようと話しました。「CHANNELER」はジェンガのような縦にエネルギーを積み重ねるような、ストイックでスリリングな構成になっています。

絵コンテ。最終的に絵コンテとは違う完成系に仕上がっていった。
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羽深由理:最初に取り組んだのは、音空間のデザインと楽曲構成です。どこで盛り上がる、どこでテンポを落とすといったことを考え、それを元にルシュカさんを中心に歌詞制作を行いました。歌詞のリズム、楽曲構成、大橋さんのイラストを参考に、作曲をしていきました。デモ音源が出来るたびにやり取りしながら修正を重ねています。

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滝野ますみによる5.1ch音空間のデザイン案
滝野ますみ:音空間に関してですが、「こうこう」では5.1chサラウンド規格を採用しています。まるで、映画館のような、音の広がり、包まれ感、後方への音像定位などが可能になります。これは、作曲においても一つの重要なポイントでもありました。多重録音に関しては、ボーカルの声を最大8パート多重録音しています。ドラムもドラムセットの個々の楽器、バスドラムやスネア、シンバルなどを別々に重ね録ることにより、自由な音像の定位を実現しています。作曲が完成した後に絵コンテを起こし、録音、アニメーション制作とミキシングという流れで制作しました。

「こうこう」は7つのフェーズで構成されている。
1. イントロダクション:濁音中心の歌詞にシンクロする展開を詰め込んだインパクトのあるイントロ。
2. 点と線:破裂音(ぱ行)と流音(ら行)の組み合わせのシンプルな展開で一気にクールダウン。
3. 移動:母音を伸ばす楽曲にあわせ、オブジェクトが画面中を躍動。前半の見せどころ。
4. 空間:フレームの外から反時計回りに観客を取り囲むようにルシュカのボーカルと線状のアニメーションが移動するサラウンド音空間。
5. 言葉にならない言葉:背景が白く転換。「っっ、すぉすぉ、そそ」と三段階にフレーズが変化し、曖昧な音節が明瞭な母音と子音の組み合わせになっていく。フィナーレが近づいていくことを予感させる展開。
6. ドラマチック:具象的かつ象徴的なルックの映像。歌詞も促音をまじえキャッチーでインパクトが一番大きくなるところ。
7. アウトロ:濁音中心の歌詞に戻る。打ち上げ花火のような展開。ラストの歌詞は逆再生で聴くと「やばい あつい はんぱない」と書かれている。
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大橋:シンプルな映像表現と相性が良いように、音色は肉声を主役に置きつつ、鉄琴+シンセ+ドラムセットという組み合わせにしました。金属音と電子音は自然物から生まれる音ではないので、肉声という生々しい音との対比になるのではないか、という狙いがあり、光が画面に直接描画されたルックともマッチすると思いました。最後、高音領域に音が偏ってしまったため、レコーディングとミキシングの過程で、ウッドベースを足して楽曲のトリートメントを行っていきました。

対する映像ですが、テーマである“見ようとしたモノを描いた世界”を表現するため、“任意の視点と光源”が存在しない世界で描いています。多様な色彩表現やライティングやカメラワークやパースペクティブを用いるのではなく、運動とグラフィックのバリエーションで映像を見せていくということです。この手法で6分の映像を飽きずに作ることはとても大変でした。

■ CGの醍醐味は、光をダイレクトにビットマップで描くこと
After Effectsのコンポジット画面。本編で僅かに残る青い残像は、After Effects上で、3種に色分けされた画面を加算処理する際に、青いレイヤーだけ1フレーム遅れてコンポジットをしている為。網膜にイメージが焼き付くような効果を狙っている。
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――タイトルの「こうこう(皎々)」の“光り輝く”というのは“光が画面に直接描画されたルック”からきているのですね。
大橋:作品をストレートに表現できていると思い名付けました。
CGというと、正確なパースペクティブやワイヤーフレーム、フォトリアルな3DCGを思い浮かべることが多いと思います。つまり、CGの本質はシュミレーションだと言えると考えています。戦時中のアナログコンピューターで使われたソナーから現在の「アバター」などで見られるリッチなグラフィックも、情報量は違えども、現実を再現するという本質は変わらないからです。

ですが、僕はCGの魅力はカメラレンズを通さずに光を描けるということなんじゃないかと思います。そこで、改めてAfterEffectsのシェイプアニメーションの機能を使って、手描きの素材をスキャンすることなく、直接画面にビットマップを叩き付けるように、アニメーションを作っていきました。直接、光を描画できるCG(After Effectsのシェイプ)アニメーションを現代のダイレクトペイントとしてアップデートするというミッションを掲げているんです。任意の視点と光源が存在しない世界なので、映像もカメラワークや立体的なパースペクティブ、多様な色彩表現は存在しません。「こうこう」の世界は、人間の網膜の内側で起きている音を見ようとした景色そのものです。

今では当たり前にカメラを使わずに映像が作られますが、今CGやモーショングラフィックスをやる方は、その点においてもっと自覚的であっても良いと思います。

「こうこう」メイキング映像
レコーディングスタジオの模様。
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