ももクロ、2013年宇宙の旅! 黒田秀樹監督による、ももいろクローバーZ「Neo STARGATE」&「BIRTH Ø BIRTH」ロングインタビュー!!

2013.04.26 Fri

 

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(後列中央)黒田秀樹:CMディレクター。1958年大阪生まれ。1982年電通映画社(現 電通クリエーティブX)入社。1990年フリーとなる。「24時間タタカエマスカ」の三共リゲインCMは、めまぐるしく変わるカット、広角やオプチカル処理を多用した画面で一世を風靡し、自ら作詞したCMソング「勇気のしるし」も大ヒットした。見る者を刺激し続けるその独自の映像表現は、CF映像の流れを変えたと評されている。代表作はサントリー「ペプシマン」、マンダム「GATSBY」、資生堂「TSUBAKI」など。CMの他にオムニバス映画も手掛ける。MVでは、福山雅治、サザンオールスターズ、SMAP、AKB48、ももいろクローバーZなど。数コマ単位の映像処理で“右脳”に響く時間を演出。受賞歴多数。
2012年大晦日、デビュー以来の悲願だった紅白歌合戦への出場を果たし、新たな次元へと進化を続けるももいろクローバーZ(以下、ももクロ)。2011年の1stアルバム「バトル アンド ロマンス」から約2年、2013年4月10日に待望のニューアルバム「5TH DIMENSION」をリリースし、ますます勢いに乗るももクロの最新ミュージックビデオ(MV)は、アルバムからのリード曲「Neo STARGATE」「BIRTH Ø BIRTH」の前後編! 宇宙を舞台に描かれる大作MVを手掛けたのは、CMをはじめ長年第一線でディレクターとして活躍する黒田秀樹監督だ。2日間の撮影、SF的世界観と美術セット、そしてももクロのメンバーについて、黒田監督がMVの全てを語るロングインタビューをたっぷりお届け!

■ 進化したももクロを表現するSF世界! 今度の舞台は宇宙!?
ももいろクローバーZ「Neo STARGATE」
dir: 黒田秀樹|pr: 吉田真、大垣暁|pm: 葛西佑介|ca: 村上松隆、遠藤裕美子、井本直希|l: 伊藤春夫|ad: 正田俊一郎、荻原麻子|sfx: 青木宏|sty: 細見佳代|beauty dir: 柘植伊佐夫|wig artist: Sakie|cho: 石川ゆみ|off ed: 渡辺宏子|on ed: 泉陽子、田端俊朗|cg dir: 茂木光典|cg pr: 宮武泰明、柑本敦至|ma mixer: 太斉唯夫
――前作からの続投で「Neo STARGATE」と「BIRTH Ø BIRTH」を手掛けられましたが、「サラバ、愛しき悲しみたちよ」の時から既に今作の構想があったのでしょうか?
全くありませんでした。が、きっかけは「サラバ、愛しき悲しみたちよ」に遡ります。ここ数年、黒田組というか、いつも同じスタッフでCMにもMVにも取り組んでいます。美術と衣裳の色彩やセンスの共有、撮影部と照明部の連携など、チームワークが完成されてきています。
で、「サラバ、愛しき悲しみたちよ」の時に、衣裳、人物ディレクションを、この自分のチームでやらせていただいたんです。その時のスタイリスト細見佳代を気に入ってもらって、今回のアルバム「5TH DIMENSION」の衣裳コンセプト作りの段階で彼女を呼んでいただいたんです。彼女は本当に志の高いクリエイターなんですよ。
流れとしては、後に、僕がこのアルバムの中から2曲のMVを撮るという話が立ち上がったんです。ですので、MVをディレクションすることになった時には、既にこの衣裳の構想がほとんど決まっていたんです。

――この衣裳が表現するテーマは何だったんでしょうか?
“進化”です。紅白出場という一つの区切りを経て、そこから新しいももクロとして次の段階へ。飛躍への決意表明です。

ももいろクローバーZ「BIRTH Ø BIRTH」
dir: 黒田秀樹|pr: 吉田真、大垣暁|pm: 葛西佑介|ca: 村上松隆、遠藤裕美子、井本直希|l: 伊藤春夫|ad: 正田俊一郎、荻原麻子|sfx: 青木宏|sty: 細見佳代|beauty dir: 柘植伊佐夫|wig artist: Sakie|cho: 石川ゆみ|off ed: 渡辺宏子|on ed: 泉陽子、田端俊朗|cg dir: 茂木光典|cg pr: 宮武泰明、柑本敦至|ma mixer: 太斉唯夫
――映像化する際、“進化”に加えてどのようなコンセプトを考えられましたか?
宇宙的なものにしたいという話がももクロチームからありました。“非日常を創ることこそクリエイティブ”と、職人魂が小躍りしました。
SFでも「ブレードランナー」や「エイリアン」のようなダークで液体ドロドロの方向と、「2001年宇宙の旅」のようなクリーンな方向の2通りあると思うんですが「どちらがいいですか?」と質問しました。僕としてはどちらの“料理づくり”も好きなので。
話し合いの結果、白く輝くクリーンな方向でいこうと。無菌室のような空間で生まれ進化してゆく。“白い空間から新しく始まる”というコンセプトです。
既に決まっていた“第一形態”“第二形態”“第三形態”の衣裳を活用することがお題でした。

――具体的に映像に落とし込んでいく際に、どういったアプローチをされたのでしょうか?
お話を聞いたのが1月20日。で、アルバム発売から逆算して2月下旬の撮影2日間が決定。構想を練る時間はMVにしては充分でした。フィッティングやジャケット撮影にもお邪魔したり。アルバムの世界観が具体化してゆくのを共有出来ました。日々上がってくる楽曲サンプルも、メロ先で、歌詞が形作られ、アレンジが見えてくる、という段階をすべて享受していました。

最初はメンバーが卵から生まれるのもいいなって思ってたんです。卵にビシッとヒビが入って手が出てきて・・・。「モスラ」ですね。でも、そういう表現、以前にやったことあるんです。長くやっていると自己模倣してしまいそうになります。それではいけない、とそのアイデアは捨てました。

でも、何かから生まれてくる感じはいいなと思ったんです。それでカプセルを思いつきました。
さて、カプセルから出た後、衣裳の変化や、彼女たちのキレキレのダンスをどう演出してゆこうか。自分がかつてドラマーだったこともあって、MVを作る際、まずリズム譜というか小節譜といったものを必ず作るんです。「1小節何秒で4小節で何秒、AメロBメロのあとサビが8小節」みたいなことを図にするのです。

■ MV撮影当日の舞台裏
黒田監督による小節譜。(上)「Neo STARGATE」、(下)「BIRTH Ø BIRTH」
※それぞれ画像クリックで拡大します。
小節を視覚化することで、俯瞰から楽曲を眺めてペース配分ができます。「AメロBメロで全体の3分の1、1サビ終わりで折り返し地点」など。秒数も書き込んだこの小節譜を元に、頭の中で構想を練ります。
「Bメロ終わりでカプセルが開いて起き上がる」「1サビは第一形態でダンス」「1サビ後に第二形態に変身」「間奏は別の空間でダンス」・・・などと文字で書き込み、考え、消し、また考える。右脳左脳フル回転です。この段階にかなり時間を割きます。アタマの中で映像がクルクル回り出します。興奮して眠れなくなることも。このプロセスを経ると、アタマの中にMVがほぼ完成します。あとはひたすら絵コンテに描き起こしてゆきます。

小節譜と絵コンテが練られているほど、全スタッフにイメージが誤差なく伝わり、撮影も効率良く進みます。衣裳チェンジはこのタイミングでとか。セットチェンジやライトチェンジはここで、とか。この譜と絵コンテをベースに各セクションが事前にプランを練ってくれるんです。こうして、撮影の順番が決まってゆきます。

黒田監督による絵コンテ。(上)「Neo STARGATE」、(下)「BIRTH Ø BIRTH」
※それぞれ画像クリックで展開します。
――「Neo STARGATE」と「BIRTH Ø BIRTH」は連作で、一つの短編のようになっていますね。あらすじを教えてください。
2曲のMVを作ると決まった時に、2本で完結するようなビデオにしようと考えました。ただ歌って踊るMVではなく物語を感じるものにしたいなと。特に今回は、進化して次のドアを開くとか、前に進んで行こう、という決意がありましたから。
まずはサウンドや歌詞にインスパイアされて、妄想を始めます。お題としては、3つの変態を見せること。それを“進化する”という物語性の中でどう配置してゆくのか。しかも、ももクロらしく面白く。進化のプロセスと次への布石ということでしょうか。眠りから覚めて、覚醒して、宇宙船に乗り込んで、旅をして、新天地に降り立つ、といったところです。

ももいろクローバーZ「サラバ、愛しき悲しみたちよ」
dir: 黒田秀樹|pr: 大垣暁、吉田真|pm: 葛西佑介|ca: 村上松隆|l: 伊藤春夫|ad: 正田俊一郎|sty: 細見佳代|beauty dir: 柘植伊佐夫|wig artist: Sakie|EL wire system: 藤本実|cho: 石川ゆみ|off ed: 渡辺宏子|on ed: 泉陽子|ma mixer: 太斉唯夫
黒い衣裳と白い衣裳で、悪魔と天使を描いたMV。
――第1幕となる「Neo STARGATE」の舞台設定は、宇宙船の中で眠りから目覚めるところから始まりますね。
そうなんです。ダイアローグの箇所はどうしても必要だと思ったんです。眠っているももクロたちを起こそう、というところからスタートしたかった。博士役はチーフマネージャーの川上アキラさん。説得して出演していただきました。川上さん以外ありえないと思ったんです。ずっと彼女たちを見守ってきた方なので。彼の言葉によって、新しいももクロが動き出すというのがしっくりきたんですね。川上博士のシーン撮影中、メンバーたちは冷やかして盛り上がってましたよ。

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宇宙船外観のデザイン画。
――宇宙船のデザインですが、面白い形状で、上にはプロペラが付いていますね。
ダンベル型の宇宙船です。その形状とMVの進行が理にかなっているんですよ。つまり「Neo STARGATE」の狭い廊下。あれはダンベルの棒状のところ。眠りから覚めるカプセルのあるラボから、そこを渡って「BIRTH Ø BIRTH」の宇宙船に乗り込んだんです。そして、宇宙の旅を始めました。そういう理屈から宇宙船のデザインを考えました。僕がラフで描いたものから、美術チームが設計して作ってくれています。プロペラは、なんていうか、少しアナログ感覚で動きがユーモラスだったりするのが、ももクロらしいと思ったんですね。ももクロ調味料です。

直径20cm程度のミニチュアを下部から棒で支えて撮影している。
――作り込まれた世界観ですが、ほとんど美術セットを制作して撮影したと聞いています。
ベースはほとんどセットです。CGチームの活躍部分については後でお話します。空間を広く見せるのもレンズの成せる技ですし。ラボも廊下も宇宙船内部も、美術チームの職人的創意工夫の賜物です。カーブした壁面は梱包材を利用、宇宙船内部の操作スイッチは、コンビニのお弁当ケースなどを利用して塗装して作ってくれているんです。カプセルもよく出来ているでしょ。開くところは仕掛けチームがテグスで引っ張っているんです。チームワーク抜群です。このようなアナログ的手作りの積み重ねで、未知の世界を映像化する。そういう作業の結果、力が宿ると考えています。

プロデューサーは大変ですけれど、僕は、基本的には美術で作るべきだと。古いタイプの作家なのでしょう。何よりも演者がやりやすいんですね。その世界観に置かれることで気持ちを作りやすいんです。
好きなんですよ、そういう手作り感が。僕の先生は円谷系の映画の方々なんです。CMディレクターとしての最初の20代の頃、撮影部、照明部、美術部は円谷組出身の皆さんにお世話になりました。VFX、SFXというよりも、特撮です。特撮が好きなんです。自分で理解しながら作業を進めたいので「これCGでなんとかしてね」っていうのは嫌なんです。

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月面の岩場でのダンスシーン撮影風景。現場で思いついた無重力空間に浮遊する岩の塔へとCGで作られていく。撮影現場にCGチームも参加しているため確認もすぐ出来る。背景はテクスチャをCGではめている。
「この宇宙空間や、降り立つ惑星の空間はCGチームが活躍してくれています。その他、メンバーに巻き付く電流や光は、その道の職人が1コマ1コマ描いてくれています。降り立つ惑星の広い全景はCGチームによるものですが、メンバー達が踊っている真ん中の岩のサークルは美術で作っています」(黒田監督)
この岩の惑星ですが、なんとなく月面っぽい、漠然としたイメージはあったのですが、“高い岩の塔の上でダンスする”というのは撮影現場で思い付きました。コンテではそこまで描いていなかったんです。この高い岩の塔と、無重力で岩が浮遊している、というアイデアは自分的に満足しています。トラッキングやモデリングに寝ずに向き合ってくれた凄腕CGチームと、凄腕編集マンによるカラコレの結果、不思議な惑星を作ることが出来ました。

――この惑星の設定はあるんでしょうか?
謎の惑星です(笑)。この惑星は最後アメちゃんになるんですが(笑)。この星はクリアしたから、また次の惑星を5色の星にするべく旅立ちました。

■ フィルムとデジタル。黒田監督の撮影へのアプローチ
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宇宙船内のデザイン画。
――特撮がお好きとのことですが、その中でもお気に入りの作品は?
やはり子供の頃観た「モスラ」とか「ゴジラ」とか、東宝系のものです。CGによるクリエイティビティの進化というのは目を見張るものがあるし、不可能を可能にしてくれるし、表現の幅を飛躍させてくれています。しかし、基本は撮影して繋ぐという映画的な考え方に根ざしています。フィルムで撮影してハサミを入れる、という世代なんです。最近のMVを観ていると、新しいデジタル世代が育ってきているな、という印象です。どうやったらあんなスゴいものが出来るのか、さっぱり分からないです(笑)。
音楽界でも同じことが起こっていますよね。CM音楽も生バンドは贅沢で、サンプリングでつくるのがもはや主流ですから。僕の場合、今もほとんど生演奏でお願いしていますけど。やはり演奏者の感情に左右される生が好きです。

――何が決定的に違うのでしょうか?
1秒の動画は24コマの写真の連続です。正確には今CMは30コマですが、30枚の静止画の連続が動画であると。そういう概念が染み付いているか否かが決定的に違うと思います。もちろんデジタルもフレームを1つずつ追っていけば静止画の連続なんですけど。それをフィジカルに触っていた、アナログ感覚です。
CMディレクター歴28年なんですけど、時代的にアナログとデジタル、ちょうど半分半分。作業的に両方の利点を知っているつもりです。ここ10年で、フィルム撮影が後退して、デジタル撮影が圧倒してきました。フィルムの持つ表現力をデジタルが叶えてくれるようになってきたからでしょう。

ペプシマンのCMを1996年から約10年間作っていたことで、CGワークを学ぶことが出来ました。ペプシマンは大貫卓也氏デザインによる日本オリジナルCGキャラクターです。が、リファレンスとして身長190センチのシルバーのスーツを着た生身の人間を毎回撮影していました。アニメーションのリファレンスとしてではなく、例えば道を走る時、頭部にはカリフォルニアの空が、下半身にはコンクリートが、というような“映り”と“光の反射”のリファレンスとして。アニメーションから先の作業はILM(インダストリアル・ライト&マジック:ルーカスフィルムのVFXスタジオ)のCGチームと試行錯誤の連続でした。大貫氏とともに毎月サンフランシスコに出張していました。アクションに関しても出来るだけリファレンスを撮影して、CGチームとコミュニケーションすること。ここでも地道なアナログ的努力が仕上がりに大きく貢献したんですね。CG制作に関するワークフローはかなり理解しているつもりです。

■ プロの技が光る美術セットの仕掛けとは?
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演出と機能と予算を考慮した仕掛けの数々。撮影はALEXAを2台使用。レンズはワイドレンズを中心に使っている。
――このラボの向こうに続く廊下ですが、どこまでセットが続いているんですか?
奥を白く飛ばしていますよね。あそこまでがセットです。種明かしをすると、最初のカプセルのあるラボのシーンを撮り終えて、両側のカーブした壁を真ん中に寄せて廊下にしているんです。つまりラボと狭い廊下は同じセットで、1日目にラボを撮影して、2日目に廊下を撮影しています。壁と床の二次利用は予算削減にも貢献しているというわけです。創意工夫です。
ですので、撮影は時系列には行っていなくて、1日目はラボと「BIRTH Ø BIRTH」の岩の惑星のシーンを撮影してお疲れさま。その夜、美術部と照明部は徹夜でセッティングチェンジ。廊下を作り、スタジオ隅にバラバラに立て掛けておいた宇宙船を組み立て、ライティングを完成させます。鶴の恩返しのような深夜作業です。本当に感謝しています。翌朝、ももクロの皆さんも前日からの様変わりに驚いていました。

どんなに大変な撮影でも、黒田組のスタッフは皆ニコニコ淡々と仕事している・・・見学に来た他チームのスタッフにいつも言われます。穏やかな現場は、出演者を心地良く迎え入れる。我がチーム自慢の空気です。

――「Neo STARGATE」のラボの床に白い球が配置されていますが、演出意図に加え、メンバーの立ち位置を示すバミリも兼ねているのでしょうか?
鋭い指摘です。大当たりです! あれ家電量販店で売っている電気の傘なんですよ(笑)。もうひとつ言うと、フットライトも兼ねているんです。そもそも床はデコラなので上からのライトを反射しているのですが、あのライトでメンバーの顔や体への補助照明としているんです。

――本作のカメラワークにおけるテーマは?
正面ど真ん中標準レンズが好きなのですが、この作品に関しては、色んな角度から狙って編集で見せるというルールです。「サラバ、愛しき悲しみたちよ」では左右から狙うことを避け、正面からの構図で“絵本的な見せ方”を意図していました。普通ともいえる撮り方です。そしたら「カメラワークが下手」とか色々書かれたんですけど(笑)。

■ ももクロがももクロである理由
左から第一形態~第三形態のアーティスト写真。カラーレスになり、覆面を被るというアイドルとしては異色ともいえるビジュアルだ。
※画像クリックで拡大します。
Photo: Kenshu Shintsubo
――衣裳ありきということでしたが、ももクロは各メンバーのイメージカラーがあり、カラーレス且つ覆面姿で映像を作っていくことについてはどうでしたか?
ワクワクしました。第二形態だけスワロフスキーで色が入っていますが、今回はカラーレスで顔見せないでいこう、というのは既に運営チームとスタイリスト細見佳代によって決まっていました。ちなみに第二形態のスワロは、細見佳代が手作業で縫い付け、ドリアンマスクのスタッズ2,000個も彼女が打ち付けました。デザインセンスは新鮮、ディティールは職人気質。何日も夜なべしたようです。アタマが下がります。

ももクロチームは面白いアイデアを大胆に、しかも簡単に即決します。攻めてますよね。ロック魂です。そういうの大好きです。デカダンス的唯美性をも明るく取り入れてしまう。守りに入らず変わることを恐れない冒険活劇主義。長々と会議して停滞する日本の会社や政治に最も欠けている姿勢だと思います。分からないこと、読めないことはやめておこう、ではなく、やってみよう、というのがももクロです。

――その制約の中でももクロらしさを出そうとした時、何を中心に据えたんでしょうか?
ダンスです。運動会的で激しく、しかも面白いダンスをしながら歌う。他のユニットにはない“ももクロ調味料”が必ず入っているんです。それは振付の、石川ゆみ先生の力です。そここそが肝です。どんなに色を抜いていっても、絶対に“らしさ”は残るのです。

僕はそもそもCM育ちのディレクターなので、制約には強いんです。CMは商品や目的や秒数が決まっている映像です。それら制約に抗うことなく、いやむしろ守られているんだということに若い頃気付いたんです。大きさの決まっているプールで泳ぐのと似ている。大海で泳ぐより、強く速く泳ぐことが可能です。つまり、制約があればある程、表現は自由に暴れることができるということ。僕のCM論です。
衣裳ありき、予算ありき、納期ありき、そしてもちろん楽曲ありき、なんでも来いです(笑)。制約が多いほど、本質が研ぎ澄まされることがあるんです。

――3つの形態の衣裳が重なり合うダンスシーン、ここはどうやって作っているんですか?
間奏の部分ですね。これはですね、まず空舞台ありきです。で、3つの衣裳でそれぞれ撮影して、それを変則的なオーバーラップで編集しています。オフラインで既に完成していました。時空が歪んで、3つの形態が入り交じることを表現したつもりです。つまり混沌です。
驚いたことに、それぞれ衣裳チェンジして撮影したのですが、どのテイクも彼女たちのダンスにほとんどズレがないんですよ。ももクロの素晴らしいところです。最初の立ち位置だけバミってダンスするのですが、動きがどの衣裳でもシンクロしているんです。撮影はそれぞれ1テイクか2テイク。ダンスの流れの中、衣裳が次々と変化してゆくという編集を可能にしたのは、彼女たちのチーム力と精度の高いパフォーマンスのおかげです。僕もとても気に入っている箇所です。

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撮影現場で振付の確認をする、しおりんこと玉井詩織。
――撮影中の苦労は?
苦労? 楽しい撮影でしたよ。しいて言うならカット数が多かった。僕のせいです(笑)。2日で数百カット。これ、黒田組でないと撮れないと思います。ものすごいスピード撮影です。セッティングチェンジが抜群に早いし、前もって全カット検証しているので、ライティングも早い。しかも上手い。無駄な動きや悩むこともない。これも他チームの方に驚かれる自慢のチームワークです。このチームでやるCM撮影は、平均3~4時間です。よくビックリされます。

――検証ではどういったことをなさっているんですか?
考えられる全てのことです。前日、MVを1本作るようなことをやっています。CMの場合も同じです。
スタンドインのダンサーさんに付き合ってもらって、カメラ位置もライティングも全カット決めて、撮影して現場で編集します。そんなわけで前日は時間掛かります。MVだとほぼ徹夜になります。本番当日、メンバーが入ったらスイスイ撮影出来るように準備するのが“建て込み”という作業の本来の意味です。本番は演技やダンスの試行錯誤のための時間です。セッティングチェンジが遅かったり、アングルやライティングに悩んでいるようでは失格です。撮影のリズムが台無しになり、演技や仕上がりにも影響するのです。
ももクロの場合、パフォーマンスの精度が高く1発で決めてくれるので、カット数が多い撮影でも可能ですし、エキストラカットもついつい撮ってしまいます。ごめんなさい。

■ CM制作とMV制作の違いと共通点
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撮影現場にて。手前左が黒田監督。
――バンドもやってらっしゃって、音楽にも造詣が深く、リゲインのCMソングなどはご自身がオリジナルで歌詞を書かれていますよね。ももクロの歌は好きですか?
今回の曲なんかむちゃくちゃ好みです。フィクショナルでファンタジックなスペクタクル。担当した3曲は準備から撮影、編集で何百回も聴いているので、カラオケでも完璧に歌えますよ(笑)。メンバーの癖も全部覚えちゃってます。

――CMのように短いもの、今作のような長めのものって取り組み方に違いはあるんでしょうか?
取り組み方は同じです。今回は短編映画のようなものでしたね。短距離走と中距離走の違いはあります。が、あらかじめコンテや譜割でペース配分を考えているので、走ってみないとわからないということはないです。とりあえず撮って編集で悩む、ということもない。編集で思わぬ発見や閃きに恵まれることは多いですけれど。長さが違うだけで、広告で学んだことを活かしてMVを作っています。

CMの監督が長編を撮ると「凝り過ぎてて観る人が疲れる」とよく言われますが、CM監督は映像に関する技術修練のレベルが高いと思います。制約の多いプールで日々鍛えられてますから。そこで培った筋肉は必ず他でも活きてくる。短距離の筋肉でも、経験を積めば長距離にも通用すると思います。CM出身の監督が欧米には多いですよね。日本にも増えてきています。MVは5分程度なので全速力で“凝って”いいと思うんですが、長編映画は僕にはまだ未知の距離です。60歳過ぎてからでもいいかな、と長距離は。怪獣映画とかファンタジーとかSFとかいいですねー。

――CMでは、役者さんの見たことのない魅力を引き出されている作品群が印象的ですが、ももクロに関してはどういうアプローチをしているんでしょうか?
僕は、日常劇とか生活劇とかが、あまり得意ではないんですよ。この世にない、映像の中でのみ光を放つ存在に魅力を感じるんです。この得手不得手は歳を重ねて自覚してきました。好きな音楽も同じ傾向にあります。素朴な日常を表現する歌よりも、戯曲的色合いの濃い音が好みです。

ペプシマンも、この世にいない、CMでしか会えないキャラクターですよね。ももクロはもちろん存在はしているんですが、とても戯曲的というか、アニメキャラクター的な魅力を感じるんです。どんなフィクションをも取り込んで、その中に入って馴染んでしまう。
彼女たちには何も演技指導などしていないんです。フィクショナルな美術や衣裳を提供するだけで、すんなりと馴染んでしまうキャパシティを持ち合わせています。5億年の眠りから覚めてくれるんです(笑)。楽曲の持つ世界を既に理解しているので、カプセルから起き上がるシーンも、彼女たちが自ら動きを考案して演技してくれています。まず誰かがやり始めたんですね、腹筋の力だけで起き上がるアクション。他のメンバーがそれいいねって真似して。最後まで首を残して起き上がろう、とか、ワイワイ遊ぶように決めてましたよ。

繰り返しになりますが、演技者がやりやすい環境を作るのが僕の仕事だと思っています。良い舞台を用意すると、表現が勝手に転がり出すものです。予想を超えた化学反応が起きるのも撮影の醍醐味ですね。

――ももクロの魅力を監督としてどう捉えていますか?
ハンパない全力疾走。頑張ることはかっこ悪くないんだ、ということをあんなに清々しく表現できる人たちがいるでしょうか。疲れた国民を明るく叱咤激励して、先頭に立って牽引する大物です。熱量はライブだけではなく、撮影の時も同じ。ものすごく楽しそうに目の前の課題に取り組んでくれます。大人たちを巻き込みます。スタッフをやる気満々にさせてくれます。あらゆる人に平等に接してくれるところがスゴい。斜めから見てないで真ん中に飛び込んでおいでよってね。当事者の意識を教えてくれます。で、アホアホヘクトパスカル200です(笑)。
この歳になって、ももクロに出会えたことはディレクターとして、幸せな縁だと思っています。次元上昇です。

■ 5つの質問 一問一答
1: 一番影響を受けたものを教えてください
70年代英国のロック。特にグラムロック。デヴィッド・ボウイとか。「スターマン」(「ジギー・スターダスト」)は、中学生の僕には衝撃でした。
2: この職に就いたきっかけは?
ミーハー心から。広告業がブームだったんです。ドラマーとして音楽録音に呼ばれて「こっちには映像も付いてるな」と。
3: 一番好きな映画は何ですか?
2001年宇宙の旅」生活感の無いものが好きなこと、一貫してるでしょ。
4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
PARKERのシャーペン(0.9mm 2B。20年選手)、ハイライト、サントリーのウーロン茶
5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
ももクロ
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