2012年大晦日、Perfume&嵐の舞台裏! 「第63回NHK紅白歌合戦」にみる革新的パフォーマンス

2013.04.04 Thu

 

大晦日に生放送で行われる国民的歌番組「NHK紅白歌合戦」。毎年、様々な工夫と新たな挑戦を繰り返し、昨年の2012年で63回目を迎えた。老若男女未だ多くの視聴者を惹きつける紅白歌合戦において、昨年の大晦日に新しい形のパフォーマンスで異彩を放つ演出を行った2組のアーティストがいた。Perfumeと嵐だ。

この2組のパートは、どちらもライゾマティクスの真鍋大度氏が手掛けたもの。「これまでにない革新的な演出アイデアが欲しい」という番組スタッフの考えからスタートした。
「表現と技術の融合を図り、プログラマのための新しい市場を開拓している真鍋さんの姿勢に感銘を受けておりました。その哲学や経験、企画力をぜひ活かしてほしいと、完成に向けて検討を開始。各チームの方々とブレストを進め、最終的にライゾマティクスの皆さんに参加していただくこととなりました」(森内大輔氏|NHKエンタープライズ)

■ パフォーマンス、衣裳、映像がシンクロするPerfume
実際に使用された映像のキャプチャ。
紅白歌合戦 総合演出:加藤英明(NHK)|紅白歌合戦 映像演出:甲斐洋威(NHK)|企画制作:森内大輔(NHKエンタープライズ)|制作:加島貴彦(P.I.C.S.)|振付け/クリエイティブディレクション:MIKIKO|映像作家:TAKCOM|CG制作:木村和正(takcomstudio)、oagoooo|衣装:タケダトシオ|ソフトウェアオペレーション:上條慎太郎
※画像クリックで拡大します。
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
Perfumeのパフォーマンスは、真鍋氏が、コレオグラファーのMIKIKO氏を始めとしたPerfumeチーム、映像作家のTAKCOM、ライゾマティクスのエンジニアチーム石橋素氏、柳澤知明氏、NHK紅組演出チームとともにプランを練りあげたものである。「Spring of Life」のミュージックビデオ(MV)でも使用されたLED付き衣裳を用いる演出を軸にし、それに合わせて映像を制作した。

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Perfumeが着用したLED付き衣裳に取り付けられるウェアラブルデバイス。
ウェアラブルデバイスデザイン/開発:柳澤知明(Rhizomatiks)|ウェアラブルファームウェア開発:石橋素(Rhizomatiks)|ウェアラブルソフトウェア開発:真鍋大度(Rhizomatiks)|ウェアラブルオペレーション:本間無量(Rhizomatiks)
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
映像には、オープンソースのRGBD Toolkitを修正したものと、Artec 3Dをアプリケーションとして用いて、新たにKinectを使って3Dスキャンを行い、映像制作用のデータを作成したものを使用し、インタラクティブな空間演出として仕上げている。そのデータを元に、PerfumeのパフォーマンスとLEDの衣裳のライティングパターン、そして背景の映像がシンクロするように作り込んだ。
「衣装のライティングパターンと背景の映像をきちんと合わせて作ることに重点を置き、TAKCOMと共同で作業しました。具体的には衣装のライティングのパターンを映像制作時に扱いやすいQTムービーに変換し、それを映像に反映してもらっています」(真鍋氏)

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Perfume(あ~ちゃん)を3DキャプチャしたRAWデータ
3Dスキャンデータ制作:真鍋 大度(Rhizomatiks)|3Dデータ加工サポート:K'sデザインラボ
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
1ヶ月という短い制作期間の中で全て一から作り直したMV「Spring of Life」の衣裳。LEDの数は、真鍋氏曰く“1.8倍くらい”に増量された。さらにライティングパターンもそれに合わせてアップグレード。衣装のライティングに同期して動くPerfumeの姿がセット背景のスクリーンや階段部分に登場し、モザイク状になって散るという舞台装置が完成した。

■ リアルタイムARをパフォーマンスに組み入れた嵐
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ステージを眺める演出ブース
紅白歌合戦 総合演出:加藤英明(NHK)|紅白歌合戦 映像演出:甲斐洋威(NHK)|企画制作:森内大輔(NHKエンタープライズ)|制作:加島貴彦(P.I.C.S.)|振付け:KAZOO|映像作家:大島貴明|ソフトウェアオペレーション:上條慎太郎
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
そして、嵐のパフォーマンスは、「リアルタイムARシステム」と名付けられたARを使い、嵐のメンバーの動きに合わせて立体的な映像が合成されるというものだった。このパフォーマンスは真鍋氏と石橋氏が手がけた、トラッキング技術とホログラフィック映像を用いたPerfumeのライブをリファレンスとしたもの。真鍋氏は「同様の演出を生放送の紅白歌合戦で行うには、AR的にやるしかない」という結論に至り、プランを考え、失敗の許されない完全リアルタイムの空間演出を、ライゾマティクスのプログラマ、映像作家の大島貴明氏、紅白チームと共に作り上げた。

映像生成システムの画面。
クリエイティブ/テクニカル・ディレクション:真鍋大度(Rhizomatiks)|テクニカルディレクション:石橋素(Rhizomatiks)|映像生成システム開発:比嘉了、堀宏行(Rhizomatiks)
※画像クリックで拡大します。
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
スマートフォンやPCでよく行われる従来のARの場合、カメラでマーカーを撮影すると、ディスプレイに画像や映像が合成されて表示されるというものが一般的だ。このように画像解析に行うカメラと実際の映像を撮影するカメラが同一のものとなっている場合は、静止しているマーカーをトラッキングすることは可能でも、ライブパフォーマンス中の激しい動きをトラッキングすることは非常に難しい。それを解消するため、「リアルタイムARシステム」の場合では、嵐の各メンバーが指先に付けたマーカーをトラッキングするためのカメラ(画像解析用)と、実際の映像撮影用のカメラを別に用意している。
「ここが一番大きな点です。トラッキング用のカメラと撮影用のカメラ、そしてトラッキングするマーカーが同じ3D空間上に存在する必要があるのです」(真鍋氏)

定点カメラの場合、3D空間に3つの要素(マーカー、トラッキング用カメラ、撮影用カメラ)を正確に配置することはそれほど難しくない。しかし、今回の嵐の場合は、一筋縄ではいかなかったようだ。
「演出の都合上、メンバー全員を引きで撮影する画と、クローズアップのワンショットが欲しいということになり、放送用のカメラを動かしてズーム、フォーカス移動、パンやチルトをするということになりました。こうなるといよいよ難易度が高くなってきて、しかも紅白のような未知なる現場だと「出来ません」と言ってしまいそうなところでしたが、NHKエンタープライズの伊達吉克という光学系に無茶苦茶詳しいエンジニアの方が「大丈夫。いけます」とおっしゃっていたので、そこは乗っかってみることにしました(笑)。
メインのARシステムは伊達さんがカメラ周辺、合成部分やビジュアルを、ライゾマの比嘉了、堀宏行が、オペレーションを上條慎太郎くんが、そして全体のアートディレクションを大嶋さんが手がけています」(真鍋氏)

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マッチムーブシステムブース。
マッチムーブシステム開発:伊達吉克(NHKエンタープライズ)
© NHK/NHKエンタープライズ 2012
Perfumeと嵐、どちらのパフォーマンスも紅白歌合戦の放送上ではスムーズに見えるため、簡単なテクノロジーに思えるかもしれない。しかし、その裏には驚きや楽しさを視聴者に伝えるため、このような奮闘が繰り広げられていたのである。

最後に、NHKエンタープライズ森内氏の言葉をお届けしたい。
「年末に一回しか放送しない生中継の番組かつ関心の高い国民的番組で、大変リスクの高い演出に挑戦し、それを成功させることは並大抵のことではありません。ライゾマティクスさんの革新的アイデアと技術力もさることながら、アーティストの理解、演出陣の熱意、また、永年、紅白歌合戦を作り上げてきた多くのノウハウが支えとなりました。これらのどれか一つでも欠けていたら絶対に実現することは出来なかったと言える試みでした。真鍋さんはじめ関わっていただいた方々にも大変感謝をしています。番組をご覧いただいた視聴者の皆様、本当にありがとうございました」(森内氏)

文:野澤智
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