ポリゴン・ピクチュアズが語る立体視TVアニメ制作の裏側。「Pumpkins」

2010.08.20 Fri

 

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「Pumpkins」より
立体視映像元年と謳われる2010年。遂に家庭のTVでの立体視が楽しめるようになった。あくなき3DCG表現の追及を続ける老舗CGプロダクション、ポリゴン・ピクチュアズ。彼らが取り組んだ初の立体視アニメーション「Pumpkins」が、ケーブルテレビJ:COMにて配信を開始した。街のボーリング場に溜まる、カンフー大好きアーノルド、お菓子が大好きな情報フリークのブッチ、超能力マニアのチャーリーの仲良し3人組を軽いタッチで描いた作品だ。キャラクターデザインをフィギュア・アーティストのT9G氏が手がけたのも見どころのひとつ。注目される立体視アニメーションの制作について、監督の千田宏氏、プロデューサー石丸健二氏(ポリゴン・ピクチュアズ)、CGスーパーバイザーの吉平直弘氏(ポリゴン・ピクチュアズ)らに話を聞いた。

■キャラクターデザインへのこだわり
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左からプロデューサー石丸健二氏、監督の千田宏氏、CGスーパーバイザーの吉平直弘氏
立体視対応TV視聴者に向けたビデオ・オン・デマンドサービス「J:COMオンデマンド」にて2010年8月1日(日)より配信中のアニメ「Pumpkins」。このプロジェクトが始まったのは5年前、ポリゴン・ピクチュアズの海外マーケットに向けたコンテンツの取り組みから。「Pumpkins」は当時から評価も高く、日本のテレビ局と共同で声なしのバージョンを制作まで進んでいたが、残念ながら放送に至らなかった。それが今回立体視の波に乗り、立体視アニメとして映像をリメイクし、放送することになったのだ。

「海外用の企画だったので、キャラクターデザインには苦労しました。日本なら人気がある”ゆるキャラ”系は、コテコテのカートゥーンを見慣れた海外の人には伝わりにくい。そこで、ベタにアメリカンなキャラクターと日本人がわかる可愛さの中間を狙えるデザイナーを探してお願いしたのが、アジア圏でも人気のフィギュア・アーティストT9Gさんでした」(石丸)

T9G氏はフィギュア界でカリスマ的人気を誇るアーティスト。登場する”3人組”という設定は人気マンガ「THE3名様」から影響を受けている。「3人でダベってる組み合わせ、でこぼこのバランス感覚を出したいと思ったんです」と千田監督は語る。世界向けのコンテンツのため、登場するモチーフはボーリングやカンフー、超能力など、日本人でなくてもわかるように意識した。また海外では再放送が前提となるため、ストーリーは一話完結としている。

■リッチな3D空間が生み出すディテール
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T9G氏による立体フィギュア。声優さんはお笑い芸人の前田健とHEY!たくちゃん。「アニメは設計図通りに仕上がるので、ライブ感やプラスαの何かがあるのが声録りなんです」(千田)
「Pumpkins」の特色の一つは、アーティストが成形したフィギュアからキャラクターのモデリングを行ったことだ。キャラクター特有の色気やかわいらしさを表現するため、モデリングは熟練の腕に依存する部分があり、普通常は立体感があって存在感のあるものはCGでの再現が難しい。しかしフィギュアで成形されていたおかげで、”これが動けばいいんだ”というリファレンスがあり、今回は表情や動きなどの苦労が少なかったという。ボーリング場のセット制作には、かなり贅沢な技術を使っている。既にあった3DCGのアニメーションを立体視にするのに、どんなところに気をつけたのだろうか?

「CG制作にあたり、ボーリング場全体のモデルを完全な3D空間で作り、イメージベースド・ライティングというドーム状の光のマップを使用しています。これは360度全方向の情報を持つ環境で、木漏れ日や建物、ホコリの密度まで、リアルな光の環境を再現する技術です。ここまで完全に3D空間で造られているので、立体視映像にリメイクするのに違和感がなく、僕らはカメラを二つ用意してレンダリングするだけでした」(吉平)

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あらゆるボーリング場の資料を集めて考えました。最初はボックスシートから創り、3人を配置して一番気持良く見えるサイズを決めたんです(千田)
キャラクターの動きについて、まるでおもちゃが動いているようなキャラクター感を出すため、極端なメリハリを付けてコマドリのような効果を出した。キャラクターのパーソナリティが乗っかっているような動きを心がけている。

千田監督のCG作品の特徴は、キャラクターのメリハリとリズムがある動き。動きのタイミングにはこだわりを見せる。

「今のCG業界では、モーションキャプチャーなど滑らかでリアルなものを目指す傾向がありますが、敢えて違う方向に向かっています。アニメーションは音楽と一緒でフィーリングの部分が多いので、アニメーターに口で言ってもわからない。リズム感がわかるアニメーターでないと難しい部分が大きいです」(千田)

千田監督の演出術は「ここでキャラクターがパッ、ガタガタ、ダッと動く」というように擬音で表される事が多い。一見分かりづらそうだが、「メリハリをつけてほしい」というような抽象的な依頼よりもアニメーションのタイミングや動きの強弱が表現されるために分かりやすいという。

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3D空間で再現されたフィギュアのモデル。形も可愛らしさも本物の造形と同じように再現されている。
技術的には使い慣れている3DCGソフトウェアMAYAが立体視に対応しているというバックボーンがあったが、実際制作を始めると想定外なことが多かった。

「立体の撮影はMAYAのステレオスコピックカメラを使い、右目左目用の映像の編集と合成をAfterEffectsで行ないました。MAYAの中で既に立体で見えてるので、立体視の飛び出した見え方の調整も、複雑な計算をすることなく全て目で確認しながらわかりやすく作業することが出来ました。MAYAの標準機能だけで創ることができたのは驚きでしたね」(吉平)

とは言っても、ただカメラを二つ置いてレンダリングすれば完成、というわけにはいかない。視聴者への負担が少ないように、飛び出すよりも奥行きのある映像制作を心がけ、さらに奥行きの変化に敏感であることが必要だった。目に優しいというよりも、視聴者に混乱が起こらないよう、脳を撹拌しないように気をつけたという。

「あるカットではキャラが手前に飛び出していて、次のカットではすごく奥にいると見ている人が混乱してしまいます。映像にズレが発生すると、今まで見たことがない不条理なものが視聴者の頭の中に展開し、目眩などを起こす原因になるんです。立体視の距離感は、常に同じような距離感になるように気を使わなくてはならない。視聴時のストレスがコンテンツの良さを殺してしまう場合もあるので、視聴者の安全性も気にして創らなければならないんです。そのために僕らは視差調整の試行錯誤を繰り返すので目にも相当負担がかかります。作業後はボールペンのキャップを閉められなったくらい。作業環境の改善は今後の課題になると思います」(吉平)

2D映像を立体視にする際、CGスーパーバイザーが立体視向けのエフェクトを精査していった。例えば、ボーリングのピンが飛んでくる背景が黒一色だと立体感を得る事が難しいので背景を書き足すなど、立体視により効果的な演出表現を提案するのがCGスーパーバイザーの役割だ。また立体視に見えない、あるいは見え難いというストレスを視聴者に与えない ために、動きが派手なシーンではスローにしたり、モーションブラーなどの誇張した表現は使わないようにしている。心配なのはコスト面だが、その点も問題ないという。

「コスト面ではレンダリングが二倍になりますが、それはレンダリングマネジメントをしておけば問題ありません。合成の処理時間が倍になるくらいでしょうか」(吉平)

今後の立体視映像業界の予想を聞いたところ、「これから全ての映像コンテンツが立体視になると言われることもあるが、あくまで表現方法のバリエーションの一つになると思います」という答えが返ってきた。ポリゴン・ピクチュアズが目指す立体視映像とは、視聴者がストーリーに没頭して”そういえば立体だったね”って言われるもの。業界的にも手探りのことが多い立体視コンテンツだが、大きな可能性を秘めた動向をこれからも追って行きたい。

5つの質問 一問一答
Question1:影響を受けたものを教えてください
石丸:パッと思いつかない
千田:宇宙
吉平:スターウォーズの世界観
Question2:この職に就いたきっかけは?
石丸:アニメが好きだったから
千田:運命
吉平:ピーター・ガブリエルのエクスプローラーを見て自分で映像を創りたいと思ったこと
Question3:一番好きな映画は何ですか?
石丸:GHOST IN THE SHELL
千田:キューブリック
吉平:ユージュアル・サスペクツ
Question4:作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
石丸:Mac、えんぴつけずり、iPhone
千田:富士山の石
吉平:コーヒー、ペン、携帯電話
Question5:今おもしろいもの/事って何ですか?
石丸:内田樹、テニス(する方)
千田:自転車、カメラ、生きること
吉平:ちっとも上手くならないフットサル
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