高野光太郎氏(左)と木村康次氏(右) 木村氏プロフィール:1978年生まれ。モーショングラフィックデザイナー。2004年よりStudio DUのスタッフとして撮影やプロジェクター周辺のテクニカルワークフローを学びながらフリーとしてミュージックビデオやエキシビジョン映像のモーショングラフィックデザインを制作している。
■2種類の立体視映像を制作
Dragon Ash 「AMBITIOUS」 dir: 須永秀明
右目用、左目用のデータ制作が必要。
高野氏たちは「AMBITIOUS」の初回限定盤のDVDに収録されている通常のMV以外に、3Dメガネ(円偏光)をかけて観る立体視版を2種類も制作したという。1つは初回限定DVDに収録されている通常のMVをベースに立体視用にアレンジしたもの。MVの現場でステレオ3D撮影した素材とJVC「2D-3Dコンバーター」で通常版MV素材(2D映像)をステレオ3D映像に変換したものを混ぜて再編集。さらにCINEMA 4Dを使用してステレオ3Dを意識したモーショングラフィックスを追加したバージョンだ。この映像作品は6月12日~6月25日の2週間限定で映画「アリス・イン・ワンダーランド」の上映前にフルバージョンや1分間のショートバージョンがユニクロUT STORE HARAJUKUやタワーレコードの渋谷店、新宿店、梅田NU茶屋町店で公開されていた。
パブリックビューイングの模様
高野氏のデスク周りには3Dメガネや業務用3D液晶モニターJVC「GD-463D10」が設置されている。左右のコンバージェンス(視差調整)するための専用のソフトウェアにはDashwood Cinema Solutions社の立体視映像作成プラグイン「Stereo 3D Toolbox」を導入していた。立体視の確認は、Stereo 3D Toolboxから「Side By Side方式」で出力。SDIからHDMIへ変換して3D液晶モニタに接続し、3Dメガネをかけてモニタで実際に確認をしたという。納品は、左右両方のフルHDのデータをポストプロダクションに持ち込んで編集したそうだ。
■写真から3Dの背景を作り出す機能Projection Man
Dragon Ash 「AMBITIOUS」より
「2DのMVだったら大目に見ることもできますが、立体視だと致命的です。そこで、CINEMA 4DのProjection Manで写真から3Dの背景を作り出し、カメラの動きまでを作成し、レンダリング後にCINEMA 4DのカメラごとAfter Effectsへもっていって合成するという方法を行いました」(高野氏)
※ここで使用したProjection Manとは、デジタルマットやカメラマップの管理システムのことで、ローポリゴンのオブジェクトに貼った静止画や映像素材を3D背景にしてくれる機能だ。
Projection Manを使った理由に、高野氏はこう補足した。「今回の作品の場合は大変な精度が必要でした。アーティストの位置も全部メーターで計って、きちんと背景も床もスタジオとまったく同じサイズをCINEMA 4Dのシーンで再現しました。After EffectsでもProjection Manと同じような事をサードパーティープラグインで近いことはできますが、モデリングデータに素材を貼り付けるような事はAfter Effectsではできません」(高野氏)
■思い通りの軌跡をコントロールできるトレーサ
次は本編中でも特に立体的に飛び出して見えるラインアニメーションのモーショングラフィックスのカットだ。このラインアニメーションはオブジェクトの移動やパーティクルの軌跡をスプライン化する「トレーサ」機能で制作したものだ。After Effectsにもラインアニメーションを演出するプラグインがあるが、高野氏はなぜトレーサを使用したのだろうか?
「After Effectsで作成したラインには陰影が付けにくいですが、トレーサで作成したラインオブジェクトは3DCGだから簡単にライティングが出来、陰影が付け易いんです。今回はステレオ3Dなので、やはり空間的な演出をするのに、陰影が重要なポイントになります。トレーサで作成した素材はレンダリングし、After Effects上で味付けします。ノイズを加えて、アナログチックに仕上げました。空間演出はCINEMA 4Dを使用し、仕上げの調整にAfter Effectsを使うのが効率的なんです。」(高野氏)
軌跡の動きを簡単にコントロールできるのもトレーサの魅力だ。高野氏はこう続ける。
「例えば”ライン同士がクロスするラインアニメーション”を作るのは難しいのですが、トレーサならばタイムラインでどのへんからひねるかを設定ができます。After Effectsだけで同様のことをやろうと調整するのは困難です。しかし、トレーサならば思い通りサクッと作れますよ。プレビューも高速で時間もかかりません」(高野氏)
■自由自在のアニメーション機能
パブリックビューイングの映像より
「まず、爆発させるオブジェクトをランダムに破壊するのって難しいんですが、CINEMA 4D用のフリーのオブジェクト破壊プラグイン”Xbreaker”を使えば簡単にロゴをランダムに砕いてくれます。またMoGraphの機能を使って破片の広がるタイミングを細かく調節しました。余りにも楽チンでびっくりしました。今まで、After EffectsのシャターやMayaとかで壊れるタイミングの時間軸などを操作するのは大変でしたが、CINEMA 4Dではタイムスライスのようなことも簡単に制御が可能です」(木村氏)
アニメーションの再利用についてもこう言及する。「あおり映像の鳥のアニメーションを制作して驚いたのは、普通にタイムライン上でループを作って尺を調節できますが、そこでもタイミング調節を全部できてしまうことです。一回羽ばたきのループを作って、そこから移動のアニメーションを作るというのはMayaだと結構面倒な作業だったのですが、その後の工程でも羽ばたきのタイミングをまた調整できたりします。しかも1個つけたら、他の鳥にもコピペの感覚で適用できるので、どんなに鳥の数が多くても苦にはなりませんでした」(木村氏)
Dragon Ashのロゴが燃えるリアルな炎もCINEMA 4Dを使用している。事前の打ち合わせの完成イメージは、サッカーのイベントに合わせて、ロゴが青で燃えることと、バックドラフトのように手前側(視聴者側)に向かって勢いよく燃えること。高野氏はこの演出を実現するために、デモ映像のクオリティの高さで以前から注目していたJawset社のCINEMA 4D用の流体シミュレーションプラグイン「TurbulenceFD」を使った。日本ではまだ発売されていない未発売の製品で、CINEMA 4D版はマクソンジャパンが取り扱いを検討している(After Effects版はフラッシュバックから発売中)。
炎を調整した本番映像からのカット
「テストをしてみたらかなり良好でした。炎が手前にめっちゃくちゃきています。当たり前ですが、3DCGの空間で燃えてるので、カメラをどの角度にしても炎を演出できます。難点は機能の習得です。燃える量をどこで調節したらいいのかわからず、先ほどまでもの凄い火柱を立てて燃えていました(笑)。Web上などのチュートリアルがゼロに近いので、使いこなすまで時間がかかるかもしれません」(高野氏)
■キーストーン歪みに強いCINEMA 4D
「図Aのようにカメラの端がズレて、キーストーン歪みと呼ばれる台形歪みが起きます。この歪みは目が疲れる要因でもあり、立体視がし難くなる現象です。後処理で、これを修正するにはややこしい工程をふまないといけないのですが、図BのようにCINEMA 4Dのカメラにある”X方向のフィルムオフセット”を使えばカメラの方向を変えずにレンダリングする範囲を変えられるので、目に優しいキーストーン歪みが起きない画作りが可能となります。この為、パブリックビューイングでのロゴを最大限まで飛び出させることが出来ました!」(高野氏)
■After Effectsユーザーも3D CGソフトを使う時代
上記の話や「モデリングをする気はない」と言い切るところからから分かる通り、高野氏のCINEMA 4Dの使い方は部分的だ。After Effectsで実現できない機能をCINEMA 4Dで補完する、「痒いところに手が届く」ようなイメージで使っている。映像制作の一部に3DCGソフトの導入や、立体視映像制作の環境を検討しているクリエイターも多いと思う。今回の事例が参考になれば幸いである。
写真・文:和田 学(フリーエディター&ライター)
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