タナカカツキ 新春のつぶやき 第3回

2010.03.26 Fri

 

katsuki2010.jpg
タナカカツキ:1966年大阪生まれ。1985年にマンガ家としてデビューしてから、映像、デザイン、はたまたインターネットラジオ「デジオ」の仕掛人といろいろな顔を持つ。著書には「バカドリル」、「オッス!トン子ちゃん」、 映像作品として「SUNDAY」、「タナカカツキのタナカタナ夫DVD 」、「virtual drug ALTOVISION 」など。
恒例となったタナカカツキの新春のつぶやき。第一回目はタナカカツキの経歴を辿りながら「お絵描き好きの少年が選んだ職業」について、第二回目は「美と賞味期限」について語っていただいた。10年代の今年タナカカツキは何を考え、何を企んでいるのだろうか?春のそよ風を肌に感じる季節、赤坂にてつぶやいてもらった。

■10年ぶりの新巻「オッス!トン子ちゃん」
ossutonko.jpg
オッス!トン子ちゃん(3巻セット)1970年代の画風やギャグの少女コミック。主人公のブスでドジな女の子が、喫茶店「待夢(タイム)」で繰り広げる珍騒動をベースにしながらも、生きる意味を凄まじい迫力で問いかけてくる異色のコミック!
――昨年12月に発売された待望の「オッス!トン子ちゃん 3巻セット」発売おめでとうございます。昨年は振り返るとどういう年でしたか?
去年はずっとマンガ描いてましたね。10年ぶり、これ(オッス!トン子ちゃん)描いてました。1巻を描き始めたの1998年ですからね、10年以上かかってる(笑)。だから次描くのも10年後ですね。年とったら10年なんて一瞬でしょ。(僕ら)お互いこないだって感じだけど、もう随分長いでしょ(出会いは99年頃)。一瞬にして過ぎ去ってしまうよね。だから10数年ぶりだけど、ついこないだ描いたような感覚なんですよね。

――2巻、3巻はマスターとトン子ちゃんの恋愛や人間模様が色濃く進んでいきますね。
少女マンガだから、「恋」がテーマなんですよね。前衛芸術家啓蒙コミックみたいなところもありますけどね(笑)、僕は前衛芸術にそれほど知識もないですからね、基本的には彼と彼女の恋の話。恋のネタとしてね、あくまでネタとして芸術が入ってくる。自分の中では恋と芸術なら恋の方がヒエラルキー上なんですよね。芸術というのは人生を豊かにする遊びの中の一つだと思うんです。ただ、その遊びの中の一つにマスターは身も投じてしまったという悲劇を描きました。実生活より観念が大切になってしまう人がいるじゃないですか。まあ、でも「芸術」も「恋」も同じ心の問題ですから、相性は悪くないと思うんですけど。

tonko2009.jpg
「オッス!トン子ちゃん」より
――そのネタとしての芸術のくだりもトン子ちゃんの生命エネルギーと相まって、「オッス!トン子ちゃん」の魅力です。トン子ちゃんやマスターの芸術における見解はカツキさんの解釈が反映されているんですか?
どうなんでしょうかね。そのまま自分の考え方かっていうと、違うと言いたいんですけどね(笑)。マスター、チェリー、なおちゃん、トン子らの芸術作品に対しての意見て、やっぱりマンガだから単純化させなけらばいけないんですよね、けっこう思い切った紋切り型なセリフを言ってます。ただ自分の中で、そんな考え方をした時期もあったかなとか、思い出してる描いてる部分もありますから、地続きの自分の見解なんでしょうけどね。登場人物のセリフは、僕は違う意見なんだけどな…って思いながら描いてます。あたりまえか…(笑)。

例えばね、ピカソのくだりで言うと、マンガの描写の中では青空を背景に(ピカソは)“自由で奔放”としているんだけど、実際そうだったかというと、まあたしかにそういう部分もあったんでしょうけど、僕のイメージはそうじゃなくて、もっと乱暴なただただ絵を描くのと女好きなイメージがあって(笑)。でも物事の両面をいちいち表現してたらねえ、誇張がマンガの基本にありますしね、間違っちゃいないがウソでもないっていう一側面な状態ですよね、トン子が芸術作品を目の前にしたとき、できるだけフキダシの中は大きな文字で表したい、短い言葉で「これぞ芸術や~!」なんてね、ずいぶん誤解を生みそうな無理な事をやってますよね。これはしょうがないですね。

――3巻末に登場する小田島等※版「オッス!トン子ちゃん」。作者の小田島さんとは?
僕よりも一回り下の世代のマンガ家さんなんですが、彼の表現や活動にはとてもシンパシーを感じるんですよね。彼はアートディレクターでありイラストレーターであり音楽家でもあって、マンガもたまに描くっていう(笑)立派な仕事をたくさんやってる方です。アートディレクターの佐藤直樹さんの計らいもあって、新解釈で小田島くんにトン子を描いてもらったんです。ちょっと描いてくれませんか?って、ちょっとだから最初4ページから8ページくらいをイメージしてたんですが、それじゃあページが足りない!って彼が(笑)。結局24ページも描いていただきました。そういういうことが自由にできるもの描き下ろし単行本の楽しさですね。
小田島等:1972年東京生。95年よりCDジャケットや書籍のデザインを多数手がける一方で、音楽雑誌を中心にマンガやイラストを描く。著作漫画に「無 FOR SALE」、共著に「2027」、監修本として「1980年代のポップ・イラストレーション」、BESTMUSICとしてCD album「MUSIC FOR SUPERMARKET」を等がある。

――トン子ちゃんはライフワークとしていくんですか?
ライフワークにはしないですけどね(笑)。3巻でおわり。

――ええっ!それはファンには悲しいお知らせです!
頭の中には7巻完結までできてるんですが、描くのが大変で(笑)。マンガって大変。いや、そういうことよりも、そもそも出版社から依頼がないですからね(笑)。

sado_011_02.jpg
「全力ひまつぶし」がモットーのWebサイトdaily vitaminsにて「サ道」連載中 。サ動とは、タナカカツキが苦手だったサウナにいつしか取り憑かれ、サウナ文化その奥義に触れてゆく物語。
P21548042-%281%29.jpg
VJQUIZ名義でのお仕事:タナカカツキ、伊藤ガビン、いすたえこによって2008年結成したVJユニット。サイケデリック映像から、ほんわか紙芝居、果てはパワーポイントによるVJまで!2010年には海外ロサンゼルスに遠征も!

■タナヤル・ホスト開店!
――昨年は「タナヤル・ホスト」も始動されましたね? タナヤル・ホスト(以下タナヤル)は仕事場兼自宅なんですよね?
そう。ファミレスで友人とおしゃべりや仕事をすることがあまりに多くて…、でも最近朝までやってるファミレスが近所に少なくなってね、いっそ仕事場をファミレス仕様にしようと。テーブルのサイズや高さ、ファミレスに行ったときに巻尺で測ってね。ファミレスは寝ると怒られるけど、ここは“ファミレス以上”がコンセプトだから。ドリンクバー、膝掛けの毛布はもちろん、畳でごろんと寝そべったりもできるし、無線LAN、電源コンセントもアホほど備えました。いい季節にはね、窓も戸も開けっ放しにて、外から部屋も丸見えにしてね。僕は職業柄は何をやってるのか近所の人にも怪しまれる可能性ありますからね(笑)、もう丸見えにしたんですね。見せてたら大丈夫やろうと、逆効果の場合が多いですけどね(笑)。最近では子供が勝手に入ってきて勝手にマンガ読んだりしてますね(笑)。なかなかいい感じやと思ってるんですけどね。

――大人も来てるんですか?
もちろん!基本大人ですよ。ものすごいカタイ会議もしますよ(笑)。僕の年齢的にもね、そろそろ高齢者を見習って、彼らが何をして遊んでるのか嗅ぎ取らんといかんと思うんですよね。で、彼ら何してんのかというと、天気のいい日は家の前でトークしてるんですよね。それは凄くうらやましいと思う。天気のいい日には太陽の光を浴びて、季節を感じてね。老人達がやってるような井戸端会議ってなくらないと思うんですよね。人と話をする面白さは強力ですからね。若いときは情報集めに必至で、自分も成長しなくちゃだめって一生懸命がんばる。でもおっさん、おばさんになってきたら、ある程度成熟してくるし、考え方もある意味凝り固まるから、そん時はやっぱりトークし合った方がいいと思うんよね。それに今は連絡網がものすごい。すぐに連絡がとれるからすぐに会って話せるよね。別に会わなくてもいいですけどね。「今何してる?」って。みんなTwitterで言い合ってるから。こんなに大多数の人と瞬時に連絡とりあえてるのは風通しよくて楽しいですよね。僕はもうずーーとオンラインですからskypeなんかにしても。常に複数人の人と離れながらにして繋がってて、部屋の音声も、自分のところも相手のところも垂れ流しですからね。
tanaka_katsuki1.jpg
左:L.E.D.のCD「GAIA DANCE 」ジャケット&ブックレットCGデザイン 
 

tanaka_katsuki2.jpg
右:タナカカツキ、菅原そうた、伊藤ガビンとBeamsがリリースしたDVD「SUGAGURAPH

■オモロい物は共有だ!
2010-03-20-.jpg
Public/image.METHODで公開されたチームラボとのコラボ作「スケッチピストン2(TEAMLAB × タナカカツキ)
――“垂れ流し”には何の抵抗もないんですか?
全く気にならなくなりましたね。それって慣れだと思うんですけどね。家も最近は気密性の高い住宅になってきましたからね。昔は縁側があって障子だったり、いつでも外にひらいてましたよね。やっぱりあれがいいんでしょうかねえ。あれを見習って、「ちょっとお隣さんいるかな?」って覗いて「あ、おるおる」みたいな状態は作った方が怖くないですよね、自分も近所の人もね。そしたらこの前SECOMが来ましたけどね(笑)。「SECOM入れませんか」って。いっつも開けっ放しにしてるから。物創りをしてる人は閉じこもり気味じゃないですか。閉じこもることも楽しいし大切だと思うんですけどね。昔はそれがおもしろかったですよね、誰とも話さない日が何日つづいたとか、今何曜日か判んないとかね。自由な感じでね。僕、もうそういう年じゃないからね。もうそれ20年やってきましたからね。そろそろ今何月何日で、どういう季節で、いつ夏至に入ったとか全部知っていきたい!気温も湿度も知っていきたい。隣のおばあちゃん、今日はどこに行ってるとかね。近所付き合いはうっとおしいと先入観あったんですけどね、そんなことないですね。今のところはね。

情報は持ってるだけだとね、どうしようもないという意味で友達とのおしゃべりって言ってるんですけど、情報にしろ日々の出来事にしろ、おしゃべりして遊んで、ようやくそれらの情報が成仏するというかね。当たり前の事だけど、自分の生活にちゃんと降りていかないとおもしろくないですよね。おもしろい何かを体験したり見たり、実践することっていうのは、結局は友達とのおしゃべりのネタ。嫌なことがあってもネタになるのであればウエルカムですよね。

――ここ近年はいろんな事が前例のない形で変化しましたね。
特にネット上のサービスを中心にね。新しいことは常に僕らをワクワクさせますが、“刺激”を求めるとそれはすぐに飽きるし、映像表現的なことでも、コンピューターグラフィックスが出てきた頃のような刺激はもう求められないですからね。昔は刺激を求めるあまり旅に出たり、聞いた事ない音楽、見たことのない映像とかね、刺激を求める。どっちかというと毎日おんなじ時間に起きて学校に行かなくちゃいけないから、そのバランスを壊したいっていう欲求があったんですよね。バランスを壊す事に一生懸命になる。世にでて仕事をするようになって、壊れたバランスの夢はかなって、ずっと壊れたまんま(笑)、いつ寝てもいつ起きても自由(笑)。でもそれが毎日だとさすがに無感覚になってきますからね。憧れてたのはバランスを崩すことじゃなくて「変化」に憧れていたんですね。でも急激な「変化」はついていけないですから、ゆるやかな変化、金魚の水槽のようなね。今は自分を定点カメラにして周りだけが動いている状態にしておくことに気がついて。決まった時間に起きて決まった時間にご飯食べて、決まった時間に寝る。全部決まった時間に何かをする事にする。で、何が起こるかというと、景色が変わってくる。

■定点カメラの快楽
たとえば朝7;00ジャストに起きるじゃないですか。そしたら昨日より今日の方が明るかったり、咲いてない花が咲いてたり、毎日何かが違いますよね。自分を固定すれば周りの変化がすっごいわかりますよね。周りが勝手に変わってくれるんですよね。どっか行ったりせず、今の地点からもう完全にライブビューにするんですよ。昔は自分から変わろうとしてましたけどね、最近だともう自分が定点カメラなんですよね。
tanaka_katsuki3.jpg
左:展覧会「漫画少年ドヴァイ」:2009年に開催されたタナカカツキ、しりあがり寿、天久聖一、河井克夫、長尾謙一郎によるグループ展。
  tanaka_katsuki4.jpg
右:新装版「逆光の頃」(太田出版)

■積もる面白さ
今ちょっとした空き時間ジャグリングとかするんですけど、一日数分ジャグリングするだけ、それをもう5年くらいやってる。凄い上手くなるんです。アホほどね、もうみっともないくらい必要以上に上手くなって(笑)。一日数分、これが重なって積もってすごい事になるんですよ、どうしても上手くなってしまうんですよね(笑)。年齢的なこともありますけど、一瞬の刺激やセンセーショナルなことってなんにも面白くない。やばいとかやばくないとかね(笑)。

積もらせてる時間しかおもしろくないですよね。中学の時、テニス部に入ったんですけど、入ったら朝練はあるし試合はあるし、ほんとはマンガ家になりたいから、いっぱいマンガ描きたかったんですけどね、学生生活も満喫したかった。恋もしたかった。でもテニスに夢中になってしまったんですよね。ものすごい練習させられたからね。テニスはラリーが続くようになると、そこからが異様におもしろくなる。でも僕はテニスは趣味程度でよかったんです。当時の学生生活では趣味を許さなかったのよね。必要以上に厳しいし。だからそれもう選手にならなあかんレベルまで上達させられる。選手にはなりたくないよね(笑)。今ジャグリングやってても選手になりたくない。それを楽しんでるから。テニスをする楽しさだけ教えてくれと。選手にならんでいいから(笑)。

――ジャグリング以外にも積もらせている事あるんですか?
今ね、もうこれも3年目くらいになるんですけど、「歌のオンライン」と銘打って、歌の練習を毎日やってるんです。歌うことって楽しいですよね。原始的な遊びですよね。でもカラオケとかには行かない。カラオケも好きなんですけど、「歌のオンライン」はカラオケよりも楽しいです。何をしてるのかというと、skypeを会議通話で仲間たち複数人と繋げる。そして、ギターの弾き語りをするんです。もちろん皆、素人。中にはうまい人もいますけど、ギター初心者の人もいます。最近はYAMAHAから電子ギターっていうのがあって、電気ギターじゃなくて電子ギター、弦ががなくて全部ボタンなんです。だからコードを押さえるのが楽、指が痛くないんですね。まあ、それでも最初からギター弾きながら歌えないんで練習するんですけど、その練習を会議通話で公開しちゃうんですね。少ないときは3人くらで、多いときは20人くらい、いずれも少人数制なんですけど、自分の順番がまわってきたら、10分ほど練習するんです。きっちりした順番とかはないんですけどね、ギター弾かないで、歌の練習だけの人もいます。自宅にいながらカルチャースクールみたいなね(笑)。ただ、やる時間もきっちり決まってるわけじゃないし、skypeなんで顔もみえないしね。ほとんどが友人なんですが、友人の友人になると知らない人も中いはいる。うたの歌詞やギターのコードがわからない場合、無料歌詞検索サービスで出てきますし、御丁寧にコード+ギター用ダイヤグラムの表示もある。お手本は動画配信サイトなんかみればオリジナルの歌もでてきますしね。状況は全部説明しきれないですが、まあそういうのを3年やってるとね、何が起こるか!もう、みんなめっちゃめちゃ上手くなるんです(笑)。そんなにうまくなってどうすんだって!(笑)、一日の、ほんの仕事の合間にやるんですよ。他の人が弾き語りしてる間はそれを仕事のBGMにね、心地よいですよ(笑)。自分の番がまわってきたら、歌う。高揚する、眠気が覚める、また仕事する。好循環が生まれる(笑)。ネット上の中でもフレキシブルに遊べるっていう環境が今はあるからね。やりましょうよ。デジオ(タナカカツキのポッドキャスト。なんと1000回越え!積んでます!)も今年で6年目ですね(笑)。
* タナカカツキ「うたのオンライン」参加者募集! タナカカツキskypeID ka2kit

――最後に今年はどんなコトを予定されてるんですか?
遊んでばっかいないで、仕事も両立しようと思ってます!



Tags:
トラックバックURL:http://white-screen.jp/white/wp-trackback.php?p=3315