SOMEONE’S GARDENがガイドする書籍「世界の、アーティスト・イン・レジデンスから」

2010.01.22 Fri

 

someonesgarden2.JPG
SOMEONE’S GARDEN(サムワンズ・ガーデン) 左:西村大助氏、右:津留崎麻子氏
アーティストのためにアトリエや居住施設を提供し、制作支援を行う「Artist In Residence(アーティスト・イン・レジデンス、以下AIR)」。このたび、世界中のAIRを網羅した「世界の、アーティスト・イン・レジデンスから 」(BNN新社)が発売された。世界各国より約90件のAIR、またそこで活躍する100名以上のアーティストを紹介しており、AIRバイブルと言える大ボリュームのアートブックだ。本書の編集を手掛けたクリエイティブ・スタジオSOMEONE’S GARDEN(サムワンズ・ガーデン)の西村大助氏と、津留崎麻子氏にインタビューし、AIRの目的や、本書を通して伝えたかったメッセージを伺った。

■AIRとは何か?
airsomeone2.jpg
AIRの世界分布図
AIRとは「公的機関や基金が各種の美術・芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながらの作品制作を支援すること」。AIRのルーツはミケランジェロがシスティナ礼拝堂に招かれ、天井画を描いた頃にまで遡る。公式な記録が残っているのは、匿名でもの創りを行う職人(アルチザン)制度の中から自分の名前を出して作品を売る”アーティスト”が誕生した17世紀頃。さらに時は過ぎ、ゴッホやゴーギャンらが田舎に理想の環境を求めた19世紀の”芸術家コロニー”もルーツの一つだ。第二次世界大戦後は芸術の民主化のムーブメントによって後押しされ、現在、非公式のものも含めると世界中で1,000施設ものAIRがある。

「AIRの目的は、アーティストに制作と発表の場を提供することです。現在のアートシーンでは絶対的に作品発表の場が不足しており、その結果、パーティで名を売り込む営業行為だけでアーティスト生命が左右されてしまう。また、新人アーティストは作品が売れるほどハイペースで新作を求められ、枯渇して潰されてしまう悪循環もあるんです。しかし、制作と発表の場を与えてくれるAIRを賢く使えば、アーティスト生命を脅かす要因から距離を置くこともできる。中には制作物が完成しなくても良いAIRもあったりして、ヨーロッパでは自分の活動に沿ってAIRを使い分けるアーティストもいるほどです」(西村氏)

アーティストのユートピアと言えるAIRだが、日本ではまだ馴染みの薄いキーワードだ。本書を制作するモチベーションとなったのは、AIRに関する書籍の出版が世界的にもほとんど例がなかったこと。サムワンズガーデンと東京のAIR「Tokyo Wonder Site」とのコラボレーション・イベントなどをきっかけに、本格的にプロジェクトがスタートした。西村氏自身もアーティストとしてNYに渡ってAIRに滞在した経験があり、その意義を身を以て体験していたことも大きかった。

「AIRの最大の魅力は、自然と人が集まってくる、刺激に満ちた場だということです。僕はペインターとしてNY・ブルックリンの”cave”というAIRに滞在していました。そこはグランドストリートというギャラリーが集まっているエリアで、近所にある”BPM”という音楽系のAIRの住人とコラボレーションして作品を制作していたり。そこで学んだことはすごく多いですね」(西村氏)

■中国はマスゲーム?!AIRのお国柄事情。
airsomeones3.jpg
Maleonn 「My Circus」(2005)
世界中のAIRが紹介されている本書だが、AIRが一番盛んな国はオランダだそうだ。オランダにはTransArtists(トランスアーティスツ)やRes Artis(レザルティス)など、AIR最大の国際的機関があるほか、スクワッティング(他国では違法行為である”不法占拠”を表す言葉。オランダでは1年間使用していない施設に24時間滞在するだけで建物の滞在権が与えられる)などを使ってアーティストが自由な制作環境を手に入れることもある。様々な国のAIRを訪ねた彼らに、中でも思い出に残るAIRを聞いた。

「中国のアートシーンは印象的でした。中国のアート・マーケットは上海と北京の二派に分かれています。上海のシーンはNYのようなアーティスト主導型なのに比べて、北京はエリートが取り仕切る国家型。国家戦略としてのアートなので、ペインティングやスカルプチャーなど、売れるアートしか作らない、という姿勢がありました。中にはまるで軍隊のようなAIRもあり、検閲はもちろん、個展のオープニングでは毎回マスゲームを行うなど世界の美術界から離れた活動を行っているのが衝撃でした」(西村氏)

「そんな状況にありながら、北京に拠点を置いてラディカルな作品を手掛ける現代美術家・アイウェイウェイの姿勢は面白いと感じましたね。彼は北京のAIRシーンを牽引している人でもあります。お国柄といえば、国によってアートの立ち位置が違うのが印象的でした。東南アジアではポリティカルな現状を伝える手段だったり、韓国ではファッションメゾンがスポンサーになっているコマーシャルな場で、入れ替えが激しかったり…」(津留崎氏)

実は中国ではアート市場が成熟途中で評論家が育っていないため、写真はまだアートとしてなかなか認められにくい。しかしアーティスト自身が運営するAIR”アーティスト・ラン・スペース”の「Three Shadows Photography Art Centre」など、ユニークなムーブメントも発信されている。

■日本のAIR事情
airsomeones4.jpg
神戸のCAP house
日本におけるAIRプログラムの歴史は、1980年代から始まった。最初はオーストラリアのアート・カウンシルが、日本に発表の場を作るためにAIRプログラムを開始。自力でAIRプログラムが始まったのは、バブル経済期の美術館建設ブームが過ぎ去った1997年のことだ。

「日本で成功したAIRは新潟県の越後妻有や茨城県のアーカス・プロジェクトなど、他にも秋吉台国際芸術村やYCAMなどがあります。なかでもユニークな例は、神戸のCAP house。これはブラジルに移住する移民が泊まる施設だったものを利用していて、一階を移民博物館にして、二階をギャラリーとアトリエにしているんです。博物館を管理するかわりにAIRを存続させる、というやり方がクレバーだと思いました」(西村)

また、日本のAIRの歴史の中で1998年のNPO法の成立は大きな役割を果たしている。これで個人がアート支援活動を行うことが可能となり、AIRの普及に貢献した。一方課題もあり、主体が自治体だとどうしてもアーティストに結果を求めてしまいがちだ。成長する時間も与えてあげるのがAIRの目的だと語った。

■関係性の美学、そしてバナキュラーとは
AIRの提供する価値は、その土地とアーティストを結びつけることでもある。これは「関係性の美学」と呼ばれるが、地元の名産品を使った作品づくりという安易な方向性を持ってしまう危険も孕んでいる。AIRに滞在するアーティストに求められるのは、そのような”村おこし”にとどまらないメタ的な視点を持つことではないか、と西村氏は語る。

「例えば、どこかの地方都市に、いかにも地元アーティストが作ったような作品が展示されていたとします。この”いかにも”な感覚が、建築用語で土着性という意味の”バナキュラー”です。アーティストがAIRでどこかの町に滞在するのであれば、どれだけバナキュラーになれるか、そしてそこから離れることができるかということが重要になると思います。地元アーティストが作ったような作品が、実はアフリカやから来たアーティストが日本に滞在してカルチャーを理解・吸収して創り上げた作品だった、というのが面白い。戦艦にゆかりのある土地だからといって、戦艦に関するアートばかり創られても仕方がない。観光土産を作ってほしいわけではありませんから。せっかく他の土地に行くんですから、篭って制作するだけでなく、その土地で何ができるかが重要なんです。土地に媚びるのではなく、その土地に対してアクションを起こすことがアーティストには求められるのではないでしょうか」(西村氏)

「自治体の運営するAIRでは、アーティストが”早く結果を出してほしい”と迫られてしまうこともありますが、作家自身のクリエイションを考えてあげるのも大切だと思います」(津留崎氏)

バナキュラーでありつつ、そこから乖離したオリジナリティを生み出すのがAIRの究極の目的なのかもしれない。最後に、AIRに興味があるが経験のないアーティストへのメッセージを聞いた。

「レジデンスの存在を知らない方も多いので、こんな場所があるんだ、と思ってもらえれば」(津留崎氏)

「飛び込んでみればいいと思います。アートのテーマとは、マスメディアで隠されるものを表現することでもあります。旅行ビザが切れる3ヶ月だけでもいい、滞在費の節約にもなるんだし、チャレンジしてみればいいんです」(西村氏)

アーティストにとってのユートピア、AIR。今まで見ていた世界と違う世界に飛び出したくなったら、このガイドブックがきっと頼りになってくれるだろう。

AIR_jaket1118.jpg

SOMEONE’S GARDEN(サムワンズ・ガーデン):元トキオン副編集長の西村大助氏と、ユーロスペース、アップリンクなどの映画配給会社にて配給・広報を担当していた津留崎麻子氏。公私ともにパートナーの二人は、若い才能あるアーティストを紹介する手段を手に入れるために「SOMEONE’S GARDEN」を立ち上げ、同名のフリーペーパーを発行。現在issue.9までリリースされている。企業とタイアップ企画も幅広く取り組み、KENZO PARFUMSによる「FLOWER BY YOU」では、赤いポピーを1ヶ月に渡ってヨーロッパ中のアーティストに渡すプロジェクトが話題になる。
5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
西村:ポール・グルート
津留崎:ユーロスペースで働いていた時の人の出会い
Question 2: この職に就いたきっかけは?
西村:自然に流れ着きました
津留崎:自分の手でアーティストを紹介するメディアが欲しかった
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
西村:「2001年宇宙の旅
津留崎:「汚れた血
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
西村:ピアニカ、猫、デジカメ
津留崎:猫、ビデオカメラ、携帯
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
西村:Flex*は面白いというか役に立ちます
津留崎:中国語会話のCD
*flex: Webアプリケーション構築のオープンソース・フレームワーク
Tags:
トラックバックURL:http://white-screen.jp/white/wp-trackback.php?p=3189