Red Oneをミュージックビデオ(MV)の撮影に使ってみた

2009.05.15 Fri

 

 

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ELISA “Wonder Wind” Dir/VFX: Tamura Takamasa (DENPO-ZI) Prod: DENPO-ZI
原作コミックの累計発行部数が1100万部を超える「週刊少年サンデー」の人気漫画「ハヤテのごとく!」(原作:畑健二郎)。第2期となるテレビアニメが現在テレビ東京他で放送中だ。そのオープニングテーマを歌うの注目のアーティストELISA。シングルは5月20日発売。初回限定盤には本稿で紹介するMVを収録したDVDが付属!
今、映像業界で「革命」とか「型破り」という表現で話題になっているカメラがある。レッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニーのシネマ用ビデオカメラ「Red One」のことだ。Red Oneがこれほど話題になっているのは性能とコストパフォーマンスの高さからだろう。映画「スター・ウォーズ エピソード3」や、様々な映画の撮影に使われているソニーの「CineAlta F35」のシステム価格は数千万円とも言われているが、Red Oneは同じ4K(4,096×2,160ピクセル)の撮影が可能で、価格は約200万円を実現している。それが、ソニーでもなくパナソニックでもない、できたばかりの米国のベンチャー企業から発売されたことにも驚くばかりだ。

そんな話題のカメラを東京・両国にある映像プロダクション「株式会社電報児」の田村隆匡氏が扱い、ELISAさんが歌う「Wonder Wind」のMV制作に使用したという。撮影から編集まで同MVを幅広く手がたディレクターの田村氏にカメラを使った感想を聞くことができた。

――Red Oneを初めて見た感想は?
初めてモビルスーツと出会った戦車兵のような驚きでした(笑)。とにかく解像度の大きさにびっくりです。今までずっと見てきたHD(1,980×1,080)の解像度の4倍の面積もあり、画質、使い勝手を含め総合的にお金を投資した価値があったと感じました。
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まるで軍事兵器のような個性的なデザインを持つRed One

――4Kという広大な解像度をMVでどのように活用しましたか?
まずはなんといってもブルーバック撮影です。「Wonder Wind」は全カット、ブルーバック撮影でした。例えば、撮影前にスタジオ内でテストショットを撮って色の抜きの確認をしてみたのですが、その結果に驚きを感じました。ディテールを含め思い浮かんだイメージ通りに色が抜けています。もちろんブルーバックでは照明さんの技術も影響してきます。それらをパフォーマンスよく再現できていたのには驚きました。あと4Kほどの広さを活かして、その中からHDのトリミングを自在に動かしてアングルを決めるユニークな演出も試みました。通常のカメラで同じことをするならば、カメラを垂直・平行移動できる特殊なカメラ移動装置が必要なところですが、4Kで広く撮影して編集時に見せたいところだけHDのサイズにトリミングすれば、カメラアングルは地平線に対して平行に動かせるうえに、かなり機械的にアングルを動かすように演出もできます。実際にMVの中でも奇抜な演出になりましたが、それはそれで成功したかなと思っています。

――スローは実際に使いましたか。
歩くシーンに使いましたが、とても良い演出になりました。今まで使っていたカメラでは2.5倍が限界だったのですが、Red Oneだと24フレーム基準の設定では120フレームまでオーバークランクが利くので5倍のスロー(ただし2Kに限定)までできます。これは地味ではありますが演出の幅がかなり広がった感じです。

――Red Oneは「普通のカメラと違う」と言われていますがどんなところですか?
確かに普通のビデオカメラだと思って使うと意外な違いに気がつきます。普通のカメラだと電源を入れて3秒とか5秒で起動、設定にもよりますが、ある程度即効的に使えます。Red Oneは電源を入れてから撮影できる準備が整うまでに現段階のビルドだと1分30秒ほどかかりますので、節電のためにバッテリーの電源をオンオフしながらの撮影には注意が必要です。

また熱も凄いです。動いているときは、手のひらで熱さを体感できるぐらいに熱を持ちます。冬などで寒いときにはここで手を温めます。ここの部分はカメラというよりパソコンという印象を受けました。あと、Red Oneを使っていて面白いのが現在のビルドではISO100~2,000の間で感度の設定が可能なところで、普通のビデオカメラで暗いところを撮影する考え方がちょっと違います。普通のカメラは環境光がなくどうしても暗くなってしまうところでは、デジタル的にゲインをコントロールして画の明るさを調節しますが、Red Oneでも同じこともできるものの、4Kというディテールなのでフィルムカメラと同じように感度を上げたり、ライティングをきちんとしたり、明るいレンズに交換して対応する感じです。さらに、色温度も意識しなければいけません。普通のビデオカメラはホワイトバランスで色温度を決めますが、Red Oneの場合は「オート」のほかに「デイライト」「タングステン」、そのほかにマニュアルでケルビン値を設定できるマニュアル・ホワイトバランスも搭載しています。だからRed Oneの撮影って少しアンダー気味で撮って現像段階で露出調節するような発想もできます。そのあたりの発想はまさしくデジタル一眼レフスチルカメラのような印象を受けました。

――被写界深度の感覚はいかがでしたか?
Red Oneの一眼レフレンズとの相性と被写界深度のボケのよさは予想以上に良好でした。私は以前から被写界深度の浅い画を得たいために、ビデオカメラに一眼レフスチルカメラのレンズを付けられるCinevate社のdofアダプタを使っていましたが、dofアダプタと比べても被写界深度の鮮明さでRed Oneは格別なパフォーマンスを演出していました。dofアダプタでは「投影しているものを映す」という概念なので確実に明るさが失われます。ただ、その修練が今回のRed Oneの撮影にも確実に生かされました。

――今回の撮影にはどんなレンズを使われましたか。
今回はMVということもあり予算的なパフォーマンスを顧慮してPLマウントではなくニコンマウントを使用しました。ニコンマウントではレンズを50mmか85mmか結構迷いましたが、結局、全体的にバストアップが中心になることや、人物撮影がメインなので、汎用性のよさを考慮して50mmを選ぶことにしました。さらに、Red Oneで使うには絞りリング(絞り環)が手動で調節できるレンズでなければいけません。例えば、ニコンの最新の現行レンズである「Gタイプレンズ」は絞りリングがないので対応することができません。そこで選んだのがCarl Zeiss Planar T*1.4/50 ZFです。ZFレンズは、Red Oneのパフォーマンスを100%を発揮していましたね。
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撮影に使用したレンズはニコンマウントで使用可能なCarl Zeiss Planar T*1.4/50 ZFを取り付けた例

――4Kの撮影となるとネックになるのはストレージですよね。どのようなメディアで撮影をされましたか?
今回はカットごとに撮影を考えていたので16GBのメーカー純正コンパクトフラッシュ(CF)を使用しました。CFカードは撮影したスタジオからもレンタルできたので、とても助かりました。そのCFに4K、16:9で24フレーム、もっともクオリティの高い「RED CODE 36」と呼ばれるモードを選択して動いている被写体を撮影すると、16GBのメディアには約10分しか録画ができません。さらに、16GBいっぱいに記録したメディアをPCにコピーするのにUSB接続のデバイスでは約8分かかりました。CFカードからデスクトップへのコピーした回数は22回。最終的にはNGも含め撮った素材の総容量は約350GBにもなりました。今回のようなMVや映画のようにカットごとに撮っていく場合はCFカードでも大丈夫でしょうが、報道やライブ映像のようなものの場合は、RED-DRIVE(320GB)などのストレージがないと厳しいかもしれません。
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16GBと8GBのメーカー純正CFカード

――Red Oneで撮った素材をどのような方法で編集されましたか?
Red Oneの収録素材はRAWデータとなるR3Dファイルと呼ばれる形式のものなのですが、これをREDCINEというソフトを使ってアップルのProRes 422形式に変換しました。REDCINEはRed Oneのファイルからさまざまなファイル形式に書き出せる変換ソフトのようなものです。その他REDALERTなどを活用すればRAWファイルと同じように簡単に色補正などを行うことができますが、全体のワークフローに沿ったかなり細かいところまで色補正できるソフトが今後発売されることを期待します。

しかし、この変換にはかなりの時間を奪われてしまう事になります。アップルの最新の8コア搭載のMac Proを使っても5分の映像に45分の変換時間がかかりました。だから撮影した次の日はまるまる変換だけで、まったく作業ができませんでした。時間がかかることは前もって分かっていたのですが、ここまでとは正直驚きました。これら速度が改善されればさらに使い勝手がよくなると思います。

使った編集ソフトはMac OS X版のPremiere Pro を使用しました。Premiere ProのMac OS X版はQuickTimeがベースになっており、QuickTimeの圧縮で評判のよいApple ProRes 422コーデックに変換して編集が可能です。また、After Effectsとのダイナミックリンクも顧慮したこともあります。作品の納期がかなりぎりぎりだったので、コピーペーストで相互間のムービーを移動できるAdobe製品にもメリットを感じています。

ちなみに、現在のPremiere ProでもRad Oneで撮影されたR3Dファイルにネイティブに対応しているが、5月下旬に公開されるアップデーターで「R3Dの色表現メタデータを直接操作」などにも対応する予定です。※詳細はAdobeブログにて
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REDALERT(野外で撮影したテストショットより)
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REDCINE(野外で撮影したテストショットより)

――Red Oneをさらに使いこなすために投資するとしたらどのあたりでしょうか。
アクセサリーもいろいろとサードパーティーから出そろってきています。使い勝手を向上させるために私もいくつか購入しました。外部モニターアウトのことを考えまず購入したのが、ELEMENT TECHNICA社製品の「Video Break Out Box」です。最初から付属していてもいいなと思われるアイテムの1つで、パソコンのようなRed Oneにビデオカメラ標準のアウトプット出力のインターフェイス機能を追加した印象で、私の方では外部モニターとつなげてプレビュー出力用として使っております。主にクライアントや照明さん確認用モニターにつなげて活用しています。配線の関係上これはとても便利なアイテムでした。

また、今注目している外部機器はワイヤレスフォローフォーカスです。大型の手持ちカメラ移動やステディカムなどの機器ではオペレーターが移動撮影やカメラワークなどを中心にオペレートしているので、フォーカス(ピント)合わせをする方がカメラマンの隣に張り付いているケースがあります。ワイヤレスフォローフォーカスはフォローフォーカスの操作を無線で飛ばし、別途コントローラーで操作することができますので、隣に張り付いていなくても、離れているところからでもモニターを確認してフォーカス合わせを簡単に行うことができるようになるからです。
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ELEMENT TECHNICA社製のビデオブレイクアウトボックス

外部機器以外ではやはりレンズに注目しちゃいます。とにかくレンズの性能がここまで影響するカメラは初めてです。今回はニコンマウントだったためにニコンレンズに詳しい友人からお勧めレンズのアドバイスを受けました。プロとして活躍しているパワーユーザーなので、癖や特色なども聞くことができて本当に助かりました。

今後はRedから販売されているRED PRO PRIME SETなどの種類の豊富なPLマウントの大口径レンズの購入を検討しています。PLマウントのレンズでもいろいろな憶測が飛びかっている状態です。何がいいかというのはこれから捜し求めていかなければいけません。Red Oneなどのデジタル機器との相性がいいもの、というのも1つの課題なのかなと思います。

――Red Oneを使いこなすうえでの課題や、カメラ全般の感想などありますか。
まず一番に体力を鍛えなければなりませんね。たまに野外撮影もしてますが、なにせこのカメラは重いです。レンズやオプションにもよりますが、16Kgもあります。リグをつければ手持ちも可能ですが、それでも重すぎです…。ハンディカムのように片手の手持ちで撮れるほど甘くはありません。用途にもよりますが、クレーンや三脚以外でのオペレーションだと、ある程度の体力は必要不可欠な要素になるでしょう。ステディカムのオペレーティングでも同じことが言えると思います。

汎用性と面白さ、クリエイティブ性。Red Oneは最高の土台を用意してくれました。そういった意味ではいままで存在しなかったカメラでしょうね。
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モニタを確認する田村氏(左)
田村隆匡:東京・両国にある映像制作会社「株式会社電報児」代表。ミュージックビデオや企業・販売促進用プロモーションビデオなどを多数手がけるほか、Adobe認定校、Apple認定校のライセンスを受けたビデオ制作者向けのトレーニングも行っている。

田村氏がELISAさんのMVを制作するのは今回で3作目。それら田村氏が手がけた作品の魅力といえばなんといってもブルーバック合成を使って独特の世界観を描いた映像だ。今回の作品でも西洋の城壁を実現して大掛かりな世界感を実現したが、今後はさらにどのようなスケールアップした世界を実現するか期待してしまう。次の作品が楽しみだ。

写真・文:和田 学(フリーエディター&ライター)
Red Oneの販売代理店
問い合わせ先:西華産業 http://www.seika-di.com/
TEL:03-5221-7119
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