桑島十和子と魔法の美術

2008.10.09 Thu

 

 

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桑島十和子プロフィール:東京都出身。女子美術短期大学造形科絵画教室卒業。短大在学当時から現在に至るまで、株式会社サムシングエルスに籍を置く。CMや映画と幅広く映像美術を担当。映画「嫌われ松子の一生」で、第30回日本アカデミー賞優秀美術賞受賞。
これまでの日本映画にはなかった形でVFXと実写を活用している中島哲也監督「パコと魔法の絵本」。「下妻物語」「嫌われ松子の一生」とはまたひと味違った美しいストーリーで、感動を生んでいる。これらの中島監督作品を思い浮かべる時、一風変わった内装の部屋や、一癖ある派手な建物など、インパクトのあるビジュアルがまず浮かぶ人も多いのではないだろうか? こうした中島監督作品のヴィジュアルを統括する“美術”を手掛ける桑島十和子さんに、仕事や創作の源について語っていただいた。

■美術のお仕事とは?―― 「セットが作れれば、CMも映画も関係ない」
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パコと魔法の絵本」あらすじ:一代で会社を築いたワガママ放題のクソジジイ・大貫(役所広司)と、交通事故の後遺症で1日しか記憶が保たない少女・パコ(アヤカ ウィルソン)の交流を軸にした、ハートフルストーリー。役者がフルCGキャラクターに?! かつてない映像体験は必見。現在絶賛公開中。
(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会

―― 「パコと魔法の絵本」の台本を読んで、まず最初にイメージしたことは何ですか?
桑島:今回は「子供向け」だな、って感じたので、子供に喜んでもらうのが一番いいなと思ったんです。自分が子供だったらきっとこういうのが見たいなっていうのを実現していきました。

―― ちなみに前作、前々作の時はどうでしたか?
桑島:「嫌われ松子の一生」の時は、すごい話がややこしかったんですよね。色んな人が出て来て、短時間でどんどん変わっていく話だったんです。うまいこと全部のお話に「部屋」が絡んできたので、それで、この時代は黄色、この時代は赤、この時代は紫と全部部屋を色分けしたんです。最終的に全体で印象に残れば、と思って。

―― では、美術という仕事がどういうものなのか教えて下さい。
桑島:仕事としては、台本だったりコンテだったりをもらって、世界観を考えます。監督と話しつつ、それを具象化していく仕事ですね。私は基本的にCMの仕事が多いんですけど、CMの人には映画の人って言われて、映画の人にはCMの人って言われてます(笑)。

―― 桑島さん的にはどうなんですか?
桑島:全然どっちでも。私はセットが作れれば! それが何であろうといいです!

―― 具体的にどういうところをやられたのか教えていただけますか?
桑島:話を読んで、例えば「病院」だったらまず設定を考えます。「こんなところにあるこんな風な病院じゃないか」みたいなことを全部絵で描いていくんですね。監督からオッケーをもらったら、図面を引きます。そして、お金の計算をして、大道具とか塗り屋さん、鉄骨屋さん、コンクリート屋さん、造園屋さんへ発注をかけます。その施行の管理、撮影の前の日の段取りも同時にやりながら、スタジオでは他のセットを組みながら…何カ月間、上手くみんなをまとめながら進めていきます。

―― 予算から取りまとめまで、かなりオールマイティにこなさないといけないんですね!
桑島:今回は「パコ~」のキャラクターも考えさせてもらってるんです。私が平面に描かせてもらったキャラクターを、*増尾さんがCGにしてくれたり、その絵を参考にスタイリストさんが「じゃあ衣装はこういうふうにしよう」って考えてくれたり。実際に作っているのは増尾さんだったり**申谷さんだったりするんですけど。こうしましょう、みたいな原案みたいなものは考えました。
*増尾隆幸/老舗CGプロダクションの一つルーデンスの社長兼CGディレクター。これまでの中島作品の他、大手企業CMなども多く担当している。
**申谷弘美/これまでの中島作品の他、映画「スワロウテイル」「百万円と苦虫女」な ども担当し活躍しているスタイリスト。

―― キャラクターデザインも桑島さんが考案だから、実写とCGが入り交じっているのにもかかわらず、あんなに統一感がある世界ができたんですね!
桑島:みんなでコラボ! みたいな感じです(笑)。私が描くのなんて、キャラクターの正面と、ちょこっとだけ…そうすると、こうなっちゃうんですよ!(笑)

―― なるほど。映画「パコと魔法の絵本」はもともと舞台が元になっているようですが、舞台などは参考にされたんですか?
桑島:実は、見てないんですよ、全然。見なくていいって言われて。だから仮の台本だけを元に、考えていったんですよ。

―― 今回は病院が舞台で、野外ロケとかはなかったんですよね。全てスタジオにセットを組まれたんですか?
桑島:そうです。最初のフラダンスと階段のところだけロケセットで。あれはあるハウススタジオみたいなところを借りてるんですけど、あとは全部セットです。

―― 窓の外を全部書き割りにしているのはなぜですか?
桑島:ある程度架空のお話なので、リアルな空抜けがなくても良かったんです。あと、予算の都合やスタジオのサイズとかもあったりして。嘘っぽい空だったり、嘘っぽい月だったりがなきゃだめだったんですね。

―― 今回はCGのアートディレクション的なこともされたんですか?
桑島:ざっくりとしかしてないです。病院の窓の抜けの感じは多少描いてますが。「お池の世界」とかは増尾さんががっつりやってくれたんで、私はキャラクターぐらいです。あと増尾さんが現場にいて、「十和ちゃんここはどんな感じ?」みたいな質問をちょこちょこしてきてくれて、「こうこうこうじゃない?」みたいなやりとりをしてましたけど、CGに入ってからはもう増尾ワールドに入ってると思います。

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通常であれば、実写となじむフォトリアルなCGの追求が行われるが、中島作品では、リアリズムを追求しないCGの使い方が、かえってストーリーへの没頭を助けていると言える。
(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会
―― 桑島さんの助手さんは何名くらいいらっしゃるんですか?
桑島:6人ですね。多い方だと思います。だんだん多くなってきちゃって…。常日頃一緒にやっている人と、プロジェクトの時だけ集まる人といますね。私は美術の仕事をしている人の中ではちょっと特殊で、会社員なんですよ。だから、基本的にうちの会社の子を使って、さらに外からフリーの子たちを入れるという感じです。

―― ひとつの映画で関わる期間は結構長いですよね? パコの場合はどれくらいですか?
桑島:昨年(2007年)の1月から入って、アップしたのが(2008年の)6月。6月はまだスタッフルームにいて、スタッフルームがばれた後も、私は作業が残っているんですよ。こないだもガマ王子がどうしてガマ王子になったのか、っていうWeb用のお話を作ろうってことになって、挿絵を描いていたんです。

―― お疲れさまです! この仕事についたきっかけは、女子美時代のバイトということですが?
桑島:バイトの時は制作部でした。映画の人とコネができれば、仕事はなんでも良かったんです(笑)。そこで師匠(*寒竹恒雄さん)が美術をやっていて…。実際「美術」という仕事が本当にあるかもわからなくて、「本当にいるんだ、こういう人!」って知ったのが寒竹さんだったんです。寒竹さんと私がたまたま誕生日が一緒だったんです。それで覚えてくれて。私は映画の美術をやりたかったので、アピールはしますよね(笑)。それで、私の中で「この仕事だな!」って思って「何かあったら呼んで下さい」って寒竹さんにお願いしたのが始まりです。
*寒竹恒雄/映画「Beautiful Sunday ビューティフルサンデー」「夏時間の大人たち HAPPY-GO-LUCKY」の他、CMの美術も多く手掛ける

―― ちなみに誕生日はいつなんですか?
桑島:11月21日です。昭和46年です。師匠は年は違いますけど(笑)。

■憧れの映画のお仕事―― 「迷いは何にもない!」
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(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会
―― 実際に憧れの仕事に就いてみて、理想と現実のギャップはなかったですか?
桑島:全くないです! まさに、こんな感じ! 当たってた!(笑) 今年で、バイトを始めた時から19年目なんですけど、楽しかったことしか覚えてないですね。

―― 独り立ちしたのはどういう作品ですか?
桑島:コマーシャルです。私は30歳までは独り立ちできるなんて夢にも思ってなかったんですよ。でもそれが25歳の時だったんですね。早い方だと思うんですけど、25歳の私に仕事を任せてくれた人たちはすごいな!って、今は思いますね。

―― 「下妻物語」の時はおいくつですか?
桑島:31歳です。それもたぶん早いと思うんですよね。怒濤のように、嵐のような気がします。

―― 最初映画やられて、一番強く感じたことは何ですか?
桑島:おもしろかった!!ってことですね(笑)。

―― そうですか(笑)。ところで、監督は完璧主義で知られていますけど、美術にも厳し いんですか?
桑島:(笑)それも私、中島監督しか知らないので、それが普通なんですよね。完璧主義とも思わないし。

―― 中谷美紀さんの手記のように、映画の全スタッフに対して褒めない感じですか?
桑島:そうですね、映画一本で1~2個ぐらい。でも、本人が感動した時は素直に褒めてますよ。いい時は「いい」って言うし。

―― パコでは、どこか「いい」と言われた所はありましたか?
桑島:ないですね(笑)。でも、一回だけ、室町(妻夫木)の病室の塗りだけ褒められたかな。それぐらい…(笑)。私が何を描いても「これは素晴らしいね~!」っていうのは今まで一回もないですよ。でもGOサインが出たら、それでいいってことなんですよね。描く度に「いいね~十和子、いいね~この線!」って言われても気持ち悪いし(笑)。

―― (爆笑)中島監督とはもともとCMで一緒にやられていて、ドラマ、映画とやられてるんですよね? CMと映画の違いは何ですか?
桑島:CMは短期間で、2、3日で撮影も含めて終わっちゃいますけど、映画は明日も本番、明後日も本番って気が抜けない。カメラをまわす時間も違います。映画は前の日までに撮影の段取りしておかないといけないし、それが毎日っていうのは大変なことだと思います。映画の人は凄いな、って思います。

■夢がそのままお仕事に!!
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(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会
―― パコは「子供が好きなものを目指された」とのとこですが、ご自分が子供の時はどうでしたか?
桑島:「しっかりした子だね」って言われてました。

―― おお~素晴らしい!
桑島:うちの母親が少女みたいなかわいらしい人なんです。だから、私を見ると「しっかりした子ね」って言われるんです。

―― 遊びではどういう遊びをしてましたか?
桑島:私は完全に外派です。木に登ったりとか、「この塀はどこまで続いているんだろう…」って思って、どんどんどんどん歩いて、人のうちにどんどん入っていくような感じでした(笑)。忍者になりたい時期もありました。

―― キャッツアイになりたい時期とか。
桑島:それもありましたね(笑)。絵を描くのも好きでしたね。塗り絵とか、マンガ描いたり、っていうのは凄くしてます。粘度とか立体ものは興味なかったですね。

―― 美術を目指したきっかけは何ですか?
桑島:高校から女子美術大学なんですが、中学生の時決めたんです。その時からお話に沿った絵を描きたいって思ってたんです。それがたまたま映画だったり、CMだったりっていう映像の世界に行き着いたってだけ。

―― じゃあ、15歳とかぐらいの頃からの夢がかなってるんですね!
桑島:そうですね。そのまんまとんとん拍子に。

―― 飽きることもなく!
桑島:そうですね。

―― すごい幸せなことですね!
桑島:はい。たぶんすごい稀な人だと。幸せもんです! 出会う人たちも、やりたいことをやらせてくれる人が多かったりするので、たぶん凄く幸せものです。

―― 桑島さんは、*村木与四郎さんと村木忍さんを尊敬されていると聞きました。二人は戦後の街並みを写真に収めたりスケッチしたりすることをライフワークにされていたそうですが、仕事に関係なく桑島さんが調べたりしていることはありますか?
*村木与四郎/「酔いどれ天使」から黒澤明監督作品に参加。 村木忍/与四郎の妻。東宝の社長シリーズなどのシリーズものや、数多くの市川崑作品を手掛けた。黒澤作品「どですかでん」「乱」で与四郎と美術監督を務める。

桑島:あー!あります、最近調べ始めたのが…(笑)。これほんとしょうもないんですけど!

―― なんですか??
桑島:最近フリーメイソンについて調べ始めて…。

―― (爆笑)フリーメイソンですか!?
桑島:どの作品にも全然役立たないと思うんですけど…。

―― あまりにも意外な方向からきたので驚きました!
桑島:変な宗教にはまってるとかじゃないんですけど。

―― 何がきっかけだったんですか?
桑島:子供の頃からキリスト教には興味あったんですよ。幼稚園がキリスト教で、マリア様は私のそばにいたんですね、ずっと。お願いがある時はマリア様に頼んだり(笑)。最近時間が出来たので、イタリアに行ったんですよ。たまたま、何にも知らずに歩いてた道が、「天使と悪魔」(「ダ・ヴィンチ・コード」のダン・ブラウンによるサスペンス小説。映画化予定)の道だったんです。しかも、パンテオンていう建物の前でその撮影をしてたんです!帰って来て「天使と悪魔」を読んだら、歩いてた道がその通りで、びっくりしちゃって!

―― へえー!
桑島:私サスペンス読むのも初めてで。「ふあああア!」と思って。それから「ダ・ヴィンチ・コード」も西洋の裏事情じゃないですか。「すごい隠されてるなんかがあるぞ!」って思い、フリーメイソンとか、イルミナティとか、テンプル騎士団を調べようって!

―― いつか日本でそんな映画が作られる日が…。
桑島:ないと思います!(笑) 絵画とかに密着してるじゃないですか。レオナルド・ダ・ヴィンチだったりとか。それが元っていうのがすごいショックで。そんなこと誰も学校の時教えてくれなかった。「ハア~!!」って。で、調べてみようかと。世の中に知らないことって一杯あるなって。

―― ありますよね~。
桑島:そのイタリア旅行が相当面白かったんですよ! 仕事以外で海外なんてとんと行ってなかったので。一杯吸収しました。

―― 美術館とか?
桑島:そうです。ほとんど美術館です。あと教会ですね。教会とか多すぎて歩き疲れちゃって。ご飯とかマクドナルド食べてましたもん!(笑)「イタリアなんて美味しい国に行ったのにあんた何も食べてないの?!」って言われて。

―― その旅がインスピレーションに…
桑島:これからはなるかもしれないです!

―― ありがとうございます。それでは、最後にパコの見どころを!
桑島:ガマ王子かな。私が描いたガマ王子より、増尾さんが作ったガマ王子の方がすごいかわいいことに感動したんですよ! なので、ガマ王子の動きとか楽しんでもらえるといいですね。「かわいくなった~!」っていうのがすごく嬉しかったですね。

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CGキャラクターが大根役者だと、観ていても泣けません。しかし、本作のCGキャラクターたちはすべてが芸達者! CG制作者たちの魂を感じる感動のアニメーションが完成しています。
(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会

「夢が叶って、その夢だった仕事に邁進している女性」はたくさんいると思いますが、ここまで幸せそうに仕事を語る人には初めてお会いしました! ポジティブパワーが炸裂する桑島さんが作る映画セット。きっとそのパワーが、映画自体のパワーにもつながっているのだと思います。これからも、私たちをそのパワーで楽しませて下さい! 余談ですが、取材時、桑島さんは様々な歓声で自身の感情を伝えてくれました。「ふああア~!」「ああア~」言葉にならない、その時の感動や勢いといったものが伝わってきて、すごく楽しかったです。合わせて発売された、映画中でキー・アイテムとなるポップアップブック「ガマ王子対ザリガニ魔人―パコと魔法の絵本」からも桑島さんの表現力を感じて下さい!

5つの質問 一問一答
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください
妄想
Question 2: この職に就いたきっかけは?
やりたい事だったから
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
バック・トゥ・ザ・フューチャー
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
鉛筆削り/中島監督にもらった犬のフィギュア(本人の手書きコメント付き。フレーズは「それでいいのか?」)/マリアの絵
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
フリーメイソンリー
パコと魔法の絵本」
全国東宝系にてロードショー中
監督:中島哲也
製作:「パコと魔法の絵本」製作委員会
配給:東宝
(C)2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会
・櫻田千枝子(SAKURA堂)/取材&文
CGWORLD編集部を経て現フリー。自分好みの素敵オモロ映像を日々探索。好きなものは、南の島、代々木公園、のんのんばあ、フォルティ・タワーズなど。
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