(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
上空で繰り広げられる3DCGによる圧倒的な戦闘シーンを手がけたのが、老舗のCG スタジオ”POLYGON PICTURES(ポリゴン・ピクチュアズ)“。臨場感溢れるこの映像表現が実現したヒミツを、CGIディレクターの長崎高士氏とプロデューサーの石原直樹氏に訊いた。
■とことんリアルさを追求した白熱の映像制作
左:長崎高士氏、右:石原直樹氏
そして押井監督、メカニックデザイナーの竹内敦志氏らによる、飛行機のディテールへのこだわりもケタ違いだ。主人公のユーイチが乗る飛行機「散香」の制作だけで、なんと半年を要したという。飛行機の材質までをも考慮した細かな設計と演出がなされている。
「押井監督がこだわった”ちゃんと飛べる、リアルな説得力のある構造を”というギミックに対応するのが大変でした。具体的にはメカニックデザイナーの方が線画で起こしたものを3Dに落とし込んだときに、曲線などのディテールにおいてもリアルを追求したため時間をとられたんです。しかし飛行中のプロペラの感じとか、実写映像のプロペラ機と見比べても、より説得力がある映像が生まれたと思ってます。妥協しなくてよかった(笑)」(石原氏)
飛行機に強い面々で結成されたブレーン。たとえ1カットしか出てこない飛行機でもこだわり抜く。薄い鉄骨とアルミで出来た軽量の重爆機は、機体のしなる尾翼を忠実に再現したり、肉眼では見えないが飛行する大編隊一機一機にナンバリングを着けたりと、とことんリアルさを追求し専門家も太鼓判を押す画作りがされている。
更に、驚く事に3DCG上で飛行機を実際のスピードで飛行させている。その理由は、前述した通りのカメラ機の存在を出すためなのだが、そうすると1フレームでものすごく遠いところまで飛んでしまうため、飛行機雲や煙などのエフェクトを付けるのが難しかったと長崎氏は語る。ほかにもコックピットの窓のキャノピーの傷、カメラレンズの埃が反射してフレアになっているのを再現したりと、ディテールを追求する情熱はとどまることを知らない。石原氏はチームのモチベーションがすごく高かったので、クリエイターを信頼し自由度高く制作してもらうことが出来たという。
■2Dと3Dの斬新な融合
(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
MAYAとVUEを主に使って制作。リアリティだけではなく、夜のシーンのコックピットは情緒的にするために現実ではありえないくらい光らせている。
MAYAとVUEを主に使って制作。リアリティだけではなく、夜のシーンのコックピットは情緒的にするために現実ではありえないくらい光らせている。
「押井監督から、空に上がったら3DCGで、飛行機含め全て、足が地上に着いたら2Dになるという演出の意向がありました。監督曰く「普通のセルアニメでも背景と登場人物と質感の違うものを合わせて成り立っているんだから」と言われて。セルアニメでは美術は絵筆で、人物はセルでベタ塗りですから。2Dと3Dが混在していてもただ見慣れていないだけで、怖がらずにどんどんやっていいんだよと」(長崎氏)
上空シーンでもキャラクターは2D表現。その2Dと3Dの融合も、常識を覆すやり方だった。通常は2Dでレイアウトを起こし、そこから目合わせで3DCG制作をするが、今回は3Dでレイアウトを起こして仮のライティング、アングルを決定し、原画担当に渡した。そうする事により、飛行機がロールするシーンでは飛行機の陰もキャラクターの影も動くという整合性がとれ、フローとしても親和性がよかったという。ポリゴン・ピクチュアズから提出したアニマティクス(CGのための動く絵コンテ、ビデオコンテ)も精巧に作った為、パースの破綻が原画のほうでも無かったのがメリットだ。

これが精巧に作られたアニマティクスだ!アニマティクスの時点で既に臨場感のある動きが完成している。
■無限の雲海の制作を可能にした「VUE」
(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
長崎氏のお気に入りは、雨の中の戦闘シーン。プロペラが回ることで周りに雨の形が残るところや、尾を引いている感じを作るのが難しかったという。
長崎氏のお気に入りは、雨の中の戦闘シーン。プロペラが回ることで周りに雨の形が残るところや、尾を引いている感じを作るのが難しかったという。
「3DCGでそこにあるかのような感じで雲を作るのが技術的なチャレンジでした。こういった質感の雲海って美術さんが描くことはできるんです。ただし2Dだと視差が出ないので、実際そこにいる感覚にはならない。VUEは流体で雲を作れるので、無限の雲海が作れる。カメラが手前に動く感覚や、そこにいるような雲海を作るのはVUEでしか出来ません。ただしレンダリングは、1フレーム2時間、3分の映像に2ヶ月かかりました(笑)。他の3DCG部分は、MAYAを使って制作してます」(長崎氏)
■ビッグ・プロジェクトに欠かせない、分業制のメリットとは?
(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
「映画の半分は音でできてるんだよ」と語る押井監督のこだわりは音響面にも。最新の6.1チャンネル音響を採用し、米国スカイウォーカー・サウンドにサウンドデザインを依頼。百数十チャンネルを超える膨大な音声トラックを全て使い尽くす、贅沢な音響制作が行われた。
「映画の半分は音でできてるんだよ」と語る押井監督のこだわりは音響面にも。最新の6.1チャンネル音響を採用し、米国スカイウォーカー・サウンドにサウンドデザインを依頼。百数十チャンネルを超える膨大な音声トラックを全て使い尽くす、贅沢な音響制作が行われた。
ポリゴン・ピクチュアズが分業制を取り入れたのは96年ごろから。アメリカから専門家を呼び、分業制のノウハウを学んで取り入れた。海外のCGスタジオでは定着している分業制だが、日本だと大規模のプロジェクトが少ないためか、一人が最初から最後まで担当する場合が多く、クオリティや納期が安定しないという属人的なリスクが発生する。しかし分業制であれば新人を即戦力にすることも可能なため、大規模なプロジェクトには不可欠な制度だ。現在ポリゴン・ピクチュアズで手がけるニコロデオンやカートゥーン・ネットワークと共同開発したディズニーのTVシリーズも、分業制のメリットを生かして進められている。
―― CGスタジオではどのカットも100%全力で作ってしまうのだが、そうすると緩急のない映像になってしまう。しかし、押井監督に”一つのシーケンスで3カットくらい良いところがあれば、そこが強調されていいものができる”と教えられたのが印象的だったと語る長崎氏。リアルさを追求したディテールと、最新のCG技術が作り上げた圧倒的な映像。全編にみなぎる作り手の情熱が、お二人と話していると伝わってきた。
■老舗CGスタジオ”ポリゴン・ピクチュアズ”に迫る
ポリゴン・ピクチュアズのオフィス・エントランス。コンビニのショーケースの中に彼らが生み出したキャラクターの人形、原型などが展示されている。
塩田周三氏/代表取締役。
しかしマーケット規模の違いのみでなく、塩田氏の世界を舞台に活動しようとする情熱と行動力はひしひし伝わってくる。また、アニメビジネスの利益が作り手に還元されない現状を変えたいと言う。「CGを突き詰めることで、産業として日本に根付かせたい。ニューヨークに行くとフィルムカンパニーが沢山あるように、日本でもクリエイターにとっていい環境を作りたい」と語ってくれた。今CGの世界では「これは新しい」という感覚になることがなかなか難しい。CGが定着してきた中でハイエンドなものを継続的に作っていけるかというところが業界では問われていると語る。
現在は、LAでオリジナル・コンテンツの企画開発プロジェクトが進行中のポリゴン・ピクチュアズ。塩田氏は「いずれは自分たちでプロデュースして、世界のマーケットに向けた作品を作りたい」と語る。氏の座右の銘である”I am god, so are you.(私は神、君も神。)”、日本の八百万の神という考えにインスパイアされたコトバが現すように、人間の可能性を無限だと信じる心が新しいことにチャレンジし続けるモチベーションの元になるのかもしれない。効率性と妥協なき映像制作で、前人未踏の地を行くポリゴン・ピクチュアズ。今後も日本、そして世界のCG界の先端から素敵な夢をとどけてくれるだろう。
■映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
監督:押井守
制作:プロダクション I.G
演出:久保利彦
キャラクターデザイナー・作画監督:西尾鉄也
美術監督:永井一男
メカニックデザイナー:竹内敦志
ビジュアルエフェクツ:江面久
CGIスーパーバイザー:林弘幸
CGI制作:POLYGON PICTURES
サウンドデザイナー:Randy Thom・Tom Myers
音響監督:若林和弘
8月2日(土)よリ、全国ロードショー中
「スカイ・クロラ」公式Web
配給:ワーナー・ブラザース映画
「スカイ・クロラ」あらすじ:函南優一(カンナミ・ユーイチ)は、平和を保つための“ショーとしての戦争”に命を賭けるパイロット「キルドレ」のひとり。新しい基地に赴任してきたユーイチを待っていたのは基地の司令官・草薙水素(クサナギ・スイト)。まるでずっとユーイチを待ち続けていたかのようなスイトの視線に戸惑いながら、ユーイチはいつの間にかスイトに惹かれてゆく。それが定められた運命であるかのように…。
監督:押井守
制作:プロダクション I.G
演出:久保利彦
キャラクターデザイナー・作画監督:西尾鉄也
美術監督:永井一男
メカニックデザイナー:竹内敦志
ビジュアルエフェクツ:江面久
CGIスーパーバイザー:林弘幸
CGI制作:POLYGON PICTURES
サウンドデザイナー:Randy Thom・Tom Myers
音響監督:若林和弘
8月2日(土)よリ、全国ロードショー中
「スカイ・クロラ」公式Web
配給:ワーナー・ブラザース映画
「スカイ・クロラ」あらすじ:函南優一(カンナミ・ユーイチ)は、平和を保つための“ショーとしての戦争”に命を賭けるパイロット「キルドレ」のひとり。新しい基地に赴任してきたユーイチを待っていたのは基地の司令官・草薙水素(クサナギ・スイト)。まるでずっとユーイチを待ち続けていたかのようなスイトの視線に戸惑いながら、ユーイチはいつの間にかスイトに惹かれてゆく。それが定められた運命であるかのように…。
Tags:
Film
トラックバックURL:http://white-screen.jp/white/wp-trackback.php?p=2134












