僕の原点には映像がある
水口哲也さん|ゲームクリエイター。代表作は『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』
WS:水口さんがゲームを作りたいと思ったきっかけは何ですか?
水口哲也(以下水口、敬称略):大学が日本大学芸術学部文芸学科だったんですが、メディア美学科で武邑光裕先生(メディア美学者、現東京大学大学院助教授)と出会って大きな影響を受けました。僕のひとつ上には高城剛さん(ハイパーメディア・クリエイター)がいて、メディア系の巣窟というか、メディアというもの、表現するということを考えさせられる環境だったんです。
WS:たしかにすごい環境ですね。
水口:そのころ僕は友人のミュージックビデオを撮影したり小説を書いたり、様々な表現を試しながら自分のフィールドをどこに見つけるかということを考えていました。その頃はジム・ジャームッシュとか立花ハジメさんとかの影響もあって、自分では映像に行くのかと思ってたんですよね。でも自分のなかで「世界の人に見てもらえるような物を作りたい」という前提があり、「グローバルに発信するメディア」としてふと飛び込んできたのがゲームでした。
手探りでのCG制作、マイケル・アリアスとの出会い
WS:SEGAに入社したいきさつは?
水口:当時の僕はゲーム機を一つも持ってないくらいゲームに関しては知識がなかったんですが、SEGAに入ろうと思ったのは「R360」(世界で初めて360 度・全方向に回転する筐体)をゲームセンターで知って、「これを作ってるSEGAなら面白いことができそう」って思ったからです。
入社して最初にSEGAでやった仕事は、当時まだマイナーだったCGの映像をモーション・シアター用に作る仕事でした。当時フジテレビが代々木でやってた常設イベントで使われるもので、揺れるモーション・シアター用のCGをまったく知識もないのにやってみることに。まあ、いつもそういう役回りなんですが(笑)。
WS:最初は映像の仕事を手がけていたんですね。
水口:その仕事でアメリカに行って、ダグラス・トランブル(『2001年宇宙の旅』 『未知との遭遇』などの特殊効果担当)に会うんですよ。そこで『鉄コン筋クリート』を監督したマイケル・アリアスと知り合って、「CGつくるんだけど一緒にやらない?」ってSEGAのプロジェクトに誘いました。その時彼は初めてCGのディレクターを手がけたんです。3人くらい未経験の人をスカウトして映像のチームを作って手探りで制作しました。出来上がった作品「メガロポリス」は93年のSIGGRAPHに出展して上映されました。
ゲームは骨(コツ)が大事
WS:ゲームの作り方って想像もつかないんですが…
水口:ゲームに必要なのはグラフィックでも音でもなくしっかりした基本構造です。面白いゲームはビジュアルも音も悪くても面白いんです。
試作の段階で、ビープサウンドに解像度の低い映像でも「気持ちがいい」「面白い」ってプリミティブに思えないといいものにならない。面白さっていうのは人間でいうと「骨」のようなもので、強い骨に筋肉をつければ強い体になるけど、骨が弱いと折れちゃう。つまらないゲームになってしまうんです。外側からは目に見えないものですが、構造的にしっかりしてないと面白くならない。つまりコツをつかんでいないとダメということで、そもそも「コツをつかむ」のコツって骨のことなんですって。
WS:なるほど〜!!膝を叩きすぎて膝の皿が割れそうです。具体的にはどのような制作フローになるのでしょうか?
水口:具体的な作り方としては、絵コンテを描いて説明して、プログラムして、と単純に行く場合は少ないですね。特に「Rez」は抽象的な表現の極みの感性的なゲームで、作りにくいというか。ゲームの骨格は目に見えない設計図というか流れのなかで作るものだから、自分の頭のなかで何度もプレイして作るしかないんです。
「Rez」のゲーム画面。海外でも続編を待つファンが多い。
WS:どうやって他のスタッフに自分のイメージを伝えるんですか?
水口:まずやることはインタラクティブな流れのイメージを頭のなかで何回も固めること。たとえばコントローラーを握り続けながら頭の中で勝手にプレイするんですね。自分のなかで動かしてみると、頭のなかでゲーム画面が出来上がってきます。最初はぼんやりしたイメージなんですけど、固めていくと少しづつクリアになっていくんです。繰り返していくうちに、「この動きがあったらすごく気持ちいいな」っていうアドレナリンが出る瞬間があるんです。
WS:たしかに、水口さんのゲームはプレイしている最中に脳内でアドレナリンがぶわっと出る瞬間があります。
水口:そのイメージを忘れないようにして、少人数のディレクターとかプログラマーとかに言葉で説明していきます。とにかく誰かにしゃべりまくって、イメージをどんどん外に出しちゃいます。イメージを共有していくうちに「そろそろなんか形にしてみない?」という段階になってプログラムを始めます。なので、僕のゲーム制作においては、構想している時間がすごく長いですね。
「元気ロケッツ」プロデュースのきっかけ
元気ロケッツの歌姫LUMIちゃん
元気ロケッツ(GENKI ROCKETS)とは—水口哲也と玉井健二がプロデュースする音楽ユニット。「宇宙で生まれ育ったまだ地球に降りたことのない30年後の17歳が歌うラブ・ソング」という設定。2006年9月11日のデビュー作「Heavenly Star」は発売直後から人気に火がつき、2007年avexより日本デビュー。
WS:音楽ユニットの「元気ロケッツ」をプロデュースすることになった経緯をお聞かせください。
水口:PSPのゲームルミネスを作る時、気分的に高揚するような音楽や映像を探していたんですが見つからなくて、じゃあ自分で作ってしまえと。それで、どうせ自分で作るんだったら音楽業界が考えつかないようなことをやろうと。ゲームと同じでグローバルに通用する音楽を作るために、友人の玉井健二(YUKIを手がける音楽プロデューサー)と組んだんです。「30年後の17歳」っていうコンセプト・メイキングは僕で、歌詞も書いています。
WS:youtubeなど、インターネットでのプロモーションが話題になりましたよね。
水口:元気ロケッツが世の中に出たのは1年前の9.11にアメリカのジャーナリストが「今日は9.11だし、ピースなメッセージがあるからみんな見てよ」ということで彼のサイトで紹介してくれたのが始まりです。まだその時には「Heavenly Star」っていうタイトル以外何も決まっていなくて。で、彼が取り上げた記事に10時間で10万ページビューくらいのアクセスが集中して回線がパンクしちゃって。そのとき僕はフランスにいて、カウントが上がっていくのをパリのホテルで見ていました。「すごいことが起こってる」という感覚がしましたね。
WS:「元気ロケッツ」の名前の由来は?
水口:曲が世に出るのが先行してしまって、名前を決めなくちゃという時に降って来たのが「元気ロケッツ」っていう名前でした。欧米の人に「どう思う?」って聞いてみたら「genkiって意味はわからないけど音の響きがいい」という意見が多くて、じゃあそれでいこうと。日本の周囲からは非難ごうごうでしたけど(笑)、いつも名前を考える時はそうやって反対されることが多いんです(笑)。
Live Earthでのライブ映像より
WS:Live Earthでは遂に初ライブを敢行されましたね。立体ホログラムによるステージが今まで見たこともないような美しい映像で驚きました。
水口:立体ホログラムっていうのは疑似3Dの技術で、僕が演出を担当しました。ドイツ製の特殊な光だけをきれいに反射する透明フィルムをステージ上に置いてあるんです。普通に見るとまったくわかりません。フィルムに対して45度の角度で反射させると観客からは人が浮かび上がるようにみえるんですね。
WS:まるで本当にLUMIちゃんがそこにいるようでしたね。
横から見ても大丈夫で、観客から見ると何もないところに立体の映像が浮かぶような感じです。既にある技術を自分たちなりに応用して、音楽にあわせてレーザー光線を当てる…作り込んだ映像とリアルタイムで操るレーザーの融合はすごく楽しい作業でした。
実際のライブ映像。音と光の完璧な融合!
今後の展開
WS:元気ロケッツは新曲をリリースされたばかりですね。
水口:「Heavenly Star」に続く第二弾シングル「Breeze」のミュージックビデオがiTunesで配信を開始しました(※元気ロケッツ公式ページより購入可能)。ミュージックビデオはLive Earthと平行で作っていたんですが、音と映像のシンクロ感や何回も見たくなる生理的な気持ちよさをもっと追求しようと思って一度完成しかけていたところを一から作り直しました。「Breeze」の映像は元気ロケッツのコンセプトをより体現できていると思います。
WS:ほか、今後の展開についてお教えください。
水口:今後の展開については、やりたいことがいっぱいあるのでいろいろ考えてます。アルバム制作や、もっとすごい映像を作るとか。今年のLive Earthでやったことをもっとヴァージョンアップしたような、オーディオとビジュアルのパフォーマンス。宇宙でなんかやりたいって真面目に考えてます(笑)。そう遠い未来じゃないと思うんですよね。宇宙ツアーとか。彼女が20歳になる2年後の9.11に地球に降りてくるので、それまでいろいろやろうと思っています。
元気ロケッツ「Breeze」ミュージックビデオより
クリエイティビティを継続する秘訣
WS:水口さんはさまざまなジャンルのプロデュースを手がけていらっしゃいますが、表現する上で貫いているものはありますか?
水口:貫くものというと難しいんですが…さっきの「元気ロケッツ」の話ですけど、元気って不思議な言葉ですよね。この国には「気」って言葉が溢れてて、「気合い」とか「気分」っていうのはぜんぶ気の話。気持ちいいは「feelin good」じゃなくて、「気」の「持ち」がいい。それを翻訳するのは大変ですけど、僕らは潜在的に知っていますよね。
WS:たしかに、日本独特の感覚ですね。
水口:その「気持ちいい」っていう感覚を、気付かれないように毎回作品に入れてるっていうことなのかもしれないですね。「気分がいい」「気持ちいい」っていう感覚はどうやって生まれているのか?快いと思う瞬間には必ず理由があると思うんです。僕はその理由を知りたくてたまらないんです。
WS:頭で考えるというより、より直接的で感覚的な刺激ですね。
水口:これは気持ちいいねっていう音が映像とセットになると、「うわー」っていう感覚になるでしょう。世代も国境も超えて、おばあちゃんも隣の国の人もウワーってなるようなものが作りたいっていうのがありますね。日本人の細やかなセンサーをもちつつ、いかにわかりやすいアウトプットをするかということを考えています。
元気ロケッツ「Breeze」ミュージックビデオより。身体感覚に訴えかける気持ちのいい映像。
水口:僕はものを作る事に興味があります。映像でも音楽でも本でもいいんですけど、新しい視点でなにかを表現するっていうことに興味があります。 言えばすごいチープな表現になっちゃうんですけど、それだけです。それは映像でもゲームでも変わらないですね。まだないものを形にしていくのがどうも好きみたいです
WS:悩んで行き詰まったりすることはあるんですか?
水口:表現する上で悩むことというと、それは制作の段階で死ぬほど悩むことはありますけど、終わったらすぐに忘れてますね。
でも僕が一番悩んだところは、仕事を決める時に、表現するってことを仕事にするかしないかというところでした。でもL.A.でアイソレーションタンクに入った時に「そりゃつくるでしょ」って答えが簡単に出て。やるんだったら作り続けないとなと思って。それを決めたので、やり続けることに悩みはないです。それしかないので。
WS:普段続けていらっしゃることはありますか?
あと、やりつづける秘訣は旅と写真だと思いますね。旅は続けた方がいいです。写真には自分の見方や視点が出るから、自分を知るにはすごくいいものです。写真うまくなったかも、っていう時は自分が良く変わってるっていうことだと思います。
元気ロケッツのCD「HEAVENLY STAR/BREEZE」は限定アナログが即完売、オリコンチャートでも20位以内にランクインし、音楽界でもヒットを記録しています。「スター・ウォーズよりブレードランナー、エジソンよりニコラ・テスラ」という水口さん。 柔軟な感性で創り出される作品たちが、これからどんな新しい体験をさせてくれるのかとても楽しみです!
水口 哲也(みずぐち てつや、1965年生まれ)
ゲームクリエイター。北海道小樽市出身。Q ENTERTAINMENT代表取締役CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)。代表作は、『セガラリーチャンピオンシップ』、『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』など。音楽と光をゲームに融合させる作風を持ち味としている。
■元気ロケッツ公式サイト
■Q Entertainment Inc
5 つの質問 一問一答
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください(一言理由も)
深夜ラジオ(想像力を刺激された)
(編集部注:深夜ラジオというのは短波ラジオなどから聞こえるロシア語や朝鮮語などの知らない言語のラジオのことだそう。子供の頃一人で夜中に聞く知らない言語のラジオに、外国を感じたそうです)
Question 2: この職に就いたきっかけは?
メディア美学専攻@日芸
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
「ライトスタッフ」
Question 4: 作業場のまわりに必ずおいているものベスト3は?
ケータイ電話、VAIO、iPhone
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
旅。
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