J-POPから世界へ。武藤眞志監督によるケリー・ローランド「Commander」。
2010.07.29.Thu
Category : Features / Interview

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武藤眞志監督(FACE /avex entertainment):映像作家。コムデギャルソンやイッセイミヤケなどのキャットウォーク映像を手がけ、キャリアをスタートさせる。YKK、花王などのCMのほか安室奈美恵、宇多田ヒカル、また海外のDeath In Vegasらのミュージックビデオを監督。
武藤眞志監督といえば90年代より映像作家として活躍し、安室奈美恵、浜崎あゆみ、L´Arc~en~Cielらのミュージックビデオ(MV)を手掛ける人物。J-POPのMV界の巨匠といえる武藤監督だが、実はその活躍の場をアメリカ、ヨーロッパにも広げていることはまだ知られていない。最新作は元デスティニーズ・チャイルドのケリー・ローランドによる、ビルボードのダンス・チャートで一位を記録した「Commander ft. David Guetta」だ。海外でもMV監督として高い評価を受けた武藤監督に、この作品制作の裏側と、海外でのMV制作事情をインタビュー。海外進出を狙う映像作家は必見!

■MV制作が実現するまで
「Kelly Rowland - Commander ft. David Guetta」
武藤監督がこのビデオを手掛けることになった経緯は、武藤監督が所属する海外プロダクションのDAY O PRODUCTIONSからのオファー。海外では制作プロダクションにディレクターが所属し、マネージメント、営業活動をレーベルのビデオコミッショナーに対して行うのである。武藤監督はアメリカではDAY O PRODUCTIONS、UKではLOVEに所属。今企画はなんとプレゼン段階で20名のディレクターとのコンペだった!

「Commander」において、プレゼン情報はメールで監督に送られた。そこには曲と歌詞が添付されており、アーティストの特徴、納期、制作スケジュールが記載されている。もし仕事を受けられそうであれば、MVのアイデアの企画書を送付する。そこでクライアントに面白いと思ってもらえれば、アーティストも含め、企画のブラッシュアップに進むわけだ。極端な例だと企画提出の期日が翌日という場合もある。

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「Commander」の資料から。上段は初号の企画書。下段は最終の画コンテ。
「企画書は3回くらい出し直しました。最初に提出した時点では"自由に考えてください"という状態でも、アイデアを進めていくうちにアーティスト側から段々と要望が出て来るんですよね。その段階まで進んでも、まだ候補が数名残っている状態です。最終的な監督決定まで2週間はかかったと思います。そういえば僕が最初に手掛けたIMOGEN HEAP(Frou Frou)「Must be Dreaming」もすごくタイトな進行でした。"決定したから明日ロンドンに来てくれ"と言われて(笑)。その3日後にロンドンで撮影を行うなんて無理だと思ったんですが、プロダクションがカメラマンや美術などの候補を全て準備して待っているんです。僕はロンドンに着いて、カメラマンと美術を選んで、その日のうちに打ち合わせをして撮影に入る。本当に3日で実現してしまった。こういう進め方は、日本では難しいかもしれません」

20人の監督の中から武藤監督に決定したものの、次なるハードルは文化の壁だった。

「ケリーが所属するユニバーサル・モータウンの社長から一度断られたんです。理由は僕が"黒人を撮った経験がない"から。企画は気に入ったけど、魅力的な撮り方を知っているのか不安だと。結局レーベルの担当が社長を説得してくれて企画が復活しました。そこで提示された条件が、黒人をキレイに撮れるカメラマンを使うこと。USではハイプ・ウィリアムズやポール・ハンターとか、黒人アーティストのビデオは黒人監督が手掛ける傾向にあります」

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撮影中の武藤監督(右)とカメラマンのJonathan Sena(中央)、Bentlight Digital(右から2人目)
海外でのMV制作は、バジェット管理がシビアだと武藤監督は語る。予算決定のプロセスは、監督の最終的なプランに即した見積りをプロダクションが制作し、レーベルが判断するというもの。承認済みの企画書が証拠となり、契約書となる場合がある。撮影現場で超過予算が発生すると、必ずその場で話し合いが行われ、オーバーした予算をプロダクションとレーベルでどのように負担するのか決定される。過去の海外の現場では、撮影に3時間遅刻したスタイリストが超過のスタジオ料金の一部を負担することもあったそう。また、監督が現場で不要と判断したシーンでも、企画書に書かれている内容は撮影しなくてはならないこともある。もちろん納期の遅れにはペナルティが課せられる。

「撮影が延びた場合に、海外は責任が明確です。アメリカはオーバータイムが直接スタッフのギャラに結びつくので、必然的に時間や動作にシビアになり、それが質の向上につながってるんだと思います。今回のラインプロデューサーはMegan Gutman(ミーガン・ガットマン)さんで、彼女が提案したカメラマンの中に、昔一緒に仕事をしたJonathan Sena(ジョナサン・セナ)さんがいたので、お願いすることになりました」

■コンセプトは"フューチャリスティック"で"クラブ"で"ダンスバトル"!
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ケリーは三日間みっちりダンスレッスンを行った。「ケリーは"ダンサーたちに無理をさせないでね"など、周りのスタッフにも気を遣うすごく素敵な方でした」(武藤監督)
「曲を聞いてパっとイメージしたのは、ダークなクラブで、活気がないオーディエンスが踊っているところを、"十戒"のように人ごみを割って出てくるシーン。今までのケリーのイメージを一新する登場感です。そして"フューチャリスティック"で"クラブ"で"ダンスバトル"というアイデアが湧きました。ダンスバトルをやろうと思ったのは曲の第一印象ですね。今までのケリーはダンスのビデオがあまりなかったし、バトルで強い女、司令官(コマンダー)という感じを表現しようと。一番気を使ったのは二人のケリーの掛け合いのシーンです」

世界の歌姫のビデオということで、ヘアメイクや衣装などのスタイリングにもかなりのこだわりを見せた。レディ・ガガのステージやMV「Telephone」での奇抜な衣装を手掛けるOscar Olima(オスカー・リマ)がダンサーのオリジナルのコスチューム制作を手掛けている。

「全体のトーンがフューチャリスティックなので、スタイリングもそれでいこうと思いました。ケリーの今までの作品には無いシャープでストロングな感じでいきたいと。それで僕から"ポニーテールにしてほしい"という要望を出したら、それがアーティスト側に響いたんだと思います。衣装については、オリジナルデザインの候補から彼女がボンデージ・タイプのものを選びました。奇抜で、スタイル次第でなかなか着こなせない衣装なので、さすがだな、と思いました。プロダクション・デザイナーはレニー・クラビッツの作品も手掛けるRobert Devico(ロバート・デヴィコ)です。」

また、ダンスのシーンで振付を行ったのは、リアーナ、ブラック・アイド・ピーズなどのブラック・ミュージックのMV監督もこなす有名な振付師のファティーマ。「すごく協力的で、いいコラボレーションが出来た」と監督は語る。

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ケリーの登場シーンはステージがせり上がってくるように見せたかったが、セットが制作できなかったため、クレーンでステージが上がって見えるようにした。実際に制作したのは白い廊下のシーンのみ。
当日の撮影は2日間のボリュームのものを基本1日で行われた。VFXはインフェルノ使いの兄とCGアーティストの弟によるFANTON(ファントン)兄弟のCG制作会社Bentlight Digital(ベントライト・デジタル)。ほとんどのシーンをグリーンバックで撮影し、合成作業を行っている。

「現場はすごく楽しかったです。僕はあまり英語ができないので淡々とやっているだけですが(笑)、海外の撮影現場はすごく雰囲気がいいんです。ベントライト・デジタルは撮影前にアニマティックを作ってくれて、当日は撮影現場に立ちあってアドバイスをくれました。撮影時間が足りなかったので、実はケリーとダンサーたちは赤の衣装のパートしか撮影できず、すべてポスプロ段階で色調整を行い、黒の衣装を作り上げました。また、ガラスを割るシーンでは、飛び散るガラスをすべてCGで制作しています。ポスプロで僕が立ち会ったのは編集の最後の2日間だけで、細かいVFX作業は日本からメールとskypeでやりとりをして仕上げました。僕の実感ですが、海外では、景気が悪いこともあるのか、大手ポストプロダクションより、個人プレーのブティック系のほうが小回りが効くし、元気がある。ベントライト・デジタルも映像のクオリティが高いし、大手ポスプロではできないことをしてくれたように思います」

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途中で撮影に現れ、「オレも出して!」とねだったプロデューサー、リコ・ラブ。
結局、ユニバーサル・モータウンの社長も作品をいたく気に入り、終わってからも"またやりたい"とメールが来るほどだったそうだ。

「僕はもともとファッション系の映像から入って、ファッション・フォトグラファーとの仕事を経てMVの道に進んだこともあり、映像のイメージを一枚絵で考えています。全体の流れというより、どこを止めても一枚の絵として成立する写真的な映像です。日本でも従来の照明、カメラマンという縦割り制度でなく、欧米型の撮影監督制度が多くなっていますね。僕自身もライティングのプランを持ってる方がいいので、スチール系のカメラマンと仕事をすることが多いですね」

「言葉ができるかどうかはそれほど重要ではない。きっかけがあれば、いくらでも海外で仕事が出来る」と語る武藤監督。最後に、海外で仕事する魅力を聞いた。

「海外のディレクターでは出来ない日本人のDNAというかわびさび、繊細さが海外から見ると新しい感じがするんじゃないでしょうか。海外作品を手掛ける魅力は、映像の本場に乗り込んで、それまで憧れていたアーティストたちを自分の手で撮れるところでしょう。海外のアーティストはパフォーマンス能力や自分を表現する能力が高く、刺激になります。またYouTubeで自分の作品に世界各国からいろいろなメッセージが書き込まれるのがいいですね(笑)」

5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
ファッション、写真、プラモデル
Question 2: この職に就いたきっかけは?
友達
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
サウンド・オブ・ミュージック
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
ケータイ、カメラ、パソコン
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
iPad
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