ミュージックビデオ制作のHD化の真相!
2010.06.08.Tue
Category : Features / Interview
後列左から:平田淳一(OKNACK)、松居秀之(P.I.C.S.)、竹内鉄郎(竹内芸能企画)|前列左から:丹下紘希(Yellow Brain)、本間雅彦(Space Shower TV)、渡辺雅史(株式会社祭)
2011年7月のデジタルテレビ放送への完全移行まで、残すところ1年1ヶ月となった。各局すでにスタンダード画質(以下SD)放送に加えハイデフニション(以下HD)放送を開始している。誕生から30年が経ち、いまや年間2,500本が制作されるミュージックビデオ(MV)界では、制作現場ではHD化が進む一方、依然SD納品が続いているというダブル・スタンダードが起っている。ホワイトスクリーンでは、現状のソリューションを求め、MVの制作会社を中心に設立された音楽映像製作者協会(MVPA)に話を伺った。この過渡期に創り手はどう対処していけばいいのだろうか?
■日本のMV産業の現状は
SKY HD "PIXEL" dir: Sebastian Valino|a: 1861United, Milan, Italy
――昨年よりミュージックビデオ(MV)の制作の現場から、HDで撮影、編集しているが納品の段階でSDサイズにダウンコンバートされることによる画質の低下や、中には納品形態がHDなのかSDなのかはっきりしないと、戸惑いの声を聞く事があります。今回はMVPAさんのご協力を得て、現時点で決定している基準値のようなものを伺い、制作現場にフィードバックできればと思っています。
丹下紘希(Yellow Brain):実際、昨年HD化に伴う議論がMVPA内でもあったんです。HDによる作業の複雑化や費用の問題をレコードメーカーに理解してもらえないという事態を懸念する声が挙っていました。Yellow Brainでは2~3年前から制作過程はほとんどHDだけど、ケースバイケースで場合によってHDカムで納品したり(縦横比)4:3のSDデジタル・ベータカムで納品したりしてます。
デジタルベータカム(ベータカムのデジタル化、高画質化の為に約10年前に誕生したVTRフォーマット。この記事ではテープメディアとしてのデジタル・ベータカム・カセットを指す)
竹内鉄郎(竹内芸能企画):竹芸では納品時に3種類のマスターを創らなくてはいけない事が多い。HDマスター、SDで※スクイズ収録とレターボックス収録のマスター。というのも民放はスクイズを受付けなかったりして、放送局に合わせて納品フォーマットを創っている状況です。
※スクイズ:映像をテープメディアに収録する際に16:9の映像を長体をかけ4:3の画角内に収録する。再生するときは16:9対応のディスプレイ用に横に伸ばして放送する。レターボックス:4:3の画角で16:9の映像が再現するように横に合わせ上下に黒味を入れたもの
平田淳一(OKNACK):OKNACKもSD納品が多いですね。MVは音楽チャンネル向けに作ってることが多いのでSDのスクイズで納品しているのが殆どです。民放用のTVCMスポットはレターボックスが多いですね。困った事に、マスターを沢山作ることになってもプリント代(複製代)の予算が出ないんです。
丹下:納品したマスターをメーカーが複製して各局に納品するのですが、ベータカムよりHDカムの方が全然テープ代が高いので、メーカーが嫌がって、HDで完パケしたのに放送局へはベータカム納品となっている状況。デジタル・ベータカムですら画質の劣化が悲しいのに。デジタル・ベータカムよりアナログのベータカムの方がテープ代も安いし、メーカー社内のダビング設備がアナログという事情も要因の一つです。
竹内:クリエイターが経済的なところにブチ当たる瞬間です。何百万円もかけてHD制作したMVが、そういった事情で視聴者の眼に触れる時には、SDになっているという。
■各チャンネルの状況
制作の現場はHDだが、視聴者の目に触れる時にはSDになってしまっている。創り手としては、なるべくいい画質で届けたい想いがあるのだが…。では、お茶の間の環境はどうなっているのだろうか?先日white-screen.jpから音楽専門チャンネルに、HD化に関するアンケートを実施。実は、視聴者のインターフェイスに位置するチャンネル側のHD化への取り組みは、昨年から始まっていたのだ。
回答を頂いたMTVとSSTVは、2009年10月よりHD放送を開始。レコードメーカーにはHD納品を推薦しながらも現状はベータカム、デジタル・ベータカムでのSD納品が大多数だという。MVのHD化に関してはレーベル各社の判断によるところが大きく、説明を重ね、HD化促進を進めていくのが課題だとコメントする。
本間雅彦(Space Shower TV):音楽チャンネルがHD化されたのは2009年10月からで、最低限16:9のフル画面で見てもらえる環境を整えています。HDチャンネル放送開始に当たり、2009年の春から、M-ON、VMC、SSTV、MTVの合同で、メーカー各社の宣伝や制作の部署にお願いをして廻りました。2009年夏のタイミングからHD納品を始めてもらえるようにと。しかし、「現場の製作費が跳ね上がる」、「予算的にも厳しい為全部HD化は難しい」という回答が多数でした。そこで、様々な検証の結果、撮影はHDで行なわれているケースが多い為、そのままダウンコンバートのスクイーズでSD納品してもらうという結論に達しました。これならHDにアップコンバートしても画質的にもはいけると。民放はスクイーズ禁止だけど、僕らは対応しますと。
渡辺雅史(株式会社祭):昨年末、4:3のものを納品したら、「CSでオンエアできないと言っているんだがどうすればいいですか?今後4:3は納品できないんですか?」ってメーカーに聞かれました。
本間:現場まで伝わりきれていないメーカーさんもあるようです。2009年10月1日から今日(2010年4月)まで、邦楽でHD納品されているMVは未だに140本ほど(1300本中)。月20本位のペースです。さらに、デジタル・ベータカムよりもアナログのベータカムが多い。
平田:DVDがブルーレイになったらまた状況も変わると思っているんです。MVの存在も変わってきていて、プロモーション・ビデオとしてのオンエア用から、DVD等に収録されて販売されるコンテンツになってきている。HD化のこの段階で、MVPAではその辺も考慮した予算の正常化を業界としてまとめなくてはならない。複製料もそうですけど、多面的なソリューションを早急に決めなきゃだめ。
丹下:気になるところはデータ納品。クリエイターも助かりますから。
竹内:ハードメーカーはそれやられたら困るでしょうね。物体が存在しないものに値段を付けるのは日本人が苦手としているところ。電脳空間のどこかにあるものに価値をキープし続けるって大変だと思います。テープなら物があるけど、データだとない。メーカーが自分たちのサーバーから映像を配信したくない理由は、コピーされると困るからでしょう。
本間:避けられないのは、家庭での画面の大型化でしょうか。50インチのディスプレイで見ると、民放のTVはパキーンと写って、MVはボヤーっとしてるというのはダメだと思うんです。
――では、制作サイドでHD化に際して起こりやすいエラーなど気をつける事はありますか?HDの画像データは現行SDと比較すると約6倍のデータ量を扱っていく事になり、編集スタジオ使用料金や仕上げにかかる物理的な時間も増えてしまう。映像のフォーマットも多種になり、アウトプット先も多様になっています。
丹下:5年前まではSDで良かったので複雑な合成作業もインフェルノで1日作業で済んだのですが、フルHDはつらいですね。合成作業が入ると時間がかかるので手を出したくないところではあります。また、表現もフルHDだとあまりに見えすぎるという風潮がありましたが、それも時代の流れで、見えたほうが美しい、という美意識に変わるんじゃないかな。ただ、レトロな良さは残ると思います。
竹内:プログレッシブもインターレースも扱える機材が増えてきた。VTRや編集機やカメラとか、設定をちょっと間違えたり、レンダリングする時にAVフィールドを裏返してやっちゃったり。PCだけだときちんとした監視ができないから、オンエアの時にトラブルが発生する。
丹下:一昔前まではポスプロが管理してた。今はそれを自分たちでやっちゃおう、というかやっちゃわないと予算に合わない、という場合が多い。あとカメラの問題もあります。多種多様になりすぎてトラブルが多い。でもこの時代だからこそ、クリエイターとしてSDとHDが選べる選択の自由がある。特にMVの場合、HDのパキパキした画質を嫌う人も多い。はっきり見えることに対しての嫌悪感はみんなありました。昔の人が「35ミリより8ミリだぜ」と言っていたのと同じです(笑)。ボケた感じが好きなクリエイターも多く、自分の作品はSDで納品したい、という人はまだまだいます。
僕はこの前HDで撮ってSDにダウンコンバートして、それをHDにアップコンバートしてわざと古臭い感じにして、最終的にHDで納品した作品がありました。効果ありましたよ。HDの信頼感と、画質的に自分たちが納品で見ているのと変わらない品質を保てて、狙った古臭さも出せる。すごく便利でした。
■まとめ
・音楽チャンネル(CS局)への理想となる納品の形態
推奨:HDカム納品
代案1:デジタルベータカムにスクイーズ
代案2:ベータカムにスクイーズ
放送局側では、フル画面での劣化の少ない視聴環境を約束している。視聴者も創り手が意図したクオリティで楽しみたいと思っており、それがひいてはアーティストの魅力に繋がり、良い宣伝となっていくのではないだろうか。
この不況の中、機材投資もためらわれるし、関連する業者の事もあるが、創り手も視聴者も機材投資をしていることには変わりはない。無駄と搾取のない制作現場の環境改善に取り組むMVPA。今後のアップデート情報はどう入手していけばいいのだろう?
丹下:MVPAで決まったことはWebサイトで発表します。MVPAの目的は、制作者の権利を僕たち自身が勉強して知っていくこと、横のつながりを知って風通しを良くすること。劣悪な制作環境を改善したいんです。大変なことをやっている人たちが浮かばれない状況をちゃんとしたいと考えています。
・「音楽映像製作者協会(MVPA)」
MVを主に制作している制作会社23社が一堂に会し、日本の音楽映像の文化および産業の進行と発展を目的として2009年10月に設立。MVの制作環境は悪化の一途をたどっており、このままでは将来MVを制作するクリエイターやプロダクションが激減する恐れがある。MVPAでは制作環境の改善や映画製作者の権利取得を目指して活動し、映像制作者としての地位や権利を確立することを目指している。MVPAではこのほか組合員が制作したMVのデータベース化や、利用促進についての業界環境の整備も目指している。
協会では現在賛助会員としての新規参加を募っている。賛助会員は会費10万円/年。会員はWebサイトに会社名やロゴが掲載されるほか、組合員との情報交換やセミナーなども予定している。詳細は公式Webサイトまで。