次世代の3Dアニメーション制作環境が到来!――常に先を行くSTUDIO 4℃の制作現場
2010.04.15.Thu
Category : Special

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「映写機人サチコ」パイロット画像。東京国際アニメフェア2010で立体視デモ上映された。
「アバター」で始まった2010年の映画界は、ファンも心待ちにするような立体視新作映画が目白押しだ。例えば、今週末より公開の「アリス・イン・ワンダーランド」。ティム・バートン ファンなら、この公開に大喜びしたはず。同様に、もし立体視映像作品を作ってほしいクリエイター・リストが存在するとしたら、間違いなく上位にリストアップされるのは、森本晃司監督(STUDIO 4℃)ではないだろうか?「EXTRA」や「Memories [彼女の想いで]」、「音響生命体ノイズマン」等を観れば分かるように、フレームに捉われず、常にフレーム外の空間を感じさせる画面構成、所狭しと縦横無尽に動き回るキャラクターやオブジェクト、拡張現実や仮想世界を取り入れた未来的なテーマ、立体的な音響構成、いずれも森本監督の作品世界では欠かせないキーワードだ。そして、そうした森本監督作品の魅力は、間違いなく立体視上映環境でさらに輝くはずだ。

実際STUDIO 4℃は、2008年にいち早く、「東京0区」(楽曲:たむらぱん)の立体視上映を行い、以来意欲的に立体視プロジェクトに取り組んでおり、先日の東京国際アニメフェア2010でも、「映写機人サチコ」トレイラー、新作「Ambient Love(1分バージョン)」がデモ上映された。そこで今回は、立体視映像作品「Ambient Love」を制作中のStudio 4℃を訪問し、3D映像制作の現状と可能性を伺った。

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森本晃司:アニメーション監督。STUDIO4℃を代表するメイン・クリエイター。フォーマットにこだわらない自由なスタンスで、常に新しい映像表現を追い求めている。敏腕アニメーターとして「あしたのジョー 2」などの原画、「AKIRA」の設定・作画監督補などを務め、田中栄子らと共にSTUDIO4℃を設立。以降、オムニバス劇場アニメの一編 「MEMORIES【彼女の想いで】」、ミュージック・クリップ「EXTRA」、「音響生命体ノイズマン」「THE ANIMATRIX【Beyond】」など刺激的な映像を発信している。イラスト、DJ、映像編集なども手がけ、活躍の場は幅広い。

■森本流 3D演出
STUDIO 4℃で現在制作中の「Ambient Love」は全ての行程をインハウスで行っており、3Dならではの演出が100%反映されることになる。早速、森本氏に平面視作品と立体視作品での演出の違いについて聞いてみた。

「まず、カット毎の尺が変わってくると思います。短い秒数のカット割りだとやはり、立体認識するまで時間がかかるので、通常ワンカット1秒ちょっとのカットが、例えば2秒位は必要になったり、ちょっと長回しの方が有効だったりします。あと基本的には、やっぱり横に流れる動きはあまり認識できないので、奥行きのある動きがメインになってくると思います」

さらに、立体視映像作品では、無限に広がる空間の「密度」のコントロールが重要になってくる。平面視映像に比べ、立体視映像の空間は想像以上に広大であり、オブジェクトをいくら埋めても物足りなさを感じる事がある。しかし、一方で無理にオブジェクトを埋めようとすれば、却って遠近感が損なわれる事もある。つまり、空間の「密度」の差し引きこそが、立体視映像演出の肝になる。「Ambient Love」のCGIディレクター、渡辺俊介氏によると

「今回森本さんと話していて、すごく広い空間が一番気持ちいいんじゃないかって事になったんです。今までは、いくら広い空間を2Dで表現しても、やっぱり奥行きに限界があっったので。そこで「Ambient Love」では、あえて何もない広い空間の中からスタートして、何かが生まれて、つながったり離れたりして、成長していくというストーリーを、3Dの特性を活かした奥行きのある世界観で見せようって事になったんです」

この明快なコンセプトからも、森本氏の想像力が「3D」というハードルを難なく乗り越えている事が分かる。立体視映像表現では、監督の想像力や力量が、平面視映像表現以上に問われるはずだが、逆に明確なイメージが出来ていれば、これ程魅力的な創造空間もないのだろう。

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「Ambient Love」より:森本晃司監督による新作は、立体視映像作品!男女の出会いをミニマルな映像と音楽で表現したラブストーリーになるそうだ。

■未知の3D制作現場へ
立体視映像制作現場については、未だに明らかにされていない部分が多い。そこで、渡辺氏に制作現場の作業プロセスについて聞いてみた。渡辺氏によると、立体視映像制作に関わった当初は、それまでの映像制作と異なる状況に戸惑いもあったようだ。LRの2画面分の作画を行わなければならず、また同時に立体空間を生み出すために、それぞれの視差も意識した空間設計を行わなければならない。当然、作業時間も膨大なものになる。

「はじめやってみた感じだと、だいたい4倍から、ものによっては8倍くらい作業時間がかかりましたね。特にSTUDIO 4℃の作品っていうと、アニメーションが主流ですから、他のCG会社と違って2Dの素材と3Dの素材の組み合わせも多いので、それらを自然になじませるためにパースマップ(2Dと3D CGオブジェクトを自然に組み合わせる絵画的技法)を行うので、かなり手間がかかります」

しかし、最もストレスを感じたのは、アナグリフ(赤・青メガネ)による確認作業だったという。CGソフトウェアで映像作成を行う際、操作・確認・修正のプロセスを繰り返す事で作業を進めるが、立体視映像の制作でこの確認作業をソフト上で行う場合、アナグリフを使用するしか方法がない。アナグリフでは赤と青しか認識できないため、レイアウトの確認しかできない。一方、色味や質感はアナグリフをはずして肉眼で行う。この繰り返しにより作業者の負担も大きくなる。

「長時間のアナグリフでの作業は、とてもストレスがかかるんです。赤と青でレイアウトを確認して、その後、通常の画面で色味などをチェックする。それを繰り返しているうちに、目に赤と青の残像が残るので、色味が分かりにくくなりますし、当然すごく疲れます」

また、レイアウトと色味を一度に把握することができないアナグリフ作業では、クオリティ管理も一苦労だったという。なぜなら、最終的な仕上がりを確認するために、左右の動画データをCGソフトから書き出し、立体視再生可能なマシンへ移動しなければならなかったからだ。そのための書き出し・移動作業は、非常に時間がかかるため、待つ事のストレスも大きかった。このように、立体視映像制作を開始した当初は、作業から確認までのプロセスがこれまでの平面視作品におけるように簡単には行かなかった事が分かる。

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作品「Ambient Love」制作現場:最新マシンで作業する渡辺氏。マシンは、NVIDIA Quadro FX 3800搭載のサードウェーブ製ワークステーション、3Dモニタは、Acer GD245HQ、3Dメガネは、NVIDIA 3D VISION
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ソフトは、Autodesk MAYA 2009。ビューポート上のプロジェクトをアクティブシャッター式3Dメガネで立体視プレビューできるので、色とレイアウトをその場で確認できる。


■進化する3D制作環境
渡辺氏によると、さらに進化した3D映像制作ソリューションによりこうした状況も変わりつつあるという。STUDIO 4℃に導入された最新の3Dモニタは、フレーム周波数が120HZで、アクティブシャッター方式の3Dメガネに対応している。アクティブシャッター方式の3Dメガネは、アナグリフとは異なり、色味もレイアウトも確認しながらMAYAを操作する事ができる。画質もフルハイビジョンと高画質で、さらにステレオ3ピンコネクタ*を使用すれば、フリッカーも低減されるので、クオリティ管理への信頼性もさらに向上する。
*NVIDIA Quadro FX 3800以降のグラフィックスボードを搭載した場合。

「常にMAYAのビュー上で、色もレイアウトも確認しながら作業できるので、ストレスも無くなりました。また作業しているのと同じマシンで、最終チェックできてしまうというのは、大幅な作業時間の削減になりますし、クオリティ管理の面からもとても安心です」

このように、技術環境が、ユーザー寄りになっている事に加えて、さらに価格も以前に比べて驚くほど安価になってきている事も注目すべき点だ。代表取締役の田中栄子氏が語る。

「数年前までは、立体視上映のための映像を制作するには、専門のスタジオを介する必要がありました。それが今年、インハウス制作が可能になり、更にここ数カ月で、より効率的なワークフローが実現可能なソリューションを、驚くほど手頃な価格で導入できるようになってきました」

3D制作環境が驚くべき速さで進化し、益々身近になって来ているようだ。

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田中栄子:STUDIO4℃代表取締役社長・プロデューサー/BeyondC.代表取締役・CEO。STUDIO4℃ではアニメーションの制作現場でクリエイターと共に映像 制作にかかわり数々の実績を積む実践派プロデューサー。2D/3Dの融合したハイブリッド映像ジャンルの先駆けとなる作品を数多くプロデュースし、その作品群は世界から注目を浴びている。TVシリーズ、劇場、CM、ミュージッククリップ、WEB、モバイル等オリジナリティー・発想力・作品力に意欲を燃やし、ショートフィルム分野も開拓中。新しいメディアにも果敢に取り組み、現在立体映像に傾注している。

■これからの3D制作に向けて
最後に、STUDIO 4℃代表取締役 田中氏に、これからの立体視映像制作に対する展望を聞いた。

「立体視映像って、昔のSF映画とかアニメの世界の事だと思っていましたが、ここまで身近になって来ると、それがいよいよ現実のものになったんだと実感しています。 でも一方で、何を作ったら面白いの?っていうのが、もっともっと問われるべきだと思うんですよね。だから、たくさんの人に3Dに挑戦してもらって、競争してもらいたいですね。そうした過程を経て、良いものっていうのは出てくるはずなんです。そんな競争の場に、森本をはじめとするうちのクリエイター達には、常に立っていてほしいし、そうあるべきだと思っています。立体視という事でいえば、アニメーションは可能性あるはずです。なぜなら、実写は、どんなにリアルに立体視させても現実には敵わない。一方、現実には存在しえない世界を信じさせてきたのがアニメーション。立体視にする事で、よりリアルに表現する事が可能になります。これからも楽しみですね。」

いよいよ、立体視映像制作にも、本格的に取り組みだしたSTUDIO 4℃。 その制作現場から、来るべき3D時代のための理想的な創造空間を垣間見る事が出来た。そして分かった事は、そうした制作環境が驚くべき早さで我々にとって身近になっているという事だ。この記事を読んでいる映像クリエイター諸氏にも、積極的に立体視映像作品にチャレンジしていただきたい。

森本晃司に聞く 5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
大友克洋、メビウス、須田一政氏の写真、マット・マハリン氏の写真
Question 2: この職に就いたきっかけは?
宇宙戦艦ヤマト
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
ストーカー (アンドレイ・タルコフスキー監督)
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
音楽(CD)、チョコレート、PC(特にネット)
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
散歩
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