中田秀人×ウッドペッカー② 遂に劇場公開!中田秀人渾身の新作「電信柱エレミの恋」
2009.11.09.Mon
Category : Features / Interview
左:竹内俊太郎(ウッドペッカー)|中:早船将人(ウッドペッカー)|右:中田秀人(ソバットシアター)
ハードが進化した便利な世の中になっても、コツコツと手作業を続けることで生まれるコマ撮りアニメ。制作に8年間をかけたという中田秀人さんの新作「電信柱エレミの恋」について、若手コマ撮り作家ウッドペッカーとともに伺った。※ネタバレ注意
★濃い対談となったため、内容を2回に分けてお送りします。1回目は、
コチラ。
■映画「電信柱エレミの恋」より dir: 中田秀人
2009年10月31日(土)より11月27日(金)まで、東京都写真美術館にて絶賛ロードショー中! 毎週日曜日14:45の回は監督のトークショー30分付。
――中田さんの新作映画「電信柱エレミの恋」について伺います。前作「オートマミー」とは作風ががらりと変わりましたが、あえて変えたのでしょうか?
中田秀人(以下中田):はい。前作を好んでくれた観客には「前の方が良かった」と言われるように、逆に前作は意味がわからなかったという観客には今度は気に入ってもらえるように。この次はまた少し変わると思います。
竹内俊太郎(以下竹内):それは最初から決めていたのですか?
中田:そうですね。作品を気に入ってくれた観客の期待を、毎回満たさなければいけないという余計なプレッシャーを持ちたくない。だから一旦リセットして、純粋に自分がやりたいものに向かうためにそうしています。
早船:いまのところは自分たちのやりたいことをやっちゃってるんで、そこまで考えてないですね。
中田:最終的にやりたいことをするためには、やりたくない事をしないといけないですよね。「電信柱エレミの恋」ではそれを痛感させられました。ストーリーに直接関わるエピソードだけではなくて、ただの通行人や、風で揺らぐもの等、それがないと伝えたいものが届かないんですよ。
早船:「電信柱エレミの恋」ではそういうものが多いですよね。
中田:そうですね。実は全てが画コンテの段階からあったわけじゃなくて、セット組んでカメラ通して見た時に「誰か後ろ通らせたいな。自転車でもいいから」と思って追加する事が多かったです。自転車作るだけでも数日はかかる。それを作ってる間に他のシーンを撮る。その為にまたセットを動かさないといけない。それでも一瞬だけ横切る自転車は欲しくなるんです。
――原作は旧知の仲であるフリーライターの井上英樹さん※が書かれたと聞きました。どういう部分に惹かれて映像化しようと思ったのですか?
中田:ファンタジー要素を持って描きながら、その中でアンチファンタジーをやってみたかったんです。彼の原作にはそれを感じさせてくれるものがありました。それでアニメーションの脚本としてリライトさせてもらいました。自分にとっての理想のファンタジーは、何年かに一度起こるような偶然の出来事とか、現実社会に起こりうる現象のことなんです。この物語の中のファンタジーは、人間に電信柱から電話がかかってきたという事ではなくて、停電の時に一本だけ光がついていたことなんです。
竹内&早船:おおおーー!
中田:それがやりたくて8年間作ったようなものです。普通であればエレミの喜びの表情を撮るし、観客もそれが見たいと思う人はいると思います。でもあそこは絶対にただのコンクリートの柱じゃないとダメなんです。それぞれの観客の中にエレミの気持ちが見えてくれたら、素晴らしい事だと思います。
――私はエレミの表情が見れないのが、逆にぐっときました。
中田:日常の偶然を描くためには、リアルな背景を作る必要があるのですが、人形アニメーションなので、あくまで嘘の空間セットなんですね。それでもリアルに感じてもらうためにどうすれば良いかを考えて、思いついたのが「電信柱に顔をつけること」だったんです。非現実的なキャラクター表現を入れることで、背景である街の方はリアルに感じるのではないかと。なので元々は電信柱の感情を表現したくて、顔をデザインしたわけではないんです。
竹内:それは脚本を書いているうちに気づいたんですか?
中田:そうです。一番最初は顔無しで映像化するつもりでしたが、街を歩きながら電信柱ばかり見ていたら顔を思わせるパーツに気づいて。これなら使えるなと思ってからは、パズルがカチカチカチっとはまるように進んでいきました。
――電信柱キャラクターはどれぐらいの大きさなのですか?
中田:一番小さいのは爪楊枝ぐらいの大きさです。一番大きいのは顔の直径が9cmですね。
竹内:自分はそういうテクニックないです。一つのセットで全部やります。
中田:エレミは瞬きするので、それが可能な大きさが必要だったんです。大きいエレミを作るとなると、背景セットも大きなものが必要になります。造型スタッフとそれぞれ担当して作りました。
竹内:空はどうしたんですか?
中田:空の背景も手描きです。
早船:空があって前からライトあててるんですか?
中田:基本的には手描き背景に照明を合わせていい具合になるまで調整しました。夕陽背景は一つの絵からフレームに入れる部分を変える事で時間帯を表現したり。あと、同じ背景を使ってる事に気づかれないように、特徴のある雲は描かないようにも注意しました。
――「電信柱エレミの恋」はフレーム数/秒をシーンごとに変えているんですか?
中田:はい。シーンの動きによって変えています。
――アニメーションの技術は独学ですか?
中田:アニメーションに関しては、学校に通ったり、誰かに教えてもらった事はないです。「こうしたらどう見えるんだろう」と試し続けて固めていく感じです。長年同じ作品と向き合って飽きないのかと思うかもしれないですが、同じことをやった日はほとんどないんですよ。毎回違いますし、毎日難しいです。
――始める前にプランを練って、コンテ切ってるんですよね?
中田:はい。でも撮影を進めながら、細かい部分の絵コンテは描き変えていきます。初めの絵コンテ通りに撮るよりも、出来上がる途中の実際の空間を見て思いついた方を優先するようにしています。
――声を先に録られたそうですが、シナリオを変えたくなったりしませんでしたか?
中田:収録当初は気にならなかった事が、35歳にもなると気になってくる部分はありましたね(笑)。例えば告白のシーンでタカハシとエレミの長い会話もあったんですけど、そこは大きく切りました。声優をつとめて下さった渡辺一志さん(タカハシ役)※も試写で見て「切って良かった」って言って下さいましたね。言葉を抜く事によって、もっと表情にこだわらないといけなくなりましたけど。
※2001年「19」を発表された映画監督の
渡辺一志さん。
奥秀太郎監督による「USB」にも役者として出演し、桃井かおり、大杉漣、大森南朋らくせのある俳優たちと競演し、存在感を発揮している。
早船:水が湯のみからあふれるシーンが気になりました。水は何でできてるんですか?
中田:あそこはプラスティックや透明ラップ、ウォータージェルを使いました。撮ってるうちに乾いちゃうので水分を足しながら1コマずつ動かしていきました。実際の湯飲みを使うと、水泡の大きさがうまくいかないので、小さな湯飲みを作り、その周りのキッチンシンクもこの撮影の為に作りました。
――水に見えますね。
中田:ひたすら蛇口から水が出てるの見てましたからね(笑)。
竹内:わかります(笑)。僕らも、おばさんがたばこ吸うシーンで、二人で必死で煙草吸ったよね。
中田:煙も難しいですよね。
早船:ひびの表現も気になりました。
中田:電信柱にひびが入ってくるところは、シリコンで作ったものを実際にカッターで割りながら撮影しました。地面が割れていくところは、ポリパテで作った地面に破片パーツを組み合わせて。シーンによって電柱の素材も別なんです。
早船:あと、水のシーンのちょっと前の窓のすりガラスは?
中田:あれはそういう模様のプラスチックシートが売ってたんです。「やったー!」と思って。東急ハンズだったかな。
早船:そういう素材との出会いってありますよね。編集ソフトは何を使ってるんですか?
中田:ファイナル・カット・プロとプレミアです。カメラはキャノンのXL1Sでした。
早船:コマ撮りする時
ランチボックスは使ってますか?
中田:ランチボックスは欲しかったんですけど予算が足りなくて買えなかったです。VJ等で使う機材のオニオンスキン※機能を使って撮影しました。静止画をキャプチャしてそのままタイムラインに並べて。
※オニオンスキン:一度に複数のフレームを表示する機能のこと。前後フレームが薄く表示され、コマ撮りの確認編集などに便利。Flashや音楽編集ソフトDominoなどに装備された機能。
早船:それでもできるんですね!
中田:根性で(笑)。「オートマミー」の時はオニオンスキンも出来なかったので、普通のテレビモニタに、RCA端子のラインを差して、水性ペンで画面に「ここまで動かした」っていう線を描いて撮影してました。誰かにやり方を教えてもらうよりも、とにかくやってみようって思うんですよね。
早船:僕らもそうです。大学でアニメ科とかに行ってない。デジタルコミュニケーション学科だったし。
中田:アニメーションの専門学校から優秀な作品ばかり出るわけではなく、違う畑からも出てきますよね。そうあるべきだと思います。
竹内:本はよく読みますか? ストーリーについての勉強というか。
中田:昔から映画が好きですし、本も漫画も読みますが、特に「これ勉強になるなぁ」って思ったのは落語ですね。映像とは関係ないものだと思ってましたけど、落語には間合いやカット割りがあるんですよ。簡潔な言葉だけで時間軸を変えたり、場面転換させたり。例えば「場所は変わって?」とか言わなくても、セリフ一言で場所が変わった事を自然と観客に分からせたり。人間国宝の桂米朝さんの噺なんか聞くと、映像がパーッと頭の中に出てきて、1人の人間がしゃべってるとは思えない程、映画的に脳を刺激されます。造形しながら
落語全集
を聞きまくりましたね。
竹内:すごいですね! そういうのが結構できなくて、悩みどころ。ストーリーがきれいに運ばなくて。僕らの作品はストーリーよりビジュアルにこだわってるのを全面に出してるんですけど、見てどう思いましたか?
中田:ストーリーにこだわるとそれなりの尺必要になるけど、短くてもビジュアルとして魅力のあるものを追求したアニメーションってのもいいじゃないですか。長所をどんどん進化させていく方が。ストーリーのことであんまり悩まなくてもいいと思います。
竹内:かといって、主軸になるストーリーがないと、ビジュアルだけだと難しいんですよね。
中田:でも、うかつに簡単なストーリーをつけちゃうことで、「話は普通よね」とか「全然面白くなかった」っていう人もいると思うんですよね。だったら一連の動作だけで見せるとか、タイミングで面白く見せるとか、そういう追求の仕方もいいと思いますけどね。見てる瞬間ずっと気持ちいい映像ってあるじゃないですか。カット割りとか、キャラクターの仕草とか、そういう魅力を売りにするのも手だと思いますけどね。
竹内&早船:アドバイスいただいてありがとうございます。
――ありがとうございました。「電信柱エレミの恋」の上映展示会、劇場で楽しみたいと思います。ウッドペッカーさんもご活躍を期待していますね。
「時間をかければいいわけではない」と中田さんはおっしゃいましたが、やはり制作者が長時間作品に向き合うことで、コマ撮りアニメの味わい深い価値が生まれている気がしました。また、コマ撮りアニメといえば、ほのぼのした話というイメージがありますが、中田さんの1作目「オートマミー」のようにぴりっとスパイスの効いたお話、サイケなお話など幅広いコマ撮り作品が世界にたくさんあります。これを機にコマ撮りアニメの魅力にはまってみては(もしくはコマ撮りアニメに挑戦してみては)いかがでしょうか?
・櫻田千枝子(SAKURA堂)/取材&文
■プロフィール
中田秀人:映像制作チーム「
ソバットシアター」を率いる映像作家。パペットアニメーション制作と平行し立体造形物の展示を行うなど、様々な角度からアプローチするアニメーション作品を目指す。2000年には短編アニメーション「オートマミー」で国内外の映画祭において数々の賞を獲得。ニューヨーク国際短編映画祭、釜山アジア短編映画祭等に参加し、 2002年京都芸術文化特別奨励者に選ばれる。翌年に五島記念文化賞美術新人賞を受賞。
Woodpecker:竹内俊太郎と早船将人によるフィルムメーカーユニット。独特のビジュアルセンスで海外からの注目が集まる。東京ネットムービーフェスティバル2008ではコマ撮りアニメ「LANDLADY」が東京ウォーカー賞を受賞。コマ撮りアニメ「FORESTRY」が、アメリカのLe:60 Film FestにてBEST ANIMA-TIONを受賞した他、SLAMDANCE FILM FESTIVALにてアニメーションブロックからノミネート上映された。