This is MV!児玉裕一×ドロップ×ROBOTが語る、椎名林檎MV「都合のいい身体」
2009.10.30.Fri
Category : Features / Interview

ringo_tsugo11.JPG
左から:芦沼智行氏(ロボット)、児玉裕一監督、橋本三郎氏(ドロップ)、紙谷崇之氏(ロボット)、古宇田英之氏(ドロップ) ドロップではジム・ウッドリングの"FRANK"アニメ化も手がけている。
ディズニー黄金時代を彷彿とさせるアニメーションで、椎名林檎とキャラクターたちが歌って踊るミュージックビデオ(MV)「都合のいい身体」が登場!早速このMVを作り上げた映像作家の児玉裕一監督(キャビア)、アニメーション制作会社(株)ドロップよりディレクター橋本三郎氏とプロデューサー古宇田英之氏、映像プロダクション(株)ロボットよりプロデューサーの芦沼智行氏とプロダクションマネージャーの紙谷崇之氏を招き、このビデオを制作した舞台裏を語って頂いた。

"都合のいい身体" dir: 児玉裕一|animation: ドロップ
――椎名林檎さんの楽曲「都合のいい身体」を、こういう形のMVにしようと思ったきっかけを教えてください。
児玉裕一(以下児玉): 楽曲を聴いて、音楽的に非常に豊かで普遍的なものを感じたんです。だからこそこの曲は"純粋に音そのものを映像で表現したい"と思ったんですね。音楽って全体を通してみると色彩や明暗みたいなイメージをかき立てますが、音のひとつひとつを聴いてみると「膨らむ」「下がって上がる」「引いて寄る」「跳ねる」といったような、まるでカメラワークやアニメーション的感覚が際立ってきます。昔ディズニーが制作した「ファンタジア」がこの表現の最高峰だと思っているんですが、恐れ多くもこの表現をしてみたいと思ってしまったんです。アニメーションは実写よりもカメラワークもアクションも自由ですから、よりハチャメチャな画作りもできる。それと椎名さん自身の「身体」をテーマにしたかった。だからアニメーションと実写のコラボレーション企画を考えました。そして、アニメーションの制作をロボットさんに相談したんです。「「ファンタジア」が作りたいんですけど、僕どうしたらいいですか?」って(笑)。

芦沼智行(以下芦沼):児玉さんに「ファンタジア」が作りたいんです」(笑)って言われて…。「ああ、はい…」って思ってたんですが、「林檎さんの体がどんどん完璧になっていく冒険の物語なんです」と説明いただき、絶対に面白くなる!って思ったんです。で一緒にやらせてくださいってお返事したんですが、納期まで時間もなく、果たして「ファンタジア」、ディズニーって日本で出来るのか?とリサーチからはじめました。弊社の野村辰寿(アニメーション作家)にも相談して、たどり着いたのがドロップさんだったんです。

橋本三郎(以下橋本):僕は元々東京ムービーというところでアニメーションや背景をやっていて、その後テレコムに務め、日本にディズニーが出来る時に呼ばれて入ったんです。ディズニージャパンで「アラジン 」、「チップ&デール」、「リトル・マーメイド」のテレビシリーズを手がけていました。

児玉:世界中のディズニーで分担作業をして作るんですか?

橋本:はじめてテレビをやったのが日本だったんです。ディズニーがテレビシリーズをやることは殆ど無かったんです。テレビシリーズをはじめてやるとなった時に東映と東京ムービーにテストを出したんです。「ガミーベアーの冒険」という作品でした。東京ムービーが結局やることになって、しばらくそこでやっていたのですが、日本のアニメ会社って予算や時間に縛られてしまいます。ところが、ディズニーはそういうものは関係なくクオリティだけ。そこでどうしてもぶつかってしまって遂に東京ムービーを蹴飛ばしてしまった(笑)。ディズニーってちょっとでもクオリティが低いと絶対外に出さないんです。今見ているもの以外にその下には沢山のお蔵入り作品が有るはずです。で、結局自分のところで会社を作ったほうがいいんじゃないかということでディズニージャパンが起ち上がり、オーストラリア、カナダ、フランスと拡がっていきました。今は規模縮小でなくってしまいましたが。そういう話を野村さんとしていたところ「椎名林檎さんのMVやりませんか?」とお話をもらったんです。

――ディズニーのテレビシリーズが日本で作られていたのには驚きました。
橋本:野村さんから話をもらった時に、スケジュールがタイトでフルアニメーションでは出来る物量じゃなかったので「リミテッド・アニメーションですか?」と聞いたところ「いや、違います」と。

児玉:すみません(笑)。

――リミテッド・アニメーションとは?
橋本:いわゆるテレビアニメ的な、動きが限定されたアニメーションです。フルアニメーションは一秒間にだいたい24枚(の画)なんですが、リミテッド・アニメーションは日本だと一秒間に8枚が多いんです。ディズニーのテレビだと、昔のクラッシクスは24枚なんですが大体12枚が多いですね。フルアニメーションだと単純に考えて1分間に1,500枚くらい必要になってくる。椎名林檎さんの楽曲は3分程度と聞いていたので何千枚も必要になってくる。でも、おもしろそうだなって事で参加させていただきました。

児玉:承諾もらった次の日に打ち合わせに行って(笑)。

橋本:児玉さんの事も僕はよくわからなかったんですけど、安室奈美恵のヴィダルサスーンのCMを見て凄いなって思ってたんです。まさか日本人がやっているなんてとても思っていなかった。そしたらそれをやった人だと言うじゃないですか。ちょっとビビりましたね。それでコンテや参考映像など見せてもらったんです。ジーン・ケリーがアラビアの踊りをする映画「踊る大紐育(ニューヨーク)」ですね。僕は最初実写の林檎さんシーンとは別でアニメーションが入ると思っていたんです。とてもじゃないけど実写とアニメを融合させるなんて今回は無理だと思ってましたし、そんな事を考えているなんて思っても無かった。でも実際コンテ見たらそういうのばっかりで、しかも踊っている(笑)、コンテには"ダンス"としか記されて無いので、どういう踊りかもわからない。でも話をしたり、児玉さんがPCで作った「ファンタジア」の光のダストのようなものを見せてもらっているうちに「出来るかな」って感じ始めました。

ringo_tsugo7.jpg
右のコンテが、児玉監督による絵コンテ。赤の部分がアニメーションパートとなっている。左のコンテはドロップが作成したアニメーションコンテ。

児玉:僕がどれだけアニメーションのトーンにこだわっているかというのを説明するためにお見せしたんです。ディズニーの光のキラキラしたパーティクルやトロトロと落ちてくる感じが大好きで、自分で昔から研究して試作していたんです。「研究の成果がコレです」ってお見せしたんですよね。

橋本:いやぁ、びっくりしましたよ。僕らはそれをディズニーダストって言うんですが(シンデレラで出てくる魔法をかけるときのキラキラ等)、手描きなんですよね。大変な作業ですが、ディズニーではキャラクターのアニメーションをする人とエフェクトだけをする人と別れているんです。そういう専門のアニメータがいて、それも全部要求されても無理だな~って思ってたんです。児玉さんがそういうことが出来るっていうのが驚きでした。

児玉:今回は音に対して自由に動くアニメーションをつくりたかったんです。原型をとどめて無いくらい、グニャングニャンした。それがめちゃくちゃ大変だというのは重々承知で(笑)。

橋本:でもそれがアニメの面白さなんですよね。僕らはどっちかというとそういうのをやりたいのですが、今やっている仕事では、なかなか無いんですよね。本来アニメらしいやわらかいものをやりたかったので、こんな機会を与えられただけでもうれしかったですね。

――実写は24コマ撮影ですか?合成は監督自らが作業したんですか?
児玉:そうです。撮影は24コマでしています。アニメーションはドロップさんにお願いして、「合成は僕がやります!」と。「このデータは誰にも触らせません!」って。いや、本当誰にも触らせたくなくて。

ringochara.jpg
杉崎貴史さんのオリジナルデザインから世界観を統一するために橋本さんが再デザインし仕上げていったキャラクターたち。

――アニメーションの方は頭から作業していくんですか?
橋本:基本的に頭からやっていきます。テレビは作業的に楽なところからやっていったりしますが、フルアニメの場合は一回動き出すと止まらないのでやるしかない。

――今回ドロップさんスタッフ何人くらいかかわっているんですか?
橋本:ディズニーにいた時から一緒にやっている和田恒とほぼ2人でやってます。僕のやりたい事を理解しているんですね。動画や撮影スタッフの人選は古宇田がやっています。

古宇田英之(以下古宇田):そこはスタッフをかき集めて作業しました。総勢20名位のアニメータが参加してるんです。

橋本:通常なら中国に出すんですが今回は全て日本でやってくれと。

古宇田:テレビは時間がないので中国や韓国に発注する事が多いんです。

橋本:フルアニメの場合ちょっとでもガタガタすると全てが台無しになってしまうので、妥協ナシでやりました。

――実際にどういうプロセスで行われるんですか?
児玉:完成するまでに段階が有るんです。まずテスト撮影というのがあって、間のコマを割っていない状況のビデオを作るんです。

テストムービー

橋本:ラフをつくって動画にしていく。原画から動画をこのアニメーションシートにまとめていきます。原画のところに○がついていて。動画で通し番号をつけています。フルアニメの良さって段階ごとにどんどんよくなって、本当の良さは最後の作業で出る。過程で出来上がっていくのが楽しい。テレビアニメだと最初のステージング(レイアウト)を書いたらそこからもうほとんど変わらないですよね。

ringo_tsugo13.jpg
編集部もはじめて見るアニメーションシートに感動を。

――制作期間はどれくらいなんですか?
芦沼:正味一ヶ月弱ですね。最初に打ち合わせでお伝えしたんですが、ドロップさんは半信半疑だったんじゃないでしょうか?普通では考えられないほど短期間なので。

橋本:しかもこのクオリティで。他にも仕事あったんですが最優先で(笑)。

芦沼:ドロップさんも時間ぎりぎりまで、前日までやってもらったんです。必然的に合成をやっている監督も前日まで(笑)。

児玉:本当、そこまでやってくれてうれしかったです。

――アニメーションはディズニーで培ったノウハウが活かされているんですね。
橋本:そうですね。本当にそれだけでやっているような。今までその経験を活かす場というのがあんまり無かったんですよ。原画をやってくれた彼とも久々にやって楽しかったねって話してました。

児玉:体重計が林檎さんを追いかけてくるシーンがあるんですが、体重計が勢いがつきすぎてキュキュキュっと方向をかえて向かってくるところ等、とても豊かで音楽的だなって思ったんです。とくにこの曲は生音が迫力があるので、強弱のつけ甲斐がありましたよね。

橋本:リズムってとても大切なんです。シートをみるとよくわかるんですが、この1ブロックは1フィートと僕たちはよんでいるんですが、16 コマになっていて8コマ単位なんです。8コマっていうのは人間の鼓動にあっているんです。僕たちはシートを作るとき「カカッ、ブーーン」とか言いながらタイミングとってやってます。リズムがあるんですね。ディズニーでは"生き生きとしたアニメをやらなくちゃダメだ"って言われる。とにかくエモーション。和田(恒)はディズニージャパンでもナンバー1だった人で、こういう感覚が得意なんですよね。魚が歌っているシーンとか彼の右にでるものはいないんじゃないですかね。

児玉:あたりまえのように手足の無い枕が踊っているように見える!というのが凄いなって思ったんです。

橋本:あれ、苦労しました(笑)。合わせていく林檎さんの実写を見て、あれ~って思っちゃった。

児玉:あのダンスを踊る林檎さんも凄いと思いました。とにかく美しくてキュート。

橋本:児玉さんのコンテを見てて思ったのがディズニーのミュージカルのコンテの流れとあってるんですよね。林檎さんの音楽の演出の仕方も。だからやっていて違和感が無いんですね。僕らがやってきた事をやっているので時間が短くても全然違和感なく出来たんだと思います。感覚的に気持ちよく出来て、改めて凄いなって思いました。林檎さんがあんなに踊れるっていうのもびっくりしましたね。

――椎名林檎さんの動きもアニメを意識した演出でとても魅力的ですね。
橋本:児玉さんの合成した物をよく見るとコマを中抜きしてアニメっぽくしたりしてるんですよね。一回しか会って無いんですが、そういった小技とか、途中経過の映像をやりとりしながら「あ~やってるな」って(笑)。

児玉:最初に打ち合わせしてから実は一回しか会って無くて、あとは電話とメールとサーバーで(笑)。でも絶対の信頼感がありましたね。最後合成して「出来上がりました~!!」ってDVDをもって行ったのが二回目(笑)。

橋本:わざわざ遠いところまで。東久留米ですから(笑)。

――ディズニーのいう"生き生きとしたアニメーション"は具体的にどういうルールでつくられているんですか?
橋本:(おもむろにノートをひろげて)いろんなルールが沢山あるんですよ。昔勉強をしててノートにまとめたのがあるので持って来ました。これに僕の秘密が一杯書かれてます。

一同:おお~!

橋本:"真実味がありそして歯切れのよい生き生きとした質のあるものを描かなければならない〝これがリズムというところの一番大切なところです。ステージングと呼んでいるレイアウト(キャラクターの配置等)について色々と書いてたり、ディズニーのカルアーツという大学の教本から抜粋をしていたり、アクションについて、そしてウォルト・ディズニーが言った言葉など…。これが今回の作品に全部活かされているんです。

ringo_tsugo14.jpg
ディズニーアニメの秘密が一杯書かれた橋本さんのノート

橋本:例えば"アクションはステージングが命だ"。今回のMVでは、アニメの体重計がどこからはいってきて、林檎さんがいて、どこまで行けば動きの幅が広がるか。例えば真ん中に林檎さんがいてそこで体重計が止まってしまっては面白くない。入ってきて一度通り過ぎて戻ってきて、また通り過ぎる。動きの幅を大きくすると、アクションの幅がでるんですね。

児玉:もともと僕は一直線においかけてくるのを想定してたんですが、この動きを提案していただいて、これはもうお任せしようと。

橋本:ブラカモメ(ブラジャーを模した鳥)が飛んでいるところも風を受けて一度開いてバタバタとなったり、蛇も一度口を開くんですけど、更にもう一回開くとか、そういったセカンダリー・アクション、つまり、一つの大きなアクションに二次的なアクションをつけるのが大事なんです。もう一つアンティシペーションというのがあって、動く前に一度準備動作をいれ、動いて、フォロースルーにつなげると。例えば起き上がる際にそのまま起き上がるのでなく、一度しゃがんでから起き上がるのがアンティシペーションですね。止まる時はピタっと止まると硬くなってしまうので、部分的に止まっていくんです。全てがオーバーラップしながら動くと空間が出てくるんですね。生き生きっていう意味でいうと"スクオッシュ&ストレッチ"と言う、形を潰して伸ばしてやる方法もあります。ボールとかわかり易い例ですね。近年の3DCGはそればっかりになっちゃっていて単調で面白くないですけどね。動きだと"スナップ&クッション"とか、そういうのが全部あるんですね。みんなこういうのを何年もやりながら学んでいくんです。フルアニメーションは経験の中から習得できるものなので、一朝一夕にはできないですよね。

児玉:こういうとこまでやってくれるプロダクションってどんどんなくなってきてますよね。

橋本:いや、もうないですよね。そもそもそういう仕事がないんです。

――一番の思い入れのある箇所を監督と橋本さんそれぞれ教えてください。
橋本:僕はやっぱり林檎さんをキャラクターにしてアニメーションにした所かな。デザインに苦労しましたからね。「グラマラス」というキーワードをもらってて、僕はそれに加えクラッシックなイメージがあったのでベティーちゃんっぽいのがいいかなって思ってたんですが、児玉さんから、ラルフ・バクシが作ったブラッド・ピットとキム・ベイシンガーが出ているフルアニメーションの映像資料で「クール・ワールド 」をもらったんです。それがスタイリッシュでかっこよかった。僕のはリトルマーメイドのアースラみたいなおデブちゃんだったんです。で、よく考えたら、これはグラマーじゃないな…って。グラマーを考え違いしてたんです。それでデザインをやり直したり。でもそういう所が大事なんじゃないかなって思いますね。

児玉:僕は、林檎さんとダンディー(ハンガーのキャラクター)が2人で一緒に踊るシーンですね。このシーンが凄く見たかったので、アニメが上がってきたときは本当にうれしかったです。

橋本:ここのダンスが一番長いカットで大変だったんですよね。描くのが大変だった。実写のガイドの人間の動きを置き換えるのに、足の長さが合わないんですよね。手を握ったりしているので合わせていかなくてはいけない。ちょっと長めにデザインしてみたんですけど…どうしようかな…なんて、思いながら出したらやっぱり監督、見てるところは見てて、直しが来ましたね(笑)。もっと男らしく踊ってくれと。

児玉:ここは見せ場だったので!

橋本:枕のダンスのシーンがあるんですけど、最初の打ち合わせで5体くらいの枕が輪になって踊るというのがあって…。

児玉:林檎さんが巨大化するにあたって儀式の踊りのような場面です。

橋本:それは流石に実際に描く身になってみると…(笑)。時間があればいいですが。その代わり枕2体にして、5体で無理やりやるより動きが楽しいものを考えました。最後はサービスでちょっと飛び上がらせてます(笑)。(枕のアニメーションはこちら

児玉:全カット、思いいれあるんですが、ドロップさんから送られてきたアニメを自分でコンポジットして「あ、出来た!」っていう行程を毎日繰り返してて、テンションが上がりっぱなしでした!

橋本:波のシーンも思い入れがあります。あそこは最初からワルツのようなイメージがあったんです。

児玉:ズンチャッチャ~、ズンチャッチャ~って。随所にドロップ・マジックが効いてますね。最初林檎さんが巨大化するシーンは顔だけ実写でいこうと予定していたのですが、ドロップさんから上がってくるのを見ててこのタッチで林檎さんが表現出来るといいなと思い、全てアニメーションでお願いしますと。実写の部分の振り付けはユニクロックなどでお世話になっている「振付稼業air:man」にお願いしてアニメーションの際のガイドにしてもらっています。
ガイドとなる実写映像。ハンガーキャラ、ダンディとのダンスシーン

――息がぴったり合った仕上がりですね!
橋本:児玉さんが凄く上手く合成されててびっくりしました。

児玉:映像に粒子がどれくらい乗るといいかとか、実写とアニメの馴染みとかにもこだわってみました。結局一本のミュージックビデオとして見たときに音楽をどれくらい表現できたかが重要。

橋本:児玉さんが「ファンタジア」をやりたいっておっしゃってたのですが、僕にとって「ファンタジア」は絶対に出来ない存在。でも何とか近づけたいと思ってやったんですが…。

児玉:僕が言ってた「ファンタジア」っていうのは音とアニメーションの関係性。今回のMVはしっかり「音楽映像」になったと思います。

橋本:ファンタジア 2000 」って近年コンピュータで作った作品があるんですが、映像的には今風に素晴らしいですが、何か訴えかけてくるものが無いんですよね。

――それは何なんでしょうか?
橋本:やっぱり手作りならではの訴えてくるものが絶対あると思うんですよね。今の3Dのアニメを見ても目の奥に訴えかけてくる何かが無いんですよね。

児玉:最近MVって何なんだろうな~?って考えるんですけど、「こういうのがミュージックビデオでしょ」っていうのが作りたかったんです。

―アーティストもデビューから成長し次のステージに進みます。椎名林檎さんもますます豊潤な音楽性が魅力的です。そういったアーティストを手がける際、どういう所にフォーカスしていらっしゃるんですか?
児玉:僕はやっぱり椎名さんご本人のイメージというよりも、椎名さんの曲のイメージで作ろうと心がけています。逆にそこにしかヒントがないのだと、いつも思います。林檎さんの生み出す音楽って他のアーティストと一線を画しているところがあって、それは普遍性だったり、書いているテーマとか、裏切りも含めて、楽曲自体の存在感が強いですよね。何年たっても消費されない。

橋本:詩が深いですよね。言葉と言葉の間にあるものをちゃんと創っている。「創る」っていうのは言葉のもってる意味だけじゃないところをちゃんと響かせている。僕この仕事まであんまり聞いた事なかったんですが感心しましたね。大好きです。

児玉:林檎さんは音楽のアプローチも毎回違うじゃないですか。今回のようなオーケストラだったり…。そんな林檎さんだから僕たちの作ったアニメーション以上にアニメーションして見えてるんじゃないかと感じています。

――お互いが出会わなかったらこのクオリティは生み出せ無かったですね。
芦沼:本当、小さな奇跡みたいなものですよね。児玉さんが最初から凄いテンションで目とかキラキラしてるんですよね。ドロップさんも凄く情熱的で、僕たちは創造されていく過程を驚きながらみてました。

児玉:僕がドロップさんに電話すると古宇田さんが毎回「ダイジョブですよ~」って凄く明るい。素晴らしいな~って。過酷なハズなのに。古宇田さんの声に癒されてました。

古宇田:僕もこの仕事をやるっていうだけで癒されてました。「私これ!」って一番枚数多そうなカットを持って行く子とか、みんな楽しんでやってました。

橋本:こういう仕事って疲れないんですよ。ユーリ・ノルシュテイン も言ってたんですが「仕事で疲弊しない。仕事から贈り物をもらう」。僕もそんな感じだったんです。

児玉:本来、映像って面白くて楽しかったはずで、この仕事で久々に思い出せました。僕の子供の頃はトムとジェリーとかを夕方に再放送してた時代だったんですが、あのアニメの動きを友達と真似して遊んだ、あの感じをなんとか残したいなぁ。

橋本:僕もアニメーターになりたいって思ったのは、小さい頃からディズニーとか真似してやってたんです。ディズニーに入社してロスの試写室「スウェットボックス」で「ジャングルブック」を見たときに"ドリームカムトゥルーだな"って思いました。でもそれだけじゃダメで、次にいい物を創って見せてあげたいって思うんだけども、そういう場がなかなか無い。小さい時に見た物ってずっと覚えてますからね。大事だと思うんです。このMVは子供にも胸はって見せられると思うんです。

児玉:林檎さんの音楽を聴く世代はとても広いので、小さい子がこれをみて「このアニメ他のとなんか違うな~」って思ってくれたらうれしいですよね。

橋本:やっぱり創り手が楽しんでないと伝わりませんよね。

児玉:年も離れている(笑)スタッフが椎名林檎さんの楽曲を中心に心が一つになって、「みんな創るのが好きなんだ」って実感できた幸せなプロジェクトでした。

クリエイターたちの情熱と小さな奇跡によって生み出された本MV。ほかにも「ありあまる富」など、椎名林檎X児玉裕一による珠玉の映像作品たちは、8月に発売された映像作品集DVD「性的ヒーリング~其ノ四~ 」にてたっぷりと楽しむことができる。

5つの質問 一問一答(児玉監督の5つの質問はこちら
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
橋本:月岡貞夫のアニメ教室
古宇田:80年代のアメリカのハードコアバンド
葦沼:仲間(悪友)
Question 2: この職に就いたきっかけは?
橋本:東京ムービーの背景部へ遊びに行くようになってそのまま背景を描くようになり入社してしまった
古宇田:職安で見つけたのがきっかけです
葦沼:「くたばれハリウッド」というゴッドファーザーetc.を作ったプロデューサーの物語を知ったこと
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
橋本:めぐり逢い
古宇田:ビデオ・ドローム
葦沼:アンダーグラウンド
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
橋本:ウォード・キンボールのポーズ集、フィギュア(アリス)、モーリス・センダックのポスター
古宇田:ボールペン、ケータイ、おかし
葦沼:ケータイ、タバコ、名刺
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
橋本:杉浦茂の漫画をアニメにするためにアイデアを練ること
古宇田:スケートボード
葦沼:波乗り
■プロフィール
児玉裕一:1975年生まれ。東北大学理学部化学系卒業。大学在学中より仙台にて映像制作の活動を開始。広告代理店勤務を経て独立。以後フリーディレクターとしてCM、MVなどの演出を手掛ける。2006年よりCAVIAR所属。レギュラーで制作している2007年に公開されたUNIQLOCKでは、カンヌ国際広告祭、ONE SHOW、米クリオ賞の世界3大広告祭全てでグランプリを獲得した。

DROP:FROM 東久留米 TO 世界中(笑) テレビシリーズのアニメーションからCM 、PV、オルタナアニメなどなどを手がけるアニメーションの企画・制作・プロデュース会社。 作品歴:テレビシリーズ作品では「ななみちゃん」、「花咲ける青少年」、「ヤッターマン」など。2008年、ANIBOOM RADIOHEAD PVコンペにて「15STEP」で優勝。ほか、FRANK「HI-RISE HOPPER」(2005年。アメリカンオルタナコミック作家JIM WOODRINGさんのコミックのアニメーション)なども手がける。
■DVD「性的ヒーリング~其ノ四~
TOBF-5650 \2,400(税込)
リニアPCM/16:9 LB/片面1層/APPROX 24min/ALL
収録映像:「ありあまる富」「旬」「流行」「色恋沙汰」「都合のいい身体」―エンドロール―「丸の内サディスティック(EXPO Ver.)」
トラックバック