映像作家がCintiqを使って描くオリジナルの世界 Vol.1
2009.09.29.Tue
Category : Special

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本郷伸明:1979年生まれ、東京都出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、㈲イエローブレインにて丹下紘希氏の下、映像制作の基礎を学ぶ。年間250作品以上のミュージックビデオの制作を手掛ける㈱セップとエージェント契約。現在、ミュージックビデオ、CM、CDジャケットのディレクション・デザイン等で活動中。大塚愛「ユメクイ」、スガ シカオ「春夏秋冬」、竹内まりや 「縁の糸」「チャンスの前髪」、関ジャニ∞「Kichu」、映画「大洗にも星はふるなり」オープニングタイトル等を手がける。
映像制作の現場で特殊効果や合成などの作業をするなら、ペンタブレットは必需品だ。一枚一枚のコマに対して部分的に選択したり修正するならばペンで作業したほうが直感的だし、作業スピードも向上するからだ。映像作家の本郷伸明氏も液晶ペンタブレット「Cintiq 21UX」を使って、1分のオリジナル映像「SWEET REVOLT」を作成した。その制作の裏側をレポートしていこう。

■実写素材のみで創られたお菓子の世界「SWEET REVOLT」
「SWEET REVOLT」 dir: 本郷伸明|music: 横山裕章
綿菓子の雲の上にある、ビスケットやチョコ、アメなどで出来たベルトコンベア。ベルトコンベアの先には女の子が待ち構えており、口を動かすだけで永遠にクッキーを食べ続けられる仕組みになっている。そのクッキーの1つが突然戦車のように変形し、弾丸を撃ってきた!実は女の子の口はロボットよりも全然大きく、今までのスケールの大きな攻撃は女の子の口の中に向かって行われていたのだ。一気に食べられてしまうお菓子のロボット。実は女の子の夢の中でのお話だった。

■作品のコンセプト
女の子の大好きな「お菓子」という甘くて可愛いらしい素材が、怖い形に変形していく不思議な世界。「夢」というものは、自分に都合のよい「何でもあり」の世界が展開したり、突然想像もしなかったことや恐怖を感じることもある。そんな「夢」を、まだ幼い女の子の頭の中で起きる不条理な世界として、スピーディーに実現した。

早速作業現場を取材しに東京・六本木にある株式会社セップを訪れた。本郷氏が作業をする編集室で一番目を引くのが21.3型モニタを搭載した液晶ペンタブレット「Cintiq 21UX」だ。本郷氏にとってペンタブレットはどんな存在か聞いてみた。

「今回のテーマにもしているんですが、僕にとって映像は「夢」を具体化させる作業なのです。その「夢」という感覚的なイメージをペンという慣れ親しんだ道具で効率よく実現してくれるのがCintiq 21UXです。僕は今でもアナログの質感や作業が好きです。そのアナログの感覚をそのままデジタルで作業できるのがペンタブレットです。ペンタブレットがなければ完成しなかった作品も相当あります」
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世界観のイメージ
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キャラクターデザインのイメージ

■全編コマ撮りで映像作品を作りたかった
コマ撮りで作られた「SWEET REVOLT」を見て驚いた。キャタピラはキャラメル、雲は綿菓子の綿、ベルトコンベアは一個一個正面から撮影したビスケット、キャラや背景は全部お菓子の実写を合成してできているからだ。これほどの量の実写素材からマスクを抜いて合成するのに、どれほど時間がかかったのだろうか?映像の斬新さだけではなく、気が遠くなるような工程で作られているところも気になるところだ。

映像を制作したのは本郷伸明氏。年間250作品以上のミュージックビデオ(MV)を手がける株式会社セップのディレクターだ。「今はCDジャケットのアルバムのデザインとMV、テレビ番組のオープニングを平行で進めているところ」と大忙しの中、話を聞かせていただいた。

本郷氏の映像のタッチは特に決まっていない。というのも、デザインもできれば絵も描けてアニメーションもできる。何でも器用にこなすことができるのが本郷氏の凄いところだ。最近では、2009年秋に公開される映画「大洗にも星はふるなり」のオープニングのタイトルバックや可愛いアニメーションを実現した関ジャニ∞の「kicyu」(アルバム「PUZZLE」の収録曲)のMVなど、話題の映像作品を多数手がけている。

アイデアやセンスは今回制作した「SWEET REVOLT」でも存分に生かされている。通常のコマ撮りは、静止しているキャラを少しずつ動かしてシーン全体を1コマずつスチル撮影する技術。本郷氏が行ったコマ撮りは、お菓子単体を動画で撮影して必要なコマのマスクを抜き、After Effectsで合成という方法だ。

この手法を使った経緯についてこう語る。 「前からパーツ単位でのコマ撮りする方法を全編使って映像作品を作りたいと思っていましたが、5分のミュージックビデオでは手間がかかりすぎて間に合いません。しかし、30秒程度の自主制作作品であれば対応できそうと判断しました」

こうして「SWEET REVOLT」の制作がスタートした。

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魔神のボディに使ったビスケット単体撮影状態(背景あり)
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魔神のボディに使ったビスケット単体、マスク抜き状態
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魔神のボディに使ったビスケット、Photoshopで合成状態
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魔神の状態


■STEP01 素材の撮影
最初にお菓子の素材撮りをムービー(カメラはPanasonic AG-HMC155)で行う。背景のホワイトチョコとアップのカットがある「顔」や「歯」は大きな解像度が必要なので、スチルカメラで撮影した。それ以外は、ムービーを使って撮影し、1カットの映像から5コマや10コマのスチルを抜いていく。ムービーでも画質や解像度は十分だし、お菓子を動かしながら撮影すればいっぺんに撮れる。撮影は最終的に300カット以上にも及んだ。

しかし、撮影よりも大変なのは「お菓子の選択」だ。絵コンテの段階では戦車の装甲にウェハースのようなものを並べて使おうと予定していたが、実際に撮ってみたら弱弱しい。そんなときにたまたま「キャラメルのほうがゴツゴツしていて合いそう」と気がついて急きょ差し替えた。また、数十種類にも及ぶお菓子は一日で集めきることはできないし、お菓子というデリケートな食べ物の扱いにも苦労した。

「お菓子の撮影は1日どころではありません。戦車の装甲やキャタピラ部分が予想していたお菓子では合わないために別のお菓子を探したり、思いついたお菓子を新しく入手しては別の日に撮影をしました。結局、絵コンテですべて決めることはできず、ある程度は撮りながら決めていったところがありました。また、食べ物は熱に弱いのですが、すごく大きな照明をつけて撮影をしたので熱でどんどん溶けていったり、クッキーは撮影前に割れてしまったり…。お菓子の扱いは予想以上に苦労しました」

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女の子の撮影ではひたすらお菓子ばかり食べてもらって撮影を行った。
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撮影したお菓子

■STEP02 Photoshopでマスク抜き
実写素材には背景が写っているので、マスク抜きを行う。マスク抜きとは合成処理をするためにコマから必要部分以外のところを消していく作業のことだ。一枚一枚撮影したお菓子のコマをPhotoshopで開き、ぼかしを設定した「投げ縄」ツールでお菓子や女の子のアウトラインをなぞるように選択していく。一枚抜くのにかかる時間はクッキーのような単純な形状ならば5分ぐらい、少女のような複雑なものなら10分ぐらいだ。それが約2,000枚ぐらいあるというのだから、どれだけ大変な作業なのか想像していただけると思う。

「マスク抜きの作業はしんどいので、“夕飯までにあと20枚”という感じで手の届くところに目標を設定して作業しています。また、変形するキャラに関してはうまく変形したところをイメージしながら作業します。早く抜いて動かしたい。その衝動がひたすら作業を続ける原動力になるのです」

本郷氏はマスク抜きにCintiq 21UXを使って効率を上げている。まず、お菓子のスチルをCintiq 21UXのモニタに表示して、アウトラインをペンでなぞっていく。Cintiqは液晶画面に直接描くことができるので、ペン先と視線は同じ位置になる。操作する本郷氏の姿は紙に鉛筆で絵を描くようなスタイルそのものだ。

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液晶画面に直接ペンで描くようにして操作が可能。左が液晶ペンタブレットのCintiq 21UX
選択範囲の正確さもCintiq 21UXの特徴だ。Cintiqは見たものをそのままペン先で選択できるので、選択範囲の精度が高い。

「Cintiqを使う前までは、拡大してマスク抜きをしても抜き漏れのミスがありました。抜き漏れは再び修正しなければいけないので時間のロスです。Cintiqを使ってからはその修正の手間がなくなり、作業効率は2倍ぐらいになりましたね」

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おでこ周りは「投げ縄」ツールでざっくり作業をする。角度によっては「消しゴム」ツールのほうが早い場合がある

■STEP03 実写素材をPhotoshopで合成
マスクを抜いた素材は、Photoshopで重ねるように再構成する。キャラメル戦車の装甲に使ったキャラメルは粘土に複数のキャラメルをくっつけて撮影したが、それ以外のほとんどはお菓子単体で撮っているので、1つの実写をPhotoshopで重ねてパーツにしている。本郷氏のテクニックで驚くのは、その馴染見具合。合成したように見えないのだ。例えば、クッキーを並べて合成したところを見ると、ライティングの方向をレタッチで編集したので、最初からクッキーを並べてスチルを撮ったようにも見える。

「学生の頃にデッサンをさんざん習いましたが、この合成もデッサンのようなものです。並べるというより、Cintiq 21UXでどんどん陰影を付けていくような感じですね。ブレンドモードの「焼き込み」や「覆い焼き」などの機能や、トーンカーブで下地で下に暗いものを引たりしてレタッチをしました」

また、ここの工程では動くキャラの中割のパーツも作る。例えば途中に出てくるチョコ魔神は口が開閉するので、「口がを閉じた状態」から「開いた状態」の中割など合計5枚カットを作る。最終的に足、手、体、顔、手などのパーツにまとめていった。
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Photoshopで合成された状態

■STEP04 After Effectsで合成
Photoshopで再構成したパーツをAfter Effectsで演技をつけたり、カメラの動きをつけていく。チョコ魔神は、パーツごとに動きをつけて全身をまとめていく。ここで大変なのが変形の調節だ。

「戦車からチョコ魔神の変形の部分はプレビューレンダリングをしながら調節していきます。最低限の時間で変形するようなスピードにしたかったので、それを何回も“組んでは2フレーム調節”のような感じで微調節をつけていきます」

また、「SWEET REVOLT」は当初30秒の予定だったが、完成したときには1分の長さになった。どうしても変形のために時間が必要だったからだ。

「変形の際のパーツの動きには矛盾がなく、1つひとつにきちんと理由があって動いています。しかし、ここまでこだわって戦車の変形をさせると、想定していたより時間がかかってしまいました。だからといって一定以上の速度で変形すると何が何だか分からない映像になってしまいます。結局、変形だけで当初の2倍の時間がかかってしまいました」
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After Effects作業画面

■妥協はしない
本編を見た人ならば、誰もが「虫から戦車、魔神の変形が凄い」と思うはずだ。本郷氏も思い入れがあるカットに「チョコ魔神」を挙げている。これほど複雑な変形を絵コンテの段階で一切妥協なく企画して実際に映像化してしまう。むしろ「時間があればどこまでも作り込みます」とまで言い切る。

「ロケットも一個一個回転しているのですが、完成した映像ではわかりません。結果からすれば一枚の画像を動かすだけでよかったかもしれませんが、まったく無駄な作業とは思っていません」

 本郷氏が妥協しないでどこまでも映像を作り込めるのはCintiq 21UXがあるからではないか。大量のマスク抜きを一人でこなせたり、本郷氏が持っているデッサンのセンスをそのまま映像に反映できたのはCintiqのおかげでもあるだろう。

本郷氏は今後の展開についてこう語ってくれた。

「機会があるならばSWEET REVOLTの世界をもっと広げたいですね。例えば、夢の中だけではないシーンの追加とか。ゆくゆくは、オリジナルでちょっと長めの映像を作りたいです。そして映画なども挑戦してみたいです」

独特のアイデアとセンスで映像を作り続ける本郷氏。今後もひと味違う映像を見せてくれそうだ。
Cintiq 21UX
ワコム社の数あるペンタブレットの中でも最高級機種であるCintiq21UX。21.3型モニタを搭載した液晶ペンタブレットで直接モニタに描画が可能。Intous3テクノロジを採用しているので、高精度、高分解能、高速読み取りはもちろん、1,024レベル筆圧機能のほか、Intuos3用の各種オプションの利用が可能だ。
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最上位モデル「Cintiq 21UX」

(全文はこちら)
5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください

Question 2: この職に就いたきっかけは?
大学の英語の授業で、撮影した課題
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
ブルーベルベット東京フィストイグジステンズ
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
PC、筆ペン、白い紙
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
やっぱり映像
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