中田秀人×ウッドペッカー コマ撮りアニメ作りの抗いがたい愉しさ
2009.07.10.Fri
Category : Features / Interview

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左:竹内俊太郎(ウッドペッカー)、中:早船将人(ウッドペッカー)、右:中田秀人
手作り感の魅力溢れるコマ撮りアニメ。一体どうやって、どれぐらいの時間をかけて作られているか知っていますか? 最新作「電信柱エレミの恋」(以下「エレミ」)を発表したばかりのソバットシアター中田秀人さんと、新人映像作家ウッドペッカーを迎え、コマ撮りアニメの制作秘話や魅力について語ってもらう。

「電信柱エレミの恋」 dir: 中田秀人
――フルCGアニメーションもコンスタントに上映される昨今ですが、そういう時代だからこそ、逆にアナログな手法の手描きやコマ撮りのアニメーションが新しく見えます。テレビCMなどでもコマ撮り作品は多いですし、見ている側にとってはますます魅力ある表現になっていると思います。とはいえ、実際制作されている方はどうなのかと思ってこの対談を企画しました。コマ撮りを表現としてなぜ選んだのか、制作環境はどのように変化しているのか、もしくはしていないのか、などなど。自主制作でコマ撮りアニメの制作を続ける中田さんと、後に続く若手のウッドペッカーさんとで、ざっくばらんに語っていただければと思います。まず始めに、コマ撮りをなぜ始めたのか教えて下さい。

中田秀人(以下中田):アニメーションの中でも、すごく作家性が出やすいジャンルだと思います。パズルみたいに小さなパーツを組み合わせて、ひとつの画面を作り出して、それを連続させてゆく。素材の選択も含めて、個性がストレートに出る技法だと思うので自分は気に入っていますね。ただ、観客として人形アニメーション・ファンかというとそうでもないですね。そんなにたくさんは観ていないです。

竹内俊太郎(以下竹内):それは同じです。ウッドペッカーは実写で撮れたら、別に実写でもいいと思ってて。でも、撮りたいセットや背景が身近にない。じゃあ作っちゃおうというのでコマ撮りをしてますね。

中田:そうそう。学生の時に実写を撮っていたんですが、セットを組もうと思ってもビルが邪魔だったり…「そのビルどけろ」って黒澤明じゃないからできないんで(笑)。一つの箱庭みたいな空間を作れば、自分が納得いくまで向き合うこともできるって考えたら、じゃあ人形でやってみようかと思ったんです。
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「電信柱エレミの恋」 dir: 中田秀人

――映像を始めるきっかけになるような昔の大御所の作品はありましたか?
中田:シュワンク・マイエルや、イジィ・バルタの短編作品とか、ラウル・セルヴェの「夜の蝶」という作品を見た時は、こういうアニメーションを作って世の中で活躍してる作家がいるという希望を与えられたというか。いわゆる劇場映画でお客さんがいっぱい入る為のわかりやすいストーリーで、ハッピーエンドで、とかそういう形じゃなくて、絵画と同じようなレベルで映像もやれるんだと知って、自分もやってみたいと思うきっかけにはなりました。

――アトリエはどのぐらいの広さなんですか?
中田:「オートマミー」を作ってた頃のアトリエは、六畳の自宅アパートで撮影しましたね。机があって、ベッドがあって、セットがあるんですよ(笑)。それ以外は何も置けないので、食事の時もセットに食器を並べて食べましたね。「エレミ」が始まってからは、もう一部屋借りて、撮影の六畳と、造形の六畳に分けて。その後に、某病院の病室に空き部屋があるって聞いて、そこで撮影を続けましたね。すごく古い病院で、夜はとにかく怖いんですよ!サイレントヒルみたいで。幽霊がカメラに映り込んだら撮り直しだから「出ないでくれ!」って祈って(笑)。

――そっちですか? 撮り直しが怖いんですね(笑)。
中田:その後、京都から兵庫県内のマンションの5階にアトリエを移転させて、完成までそこで制作しました。ロングショット撮影の時には、部屋の壁がどうしても邪魔になって、ハンマーでぶち抜きました。家主さんには内緒で。すぐバレましたけど(笑)。でも取り壊し予定の建物なので。

竹内:なんかそういうの憧れます。

中田:でも天井から水が漏れてきました。ハンマーの影響かもしれません(笑)。 お二人は今どこで作られてるんですか?

早船:埼玉の戸田ってところにある、プレハブみたいな2F建ての建物です。上と下、20平米ずつのところで、以前は事務所だったみたいです。

中田:完全に外の光は遮断できるんですか?

竹内:一応。窓に全部黒い紙を貼ってますね。ジメジメしますけど。1F撮影で、2F造形にしてます。

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「電信柱エレミの恋」 作業中の風景
――制作に一番かかりっきりの時は、1日にどれぐらい作業してるんですか?
中田:※撮影作業での最長は連続18時間でした。おっさん二人で至近距離のままほぼ動かず(笑)。
※ソバットシアターのスタッフ:松尾憲樹、細井浩和、増田成朝。撮影は中田さんと細井さんの二人。造形は3人と中田さんの4人で行う。

早船:僕らもマックスで言うとそれぐらいかも。

中田:1日の平均の作業時間はどれぐらいですか?

早船:朝10時ぐらいにアトリエに来て、夜は終電で帰る、という感じです。結構決めている方ですね。

中田:だいたい同じですね。来る時間だけ決めておいて、終わりはそれぞれきりがいいところまで。

――撮って気に入らないから撮り直しはわかるんですけど、撮ってる最中に人形の端っこが壊れて撮り直しするんですか?
中田:それどうしてますか?

竹内:そこでカット変えたりとか(笑)

中田:(笑)それが不可能な時もあるでしょ? ここまで撮ったけどもう限界だから残りは明日しよう、と思って実際できますか?

竹内:結構それやって失敗してますね(笑)。

中田:自分たちもそれやって成功したこと一回もないんですよ(笑)。例えば10秒のショットだったら撮影に12時間かかるのは間違いない。だから、前日ちょっとでも多く寝て、コンディション整えてやりますね。失敗したら肉体的にも気持ち的にも疲れ果てるんですけど、帰り道で電柱に励まされるんです(笑)。「明日がんばれ」って(笑)。電信柱が列になって自分を見送ってくれてるような気がするんですよ、失敗した日の夜道は。

――エレミたちが励ましてくれてる(笑)。造形物は頑丈に作るんですか?
中田:そうです。撮影中に壊れるぐらいだったら、造型中に10回壊れた方がいいです。途中で壊れないようにスタッフには念を押してお願いしてますね。自分が触るよりも、作った本人の方が動かすコツが分かってるので、細井に触ってもらって撮るようにしています。

――そういえば、お二方とも自主制作をされてますが、制作資金の調達はどうされているんですか?
竹内:アルバイトをしながら、ですね。

中田:専門学校講師です。コマ撮りアニメーションを教える授業と、過去の映像作品を通した表現研究の授業を担当しています。

――若い世代と接することで影響は受けますか?
中田:生徒にとって生まれて初めて自分で描いた画がアニメーションになる瞬間とか、物を動かして動画になったものを見て「うわー!動いてる!」って感動しているのを見ると、その度に自分も初心を思い出しますね。絵が動く事や、止まってるものが動いて見えるのって楽しいことなんだと。

――そういえば、中田さんはオーストラリアに留学されていたと聞いたんですけど…。
中田:五島記念文化賞美術新人賞の受賞で、1年間メルボルンで制作をしました。その間はメルボルンから日本とネットを使って連携を取りながら作業を進めたんですけど、僕もスタッフも、帰国後に何かが変わったんですよね。良い方向に。だからそれまでに出国前に撮影した約10分(約2年分)の映像を撮り直す決心をしました。

竹内:俺らだと作品1つ分になっちゃう(笑)。

中田:でも本当に泣く泣く切りましたけど。「こち亀」の両さんってすごく長く続いてるじゃないですか。1巻の両さんって、今と顔全然違いますよね。あれと同じことが一つの作品の中で起こるんです。カットによってキャラクターの出来が変わる。ある時期からそれがどうしても許せなくなった。

早船:僕たちも全編4分でも変わったりします。

――ちなみに4分間でどれぐらい制作日数がかかるんですか?
竹内:バイトしながら1年です。

中田:すごく速いと思います。

早船:シーンのつなぎのライティングは難しいですよね。うちは照明が原因で結構捨てたのありましたね。

”LANDLADY” dir: ウッドペッカー
中田:「LANDLADY」はすごいはっきりした光と影を作って撮ってましたもんね。うちのスタッフもすごいすごいって言ってました。

竹内&早船:ありがとうございます。

中田:撮影セットに複数の光をあてて、1つのカットを撮った後に、同じセットでカメラの位置だけ変えても別カットは撮れないんです。カメラを30cm動かすだけで、照明合わせるのに半日かかる時もありますよね。

――やはり簡単にはいかないんですね…「エレミ」は8年かけて完成したと聞きました。4人それぞれが8年間テンション合わせるのは難しいと思うのですが、何かご苦労とかありましたか?
中田:8年って数字を出されて感心していただくことが多いんですが、自分は全然ほめられたことではないと思ってます。8年かけて作ったのではなく、かけたくなかったのに8年かかってしまったんです。長い時間をかければ作品が腐る恐れもあります。情熱が薄れていったり、テンションがぐらついたり。それを回避するのは技術的な部分とは別の難しさがありますよね。

――なるほど。
中田:メルボルン帰国後は、1日12時間作業が基本になりましたね。今日ご飯食べるかどうか悩まないのと同じで、それが当たり前の日常のような感じでした。 狭い空間に長時間一緒に過ごしても険悪にならない術を、4人ともが身につけていったんでしょうね。細井と二人で毎日12時間撮影ってなったら、もうそれまで生きてきた話とか全部聞き尽くしたし、話すことなんかなくなる(笑)。だから同じ話をわざと聞きたがるんです。「そういえばあの時のあれなんだっけ?」って、落語のネタみたいに。「お前それもう7回も聞いたやんけ!」って(笑)。

――「オートマミー」の頃からですもんね。
中田:こういうチームのスタッフって、技術じゃなくて資質や相性が大事なんでしょうね。例えば細井なんかは、まったく美術系の人間じゃなかったんですよ。学校でも美術の時間になると頭が痛くなるくらい嫌いだったらしいんですけど、何故か精華大学の人文学部に入ってきた。当時、自分の映像作品の制作に人手が足りなくて、誰かいないかって友達に聞いたら、細井を連れて来たんです。で、その作業中に「明日は暇?」「はい」「明日も手伝ってくれへん?」「はい」。それで今日までずっとです(笑)。

”FORESTRY” dir: ウッドペッカー
――制作している4人の意見が衝突した時はどうしてるんですか?
中田:ウッドペッカーさんはどうしてますか?

竹内:一回自分たちのやりたいことを紙に描いて、これはアリかナシか話し合う。

中田:二人ともがデザインされるんですか?

竹内:キャラクターは僕で、作るのは一緒です。

中田:うちは、造型スタッフの3人が造形に徹してくれていて、そこ以外は自分が決めます。「こうしたい」って僕が言ったことに対して3人がどうしたらできるのかを一緒に考えてくれる。映像の世界観や演出の部分を信用して任せてくれてるので、意見が別れたりすることもなく進んでいる。逆に映画好きが4人集まっていたら続けるのは難しかったと思いますね。

――自分が一番こだわることって何ですか?
中田:自分たちにとっての価値を絶対見失わないことですね。何の為にこんなことをしてるのか分からなくなると続かない。そこを見失わないようにすることが、作品のクオリティにつながったと思います。それがこだわりかもしれないです。手作業の価値を見失わないこと。

竹内:ずっしりくる言葉ですね。

中田:コンピュータがまた進歩して、3DCGで手作り感のある人形アニメーション映像が出来たとしても、この価値は変わらないんです。なぜなら、手で触れて撮る実物があるわけですから。そこはすごく大きな違いなんです。それこそ子供の頃買ってもらったプラモデルを戦わせるような、純粋なところまで掘り下げていったらそういうことだと思うんです。あの頃のわくわく感とか、女の子が人形を並べていく時の楽しさとか、ああいうのって画面の中だけとは違う何かがあると思うんですよね。こんなのコンピュータで作っても一緒やんけって思ってたらとてもじゃないけどやれなくなっちゃう。

――「エレミ」の中で合成箇所は一カ所もないんですか?
中田:ありますよ(笑)。コンピュータ技術を否定するわけじゃなくて、合成する事でイメージに近くなればどんどん使うべきだと思います。ただ、楽だからという理由で映像を合成する事はありませんでした。むしろ合成する方が手間がかかって面倒な場合の方が多かったです。煙のシーンなんかも、手描きで描いた煙の絵を1枚ずつスキャンして、撮影したカットに合わせて合成していきました。色々試して、雰囲気に一番合う手段を選択するのがいいと思いますね。

・櫻田千枝子(SAKURA堂)/取材&文

■プロフィール
中田秀人:映像制作チーム「ソバットシアター」を率いる映像作家。パペットアニメーション制作と平行し立体造形物の展示を行うなど、様々な角度からアプローチするアニメーション作品を目指す。2000年には短編アニメーション「オートマミー」で国内外の映画祭において数々の賞を獲得。ニューヨーク国際短編映画祭、釜山アジア短編映画祭等に参加し、 2002年京都芸術文化特別奨励者に選ばれる。翌年に五島記念文化賞美術新人賞を受賞。

Woodpecker:竹内俊太郎と早船将人によるフィルムメーカーユニット。独特のビジュアルセンスで海外からの注目が集まる。東京ネットムービーフェスティバル2008ではコマ撮りアニメ「LANDLADY」が東京ウォーカー賞を受賞。コマ撮りアニメ「FORESTRY」が、アメリカのLe:60 Film FestにてBEST ANIMA-TIONを受賞した他、SLAMDANCE FILM FESTIVALにてアニメーションブロックからノミネート上映された。
■「電信柱エレミの恋」
・7月10日(金) - 20日(月・祝)のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2009で、「エレミの恋」の上映決定!(短編コンペティション部門)

■「電信柱エレミの恋」 FILM & EXHIBITION(京都)
展示:2009年7月15日(水) - 17日(金) アートフォーラムJARFO
上映:2009年7月16日(木)、17日(金)京都市国際交流会館 イベントホール
5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
中田:不思議体験
竹内:超人ハルク
早船:友人

Question 2: この職に就いたきっかけは?
中田:自然と。少しずつ。
竹内:絵を描くのが好きで
早船:出来た時の達成感

Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
中田:ヤング・マスター
竹内:特攻野郎 Aチーム
早船:キリクと魔女


Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
中田:えんぴつ、紙、お茶
竹内:ペン、紙、パソコン
早船:水、紙、ペン

Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
中田:マンゴーの種の平べったさ。
竹内:運動
早船:天気
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