独自の映画道を貫く三木聡監督、最新作「インスタント沼」について語る
2009.05.08.Fri
Category : Features / Interview
, Movie of Month
映画「インスタント沼」あらすじ:意地の重さで底なし沼に沈みつつあるジリ貧OLハナメ。 沼から抜け出すべく、出生の秘密を探る旅に出た! 彼女が見つけた、ささやかな日常が劇的に楽しく変化する秘密や、伝説の宝物とは?
「インスタント沼」公式サイト
最新作「インスタント沼」は、思わず吹き出す小ネタも、ファニーな世界観もますますパワーアップして、豪華キャストの味のある演技も見どころ。
そして、三木監督オリジナルの脚本はまたしても予測不能の展開。その脚本の価値を増幅させた、映画制作技法を紹介します。 (注・若干ネタバレを含みますのでご注意下さい)
■三木聡監督、二度目の登場!
三木聡(ミキサトシ)/映画監督:1961年神奈川県出身。「トリビアの泉」などの構成の他、シティボーイズライブの脚本・演出等も手掛ける。「時効警察シリーズ」でテレビドラマの演出も。映画は前作「転々」に続き本作で7作目。「北半球で一番くだらない番組」(2001年フジテレビ)内の「
日光テレフォンショッピング」のネタをきっかけに本作ができたという。
三木聡監督(以下敬称略):その節はありがとうございました。
――こちらこそありがとうございました!(※今回で2回目のインタビューとなる。映画「転々」でのインタビューは
こちら 。)
早速ですが、本作はオリジナルの脚本と言うことですが、これまでにも増して素晴らしい完成度だなと感動いたしました。本作では"家族"だったり"ジリ貧のOLが成長する"という明確なメッセージが高らかに宣言されていますが、こうしたメッセージをわかりやすく伝えるというのはこれまでになかったと思います。監督の中で何か心境の変化などがあったのでしょうか?
心境の変化というのは特にないですけど(笑)…前もお話したように脚本をつなぐ一本の線を探す時に、最後主人公がアジテートするっていうのが浮かんだんです。最近の映画で、最後に主人公がアジテートするのってないじゃないですか? 当初、あるスゴイものを見て終わってたんですけど、なんかパズルのピースが一個はまらない気がしてて。そしたら、ちょっと観客に対してアジテートして終わるのは面白いんじゃないかなって…。やっと、最後のパズルのピースがはまった感じでしたね。なぜそういう風に思ったかはわからないんですけど。最後に"アジテートする"ことが、結果的にメッセージを言ってるように見える(笑)。メッセージを伝えるという意図よりは、人に向かって何かを叫んだりすることの面白味というのが最後はまってきて、結果それがテーマのあるかのごとく皆さんがつなげて下さっている。映画が、あらかじめ設定されたテーマを伝えるためのメディアかどうかということは、まだ疑問があるわけじゃないですか。"創り手が提示したものに対して別の解釈が加えられる自由度があること"が、映画の持っている面白味だと僕は思うんですね。だから僕の映画には"テーマがない"ってよく言われちゃうんですけど(笑)。言い訳してるみたいですね(笑)。
――いえいえ!観るすべての人が均一な解釈していたら、むしろ怖いと思います。「転々」のインタビューの時に三木監督がおっしゃっていた「脚本がジャンプ」した瞬間というのは、まさに…?
最後にきてジャンプせざるを得なかったというか(笑)。今回、割とジャンプする材料がなかったんです。物語としては、ある人物があるところに行ってある体験をして、帰ってきた時に別の経験値が増えてるという成長譚。"沼"とか"伝説"とかの言葉のイメージが影響して、民間伝承とか民話の基本構造が物語のベースになっていったんです。それだけでは、自分の中でジャンプするところがなかったのが、最後に「その結果を言う」みたいなことが面白いんじゃないか…。そこに僕自身はジャンプしたんですよね。「
亀は意外と速く泳ぐ」のときは主人公の名前、「転々」のときは死体を見せないというのがジャンプのきっかけになっていて、今回は最後にそのジャンプがきたんですね。それで自分で納得がいける脚本になりました。
c 2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ
――なるほど!ちなみに「深夜に及ぶ打ち合わせで脚本が完成した」と伺ったのですが、脚本は何人かで書かれたのでしょうか?打ち合わせというのはどういったものなのでしょうか?
まずは、全部を自分一人で書きます。この時点でストーリー、台詞、小ネタや映像的な演出方法、これら物語の全要素は脚本の形になっています。その脚本を台本の形に一度印刷します。その後で全体の構成の確認みたいなところを打ち合わせしてたんですね。二稿の時点でも長いからどこか切らないといけなくて、箱書きって言って、シーンナンバーとそのシーンの主要な出来事を小さなメモに書いて壁に貼りつけます。そして、これはいらないんじゃないか、これはここに入れた方が面白いんじゃないかって、調整をしていくんです。そもそもこの脚本自体が200P位、通常の2時間映画でだいたい120~30ページ位ですから、長いんですよ(笑)。一稿から二稿、二稿から三稿の間に、「脚本上の編集」をするんです。AからBにお話が行くのにCを通らなきゃいけないとは限らないわけですよね。Dを通った方がシンプルに伝わることもあるし、Aから直接Cに行った方がいいこともある。映像で多めの素材を撮って編集していくのと同じ
で、多めの脚本の中を編集していくような感覚、主にブラッシュアップの作業です。そういうプロセスをプロデューサー、アシスタントプロデューサ-、助監督たちと共有して進めて行くんです。最終的にキャストが決まった時点で、キャストに合わせてのセリフの変更を行います。これもスタッフルームでやりました。だんだんおっさんになって、家で一人でやってるとすぐ寝ちゃうんで。ラストシーンに関しては、これらの作業の後に思いついて、撮影の1ヶ月前に家のパソコンでざーっと書いてプロデューサーにメールで送りつけました。終わり方はこれしかないって(笑)。
――最初に書いたものを一度冷静になって組み立て直すことで、予測不可能な脚本ができるんですね。次は撮影について伺います。「転々」の時は深度浅めのボケを狙った撮影方針でしたが、本作ではどういう撮影方針だったのでしょうか?
本作は
シネアルタってカメラで、単玉を使いました。いわゆるズームレンズじゃなくて、50ミリとか28ミリ。本作は、テレビ番組でよく使うような、主人公の顔にズームインしたりズームアウトしたりって画はないはずなんですよ。テレビ番組とかズームレンズはよく使うわけですね、便利だしズームレンズのよい特性もありますから。ただ今回は使わないでいこうと、木村信也さん(カメラマン)※と決めたんです。なぜかというと、ズームより単玉の方が画がきれいなんです。ズームレンズは、望遠からワイドまで同じレンズでやるわけですからどうしても無理があるんですね。単玉ですとレンズの設計上きれいな画が撮れるんです。何をもってして"きれい"と言うかは別としても、レンズの機能に無理がない。その映像で、しっかり捕まえていこうと。冒頭の8ミリで撮影したところはズームレンズを使っていますが、冒頭以外では、※※トラック・インやトラック・バックを使ってます。それが一番特徴的かもしれないですね。こういうのは、意外と最近少ないんですよね。珍しいパターンだと思います。
※撮影の木村信也氏とは今回が初タッグとなる。
※※ドリーと言われる機材にカメラを固定し、レール上をドリーが移動することで被写体に寄ったり引いたりすること。トラック・アップともよばれる。ちなみにズームインは、レンズを調整すること(カメラは固定)で被写体に寄ったり引いたりすること。
――では編集についてです。編集は監督のすべての作品を手掛ける高橋信之氏が今回も担当しています。今回の編集は、短いカットをつないだ怒涛のイントロ部分や、積み上げられた段ボールが崩れながらワイプになってシーン転換したり、グーグルアースのような地図から実写になるといった、遊び心に溢れた編集が目立ちましたね。
冒頭のイントロは短いカットを重ねていくというのは最初から目標にしていました。80年代とか90年代のプロモーションビデオとかで使われた短いカットを積み重ねて説明するような、自主映画でも結構あったと思うんですけど…そういうものをヒントにして、高橋さんの編集を中心にカットを重ねていきました。ワイプに関して言うと、映画的な遊びというか、「亀は意外と速く泳ぐ」でもやってるんですけど、ぐるぐる回りながら暗転して次のシーンにいくとか。割と70年代の映画に多かったですよね。「ピンクパンサー」とかタランティーノ映画や「オースティン・パワーズ」でも多用している、昔の原始的なワイプですよね。もっと言えばアニメで主人公の狐が小さくなっていく黒丸の中にいて、手で丸をひろげて狐が出てくるみたいな表現(笑)。そういう要素は入れようと高橋さんのアイデアでなりました。
――最近は映画でそういう編集を見ることが珍しい気がしました。結果新鮮でしたね。
編集的なことで言うと一番のポイントは、実は最初のハナメとハナメのお母さんがリビングで河童がどうとか話している所なんですよ。現場の演出と、美術部のセットと、撮影部の撮影と、編集部の編集のタイミングという、各セクション同士が思慮を深めて撮ったところでしたね。
――そうだったんですか!
あのシーンは、台所のすべての角度からの画がある。その中でカメラをどこに配置して、ハナメが座るくだりの演出をスムーズに見せて、最後の河童のいる庭の画につなげるか。編集では、最後お母さんが去った後、うさぎをどういう風に発見して、画がひくタイミングをどのアクションと合わせるのか、というプランが一番上手くいったところでもあるし、大変だったところなんです。
――そこまで丁寧にそのシーンを作られた理由はなんですか?
冒頭のシーンというのがまずありますね。あと、あそこでハナメと母親の関係を観客にスムーズに見せたい。しかもキャラクターや関係性の自由度が高そうに見せなきゃいけないというのはありました。あそこでぎくしゃくしちゃうと段取りっぽくなるじゃないですか。お母さんの声の良さっていうのは松坂(慶子)さんをキャスティングする上で重要なファクターだったんですね。カラカラっと気持ちよく抜けるテンションの声を活かすためには、あそこの演出がぎくしゃくしたり、単調になると自由度が感じられない。部屋の色んな面を見せながら、お母さんを移動させることで、"自由度"や"いい加減さ"が出るわけです。一方、ハナメは座ってることが多くて、どっちかっていうと"静"のイメージになる。お母さんが動いて、娘が固定する。お母さんが「テレビ観なさいよ」っていうタイミングではハナメは台所にスプーンを取りに行ってハナメがいないことで、お母さんの目にテレビの画面が直接入るっていう配置なんですよね。
――全く自然に観てました! 大変だったというのは全く伝わりませんでした。
お客さんにそれを感じられたら終わりというか(笑)。アメリカの監督さんとかは、配置がうまいですよね。ウッディ・アレンとかアラン・パーカーとか。アラン・パーカーの「
ミシシッピー・バーニング
」っていう映画では、フランシス・マクドーマンドが南部の冴えない奥さん役で、そこに刑事のジーン・ハックマンが訪ねて来るシーンが印象的です。そのシーンでは、カメラは固定でカットを割らず、「この街出て行かないの?」とジーン・ハックマンが言ってフレームアウトし、マクドーマンドの傷ついた表情が残る。「この街出て行かないの?」の台詞で、カットが変わってマクドーマンドにズームインじゃないんですよね。アメリカ人は割と配置演出がうまいと思います。なんかそういう本もありますよね配置演出の。
――本ですか、勉強します!(参考書籍:「
映画監督術〈2〉cinematic motion
」)
登場人物をどういう配置にするかは、演出上の一つのポイントにはなるなあ、と。本作では部屋とか空間が多かったせいもあると思いますね。カメラワークだけではなくて、芝居を中心にして配置してるんです。
例えば座る距離感ってあるじゃないですか、ちょっと客観的になる位置関係とか。芝居でそういう距離をどうとるのかはありますよね。会議とかでも、だいたい同じ席に座るじゃないですか。どうも気持ち悪いなと思ったらいつものメンバーなのに席が入れ替わってたりとか(笑)。そういう距離感が、お芝居や心情にかかわってくると考えています。
c 2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ :演出、美術、撮影、編集と全方位で特に力を入れた冒頭のシーン。
――鳥も同じ間隔で電線にとまるらしいですね。動物それぞれに心地よい距離感があるらしいです。人間の感情も無意識的に距離感に表れるでしょうし、芝居における配置は確かに重要ですね。では、美術について伺いたいのですが、本作はまさに美術の磯見俊裕さんの本領発揮といった感じで、凄まじい迫力でした!電球商会はもちろんですが、他に注目すべきところは?
そうですね、電球商会は凄いです。あと、やはり、冒頭のハナメとお母さんがいたリビング。ここは美術部も悪戦苦闘しましたね。一度全部作ったんだけど総取っ替えしたんです「やっぱやめます」って言って(笑)。
――それは何が違ったんですか?
リビングの色に黒の配置がなかったんですよ。割とかわいいイメージに作ってて、
"なんとなく漠然としてるね"って美術部と話してたんです。何かキーになる色というか強さが欲しい…部屋に黒を配置することに気づいて活路が見いだせたんです。
――黒、ですか。
黒の使い方で面白くなるなって。グリーンをベースに使ってたんですけど、しまるものがないって話してて、部屋の壁に黒基調の絵を飾ったり、黒を配置していったんですね。それによってイメージが拡がっていった感じがありました。それまでは結構、美術部もどうするかって悩んでましたね。黒を部屋に使える自由さやセンスの良さがお母さんに欲しかったということなんでしょうね、お母さんのキャラクター性も含めて。
――配置と同様、美術もキャラクターを表現する大切なファクターなんですね。
あとは電球商会の物量ですよね。関東近郊から、京都の方から、全国からいろんな美術品を集めてきて、結構大変でしたね。最初の頃、撮影してると近所の人が「何してんの」って聞いてきて、1カ月近くしたら家にある黄金の火縄銃を「家宝だ」って言って持ってくるんですよ(笑)。そんなもん飾ってもね、撮影で傷つけたら大変じゃないですか。
――家宝ですもんね(笑)。
あと、釘ですね。"いい感じに曲がってる釘"は、釘3,000本の中からオーディションして、ベストの釘を選びました!京都の撮影所のスタッフが拾って、「インスタント沼」用の箱に入れてくれたんですよ。段ボール1箱まとめて送ってきて、もしかしたら
溝口健二監督の映画の由緒あるセットの釘かもしれないんですよ! わかんないですけど(笑)。いい感じに錆びてて、いい感じに曲がってる。なかなかないんですよ、錆が足りなかったり、錆びすぎてて釘かどうかわかんないとか。曲がり方が複雑すぎて味わいがないとか…そんなくだらないことをやってましたね(笑)。
――突き詰めて選ばれた釘だと思うと、改めて価値が伝わってきます。次に、VFXについてです。大掛かりにCGを使われるのは初めてかと思うんですが、CGと生身の役者の掛け合いコントのようになっていて、すごく新鮮でした!
難しいんですよね、あれ。ハリウッドみたいに、一回実写を撮って、合成のCG作って、その後もう一回芝居を撮りなおすっていう余裕があればいいんですけど。かたや架空の空間(CG)かたや実存する空間(実写)をどうつなぐのか…そこで、風だったり携帯だったりを使ったんですよね。
c 2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ
――先に実写でお芝居をとって、CGを作って合成してフィニッシュですか?
そうです。携帯のはめこみ画面とかはCGじゃなくて、おもちゃをテグスで吊るしてるんです(笑)。今回CGはアイデンティファイの松木さん※と仕事をしたんですが、やっぱり日本で第一人者なんでね、すごいクオリティでしたよね。最後に、「あるスゴイもの」の影を実写に落としてマッチングしていって。僕自身こんな大掛かりに使うのが初めてだったんですが、先ほども言った空間の共有みたいなものが、大切なんだって改めて思いましたね。
※VFXスーパーバイザーの松木靖明氏。
アイデンティファイCEO。アイデンティファイは、2005年ジャパン・スノー・プロジェクトのCM「
スキーキャンペーン」のCGも手掛けるCGカンパニー。
――いや、ほんとすごく良かったです! 作品のどこをとっても。ありがとうございました!!
民間伝承をベースにした成長譚。そんな物語の主人公に今時感溢れるOLを持ってくるところが三木監督ならでは。そして脚本の書き方が、漫画家さんと編集のやりとりに近いと感じました。やはり、面白いストーリーは一人っきりではなく、共犯がいるから生まれるのでしょうか。脚本の面白さ、カオスのようで計算された美術、複数回観て楽しめる濃い作品です。これほど濃い作品なのに、観終わった後は、肩ひじ張っていた力(意地の重さ?)がすっきり抜けちゃいますよ。
5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
ヒッピー
Question 2: この職に就いたきっかけは?
友人のつきあい
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
ストレート・トゥ・ヘル
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
パソコン、マンガ本、半魚人さん(半魚人のフィギュアにセータを着せたもの)
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
絵の歴史
■期間限定ショップ「インスタント沼」商会も!
映画「インスタント沼」と東京・目黒通りのインテリアショップスコミュニティMISCがコラボレーション!映画「インスタント沼」の世界観を再現した「インスタント沼」商会が目黒通りに期間限定オープンする。場所は映画撮影にも使用された「Brunch vintage」。期間中は、写真パネルや映画の小道具の展示のほか、抽選で1点ものグッズのプレゼントもある。全長180cmのツタンカーメンも現れる!?果たして、その正体は!?
期間:2009年4月29日(水) - 5月31日(日)
場所:Brunch Vintage
住所:東京都目黒区目黒4-11-1
■映画「インスタント沼」
2009年5月23日(土)テアトル新宿、渋谷HUMAXシネマほか全国ロードショー
監督・脚本:三木聡
キャスト:麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子ほか
配給:角川映画、アンプラグド
・櫻田千枝子(SAKURA堂)/取材&文
CGWORLD編集部を経て現フリー。自分好みの素敵オモロ映像を日々探索。好きなものは、南の島、代々木公園、のんのんばあ、フォルティ・タワーズなど。