Appleのデザインにも多大な影響を与えたプロダクト・デザイナー、ディーター・ラムスに迫る
2009.05.27.Wed
Category : WS Pickup
TP1ポータブルラジオ・レコードプレーヤー 1959年 ブラウン社 Photo: BRAUN GmbH
ドイツの工業デザイナー、Dieter Rams(ディーター・ラムス)をご存知だろうか?彼は、ドイツの家電メーカーBRAUN(ブラウン社)に所属し、500点以上の革新的なプロダクツ・デザインを手がけた人物。ブラウンといえば日本では電気シェーバーメーカーのようなイメージを持つ人も多いが、実はアップルのようにデザイン主導型の企業なのである。ラムスは1955年から1995年までブラウンのデザイン部門に在籍してデザインチームを率い、"Less but better"をスローガンに、機能と美の融合した家電製品を生み出した。
中でも現代のデザイナーで彼の影響を色濃く受けているのが、アップルでiMacやiPodのデザインを手がけたデザイナー、Jonathan Ive(ジョナサン・アイヴ)。iPodとポケットラジオ「T3」、G5とラジオ「T1000」などは、類似点が指摘されるほど。他にもジャスパー・モリソン、セバスチャン・コンラン、日本でも無印良品、深澤直人など、現代で活躍するプロダクツ・デザイナーたちがラムス氏の影響を公言している。ここに、彼が掲げる良いデザインのテーゼ「デザイン10か条」を紹介しよう。
・良いデザインの10か条
1.革新的であること
2.実用的であること
3.美的で感性的であること
4.製品の理解を助けること
5.謙虚であること
6.誠実であること
7.長持ちすること
8.細部にいたるまで一貫していること
9.環境に配慮していること
10.出来る限り抑えられたデザインであること
この10か条に加え、最後は「純粋さに戻れ、単純さに帰れ!」と締めくくられる。そうして世界中のデザイン界に大きな影響を与えたラムス氏が、東京・府中市美術館にてエキシビジョン「純粋なる形象 ディーター・ラムスの時代―機能主義デザイン再考」を開催。本展は2008年に大阪のサントリーミュージアム天保山にて開催された同名エキシビジョンの巡回展。日本初公開のスケッチ、プロトタイプ、モックアップなどを含めた300点以上を一挙に展示している。今回来日したラムス氏に、彼の作品について聞いた。
■ディーター・ラムスが語る「一番思い入れのある製品」とは?
一番思い入れのある製品は、ブラウンにて彼が最初に手がけた製品「SK4/SK5ラジオ・レコードプレーヤー」だという。今見ても洗練されたフォルムが美しいこの製品は、レコードプレーヤーのカバーを透明なフレキシガラスを使うという革新的なデザインで世界を驚かせた。それまで隠されていたプレーヤーや操作ユニットといったパーツ部門をデザインし、外に見せたのだ。革新的なフォルムは、ライバル企業に「白雪姫の柩」と皮肉られた。
「何でもそうですが、一番初めに手がけた作品は重要です。ニックネームがつく製品なんて、そんなにありませんからね。あれは革新でした。でも、自分でもどうして新しい素材だったフレキシガラスを使うアイデアが降りてきたかはわからないんです。フレキシガラスには、デザイン性のほかにも実用的な良さもあります。当時のプレーヤーは構造的にしっかりしていなくて、音楽をかけると動いたりしていました。それがあの素材を使うことによって安定したのです。当時はまさかこの形がレコードプレーヤーのスタンダードになるとは思っていませんでしたね」
SK4/SK5ラジオ・レコードプレーヤー(白雪姫の柩) 1956/58年 ブラウン社 Photo: BRAUN GmbH
」
技術が進化し、経済が豊かになった現代の状況をラムス氏に聞いてみた。
「昔は会社の数も少なかったけれど、現在はデザイン・プロダクツの質においてはよりひどくなっていると感じることがあります。それは、製品を作る会社がデザインの重要さを真剣に受け止めていないからです。美しいものを作るためには、グラフィック・デザインにしても、建築にしても、統一性を持たせなければなりません。良いものがあれば、人間の生活はより良くなります。日本の町並みはかなり混乱しているように見受けられますが、本来日本には手工業の製品や日本庭園など、素晴らしいデザインを持っていたはず。教育は、若い年齢の頃から始めたほうが効果的です。将来のために、人間がまともに暮らせる世界を次の世代のために作ってあげなくては」と語る。
ラムス氏のデザインのキーワードになった言葉「リヒテン」には、制御する、秩序立てる、混乱した状態を取り戻す、解明する、明るくするということのほかに、シンプルにする、それから推し進めるという意味もある。ラムス氏は、「世の中の複雑なものはシンプルになるべきである」と前置きし、本当に良いデザインとは何かを考える時に、インスピレーションを与えてくれる言葉を語った。それがこの13個の言葉たちだ。
1.簡単なことは複雑より素晴らしい。
2.秩序立っている状態はそうでないものより素晴らしい。
3.静かな声のほうがうるさい声より素晴らしい。
4.目立たないことのほうが目立つことより素晴らしい。
5.小さいものは大きいものよりいい。
6.色が無いことは、色がありすぎるよりもいい。
7.軽いほうが重いよりいい。
8.繊細なほうが粗雑なものよりもいい。
9.バランスの取れた状態のほうが極端な状態よりいい。
10.持続性のほうが変化することよりもいい。
11.簡潔なほうが複雑な状態より素晴らしい。
12.ニュートラルなほうが攻撃性のある状態よりいい。
13.近くにあるほうが近くにないものよりもいい。
■ブラウンの一時代を築いた「ブラウンチーム」
本展では、ラムス氏とともに、同時代にブラウンで活躍したデザイナーたち「ブラウンチーム」の作品も展示されている。ミキサー「M1」やシェーバーのデザインを手がけたゲルド・アルフレード・ミュラー、金属性の底部をプラスチックのボディに取り付けたアイロンを考案したラインホルト・ヴァイスら。ラムスは「ブラウンにおけるデザインの業績はチームの業績」だと言う。デザイナー、技術者など異なるジャンルのスペシャリストが力を合わせる工業デザインにおいて、ラムスは技術や販売といった他部門とも連携し、集団のデザイン・プロセスの構築にも成功したのである。彼らが創り上げたデザインをぜひその目で確かめてみよう。
■「純粋なる形象 ディーター・ラムスの時代
―機能主義デザイン再考」
日程:2009年5月23日(土) - 7月20日(月)
時間:10:00 - 17:00 (入場は16:30まで)
入場料:一般800円、高校生・大学生400円、小学生・中学生200円
会場:府中市美術館
〒183-0001 東京都府中市浅間町1丁目3番地(都立府中の森公園内)
問合せ:電話:042-336-3371(代表)