ハイブリッドな感性が導く、新世代の力強いものづくり。デザインエンジニアリングファームtakram
2009.04.01.Wed
Category : Features / Interview
takram(タクラム:デザイン・エンジニアリング・ファーム。デザインとエンジニアリングの二つの視点を活かした多角的なアプローチを特徴とする新世代のデザイン開発会社。インタラクティブなアート作品からソフトウェア、ハードウェアまで幅広い製品を手掛ける。2007年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot award: product design 2009など受賞多数。
Created for "water" exhibition at 21_21 DESIGN SIGHT, Tokyo 2007-2008 © water project 写真:望月孝
東京を拠点に活動するデザイン集団、takram(タクラム)。"デザイン・エンジニアリング・ファーム"と名乗る彼らは、デザインとエンジニアリング、二つのジャンルをハイブリッドに融合した稀有な活動で注目される気鋭のアーティストたち。その活動は光で描くプレゼンツール「Afterglow」から建築家・伊東豊雄とのコラボレーション・アートまでと幅広く、どれも高いデザイン性と技術を兼ね備えている。果たしてその活動の核にあるものは?東京の、新宿御苑に面した眺めのいいビルにあるtakramオフィスにて、代表の田川欣哉氏に話を聞いた。
■デザインとエンジニアリングの幸福な融合
田川欣哉氏:1999年東京大学卒業。2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2005年までLeading Edge Designに在籍。日本語入力機器「tagtype」やレーザードローイングツール「Afterglow」の開発を手がけた。経済産業省「天才プログラマ」認定。 写真:太田拓実
――まず、"デザイン・エンジニアリング・ファーム"って一体どういう事をするんでしょうか?
デザイン・エンジニアリング・ファームは、デザインとエンジニアリングの両方をやるということです。takramでは機械工学やソフトウェア工学などを工学部で勉強したメンバーが中心になって、デザイン領域の仕事に携わっています。一般のプロダクトデザインの現場だと、美大を出て就職し、インハウスのデザイナーになるケースが多いのではないかと思います。そのような組織ではデザインをデザイナーが、設計をエンジニアが行う分業制になります。そうすると業界用語やバックグラウンドの違いが溝になって、もの創りが思うように進まなくなるケースが多々あるんです。
もともとデザイナーもエンジニアも、いいものが作りたい、という同じ目標を持っているはずです。その"もの創りがしたい"という原点に立ち戻って、二つが幸せに調和している状態を実現できないかというのがtakram設立の動機です。
――具体的には、どのように融合させるのでしょうか?
デザインとエンジニアリングという軸に直交して、ハードウェアとソフトウェアという軸をかけ合わせると合計4つのマスができますが、僕らは一人一人がその4つのマスを埋めるスキルを持つ人間になりたいと思ってるんです。Flashなどの登場によって、ソフトウェアのデザインとエンジニアリングの融合は比較的やりやすいものになってきています。しかし、プログラマが機構設計をきちんと理解しているというような、ハードとソフトの両方をカバーすることはいまだに難しい状態が続いています。人間誰でも難しいことは避けてしまうんですが(笑)、億劫がらずに苦手な分野も勉強していくように努力しています。
■プロトタイプで時の洗礼を起こせ
Created for "water" exhibition at 21_21 DESIGN SIGHT, Tokyo 2007-2008 © water project 写真:望月孝
その4マスのスキルを現実社会で活かす具体的な活動が、とにかく試作を繰り返す"プロトタイピング"です。いままでのプロダクトの世界では、半年から1年の商品サイクルに合わせ製品を作り、出荷したものに寄せられるクレームを次期バージョンにフィードバックする、というやり方が一般的でした。
でも現実には1年のうちに技術が進歩し、設計の前提が違ってきてしまうから、1年前の失敗を生かすことが難しい。つまり、失敗がなかなか蓄積しないんです。だから同じような失敗が続けて起こる。例えばフォークだと、現在の4股に辿り着くまで百年以上かかっています。多くの失敗と改善の繰り返し、いわゆる"時の洗礼"を受けて、成熟した使い勝手が確立されていくわけです。一方、ハイテク製品の場合は、改善の積み上げがきかず、"時の洗礼"が起こりにくい。端的に言えば、プロトタイピングは、ハイテク製品についても、この"時の洗礼"を擬似的に起こしてしまうためのアプローチだと考えています。
――"時の洗礼"はどのくらいの期間で起こすのでしょうか。
プロトタイプでは、製品レベルのデザインと機能が備わった試作を作ります。それを実際に使用してもらったフィードバックを反映した改良版を1週間で作り、また反応を見て…というサイクルを繰り返していく。そうすると、そもそも企画段階で間違っているものや、基礎的な使いにくさを払拭したものを市場に出すことができます。プロトタイプを700回制作したこともあります。プロダクトが企画から世に出るまでには通常2年ほどかかりますから。
――大きな労力がかかりそうですが…
実際の製品を数万単位の数で量産することに比べたら微々たるものだと思います。プロトタイピングは、小さい規模でたくさん失敗しておく、予防注射のようなものですね。製作するプロトタイプはデザインと機能性において製品レベルのクオリティが備わっていなければならないし、開発のスピードが命なので、デザインとエンジニアリングの知識を両方持っている人の存在は重要です。知識があれば、それがデザインの問題なのか、技術の問題なのかを判断して、最短コースを模索することがやりやすくなります。
(写真左)iウィジェット® (写真右 )iコンシェル® 。takramがユーザーインタフェースの仕様からデザイン全体のディレクションを、WOWがビジュアルデザインを手がけた。© NTT DOCOMO, Inc
■3分の1をアート活動に費やす
「ミラノサローネ」にて、市内の図書館に展示する「Overture」イメージ画像
――takramでは、アート活動も活発に行っていますね。
takramの活動の3分の1が、アートやインスタレーションなどのプロジェクトです。クライアントワークとは全く違うアウトプットですが、僕らの中では考え方やものづくりのプロセスはほとんど同じで、出口が違うだけだと捉えています。クライアントワークの場合には問題設定や目的意識がクライアントの側にありますが、アート制作の場合はこれらが自分の側にあるので、何を考えるべきか、考える内容にしても自分たちが気になっていることに正面から取り組めるんです。アート・プロジェクトでも、プロトタイプをものすごくたくさん作って、試作の先に展示があるというプロセスの部分は同じなんです。
――アート活動で得るものは?
アートで考えたことや得たスキルが蒸留されて、クライアントワークに役立つことがあります。もう1つ、展覧会を通して、いろんな人と出会うことができます。僕らのいま関心のあることの周辺にいる人々に直接アプローチすることができるんです。だから、自分たちの方向性を開拓していくためにも、アート的な活動は継続していきたいと思っています。
――海外での作品発表も行っているのでしょうか。
2009年4月にミラノサローネにて開催される(株)東芝の新照明システム事業ブランドのコンセプト展示「Overture」にて、プロダクトおよびインタラクションデザインを担当します。アーチ型の鏡を張り巡らせた空間に、人が近づくと反応する電球を模したオブジェを吊り下げます。その中に、ヒミツのしかけがたくさん隠してあります(笑)。
■大学3年でプロダクトデザインを知った
Created for "water" exhibition at 21_21 DESIGN SIGHT, Tokyo 2007-2008 © water project 写真:望月孝
――そもそも田川さんがデザインの道に入られたきっかけは?
僕はずっと自分がエンジニアになるものだと思ってました。だって大学3年まで、プロダクトをデザインするデザイナーがいるって事も知らなかったんですから!その概念を知ったときはショックでした。それで、大学で授業を持っていた山中(山中俊治氏)さんのところに押しかけて、彼の事務所であるLEADING EDGE DESIGNでバイトをしているうちに、デザインというのは面白いぞと思い始めました。
――デザインは最初から出来たんですか?
概念を知らなかったくらいだから無理ですよ(笑)。それで結局、もう一回、学校に行くことにしました。デザインができなくてもデザインを教えてくれる学校を探したら、2つだけあったんです。それがロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)とカリフォルニアのスタンフォード大学。工学部の学士号を条件にするデザイン学科があったので、大学卒業後、僕がRCAに、共同設立者の畑中はスタンフォードに進みました。RCAはアート寄り、スタンフォードはエンジニア寄り、イギリスとアメリカで文化の違いもありましたね。
――文化の違いとは?
ヨーロッパにはデザインもエンジニアリングもわかるハイブリッド・タイプが結構いるんですが、アメリカではどちらかというとチームワークが好まれます。すごく腕のいいデザイナー、エンジニア、マーケッターなどのスペシャリストが集まって小さなチームを作る、チームワーク重視の会社が結構あります。僕らは日本人なので、欧と米のやり方を合わせたオリジナルなやり方ができないかと考えたのがtakramの始まりなんです。
――海外で会社を作る選択肢もあったんですか?
シリコンバレーで会社を作るか東京で作るか悩んだんですよ。ソフトウェアでビジネスをするのであればシリコンバレーだと思いますが、ハードウェアを作るのであれば日本、アジアの技術力は優秀です。日本の町工場のレベルの高さは世界で一番だと思います。インスタレーションでも、部品レベルでは町工場のおっちゃんたちの力を結集しているんですよ。日本には優秀な職人さんがわんさかいます。そのスキルや経験の蓄積は素晴らしいです。
■究極目標は、ハイブリッド的な職能が根付くこと
「風鈴」展 2008年7月に行われたエキシビジョン。一定の間隔で吊り下げられた約300個の風鈴が、センサーで人の動きを察知して涼しい音を鳴らし、音に合わせてホタルのようにLEDの柔らかな光を発する。
「Created for OKAMURA Design Space R by Toyo Ito Associates, Architects and takram design engineering」 photo by Masato Kawano (Nacasa & Partners Inc.)
――もの創りで重要だと思うポイントは何でしょう?
もの創りで重要視するものって時代とともに移り変わると思うので、何とも言えないんですけどね。いまAppleやAmazonがやってるもの創りで、一番大事なものは"サービス"ではないでしょうか。でも、10年前にはそんな概念がなかった。そして、10年後もどうなってるかわからない。必要要素は増えていくし変動していくので、その動きを自然に受け入れられるような受け皿としてスキルセットを広く考えていくのが重要だと思っています。4つのマスのスキルや経験の組み合わせを広げていくことができればいいですね。
――個人のポテンシャルをものすごく広げるということですね。
私達は、1つの道を極めているプロフェッショナルを大変尊敬していますし、ほとんどのプロジェクトで、このような方々と協業をしています。プロの人たちにしか超えられない壁もありますから。つまり、何事にも向き不向きがあるのだと思います。世の中に不幸な状況があるとすると、自分の志向が許容されない環境ですよね。日本の会社の中にもハイブリッドタイプの人はいるんですが、たいてい一匹狼になってDNAが受け継がれずに死に絶えてしまう(笑)。僕も普通の会社に入ってしまうと、何も残さず終わってしまうような気がして。そういった状況に対して、takramのミッションは、"デザイン・エンジニアという、もう1つのオルタナティブ=ハイブリッド的な職能"が会社や社会に根付いて、能力を生かしきることのできる社会を実現することなんです。
今後は海外の仕事を積極的に手がけていきたいと語る田川氏。穏やかで知的な語り口の向こうに、静かに燃え上がるもの創りへの情熱が見えた。ミラノサローネでの世界からの反響も楽しみだ。
5つの質問 一問一答
Question 1: 影響を受けたものを教えてください
仕事
Question 2: この職に就いたきっかけは?
この職が存在していなかったから
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
GATTACA
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
ルーペ、0.75 2Bのシャープペンシル、メモ帳
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
普通の人の普通の感覚