思い通りにならない事が面白い。グラフィックコレクティブ「Nam」
2009.01.08.Thu
Category : Features / Interview
櫻井喜明(左)、間仲宇(中)、中沢貴之(右)
Nam:2006年5月グラフィックデザイナーの中沢貴之とフォトグラファーの間仲宇によりグラフィックと写真による可能性を探す制作活動をスタートさせる。2007年、各ジャンルのアーティストたちの参加により総勢10名以上のグラフィックコレクティブになる。作品集の出版、企画展の開催にむけて現在作品制作中。
東京のクリエイティブ・シーンの第一線で活躍するアーティスト達の集合体、
Nam。グラフィックデザイナー、フォトグラファー、スタイリストら総勢10名が集結して作り上げるビジュアル・イメージはハイクオリティにして独特、まさに今の東京からしか生まれ得ないオリジナルなもの。中心メンバーとして活躍するアートディレクターの中沢貴之氏、フォトグラファーの間仲宇氏、フォト・レタッチャーの櫻井喜明氏にお話を伺った。
■ジャンルを意識しない表現の場
Luka (c)Nam
Namのミューズ、琉花ちゃん(étrenne)。「少女」というテーマでひとつ作品を作ろう、というときにたまたま見つけたモデル。彼女の登場で「琉花ちゃんが見たグラフィックの夢」というイメージに変っちゃった程。 「彼女をみてたら、全体が映画「ミツバチのささやき」みたいなイメージに変っちゃいました(笑)あと、作品がユーモラスになっていきましたね」(中沢)
――それぞれお仕事をしつつ、個人的にやりたいプロジェクトを行うグループということでNamの創作活動をされているんですよね。根本的なテーマを教えていただけますか?
中沢:Namは最初間仲くんと僕の2人から始まりました。写真を使った作品を制作しているんですが、同時に写真のデザインも行っているような感じがあります。グラフィックの範疇で、写真を利用して、意識としてはデザインをやっているんだけど、アートの領域もかするような。表現の実験の場を作れば、ジャンルを意識せずにできることがあるんじゃないかと。
――浮遊感とかポエティックな感じがとても気持ちいいですね。
中沢:映画をデザインで解体したらどうなるのかな?と思ってて、最終的には本にまとめたいと考えています。だから、作品は架空の映画のワンシーンを作っているような感じなんです。そういうところがポエティックなのかもしれません。最初に間仲くんとイメージしたのが、映画「アンダルシアの犬」でした。戦前の古い映画で、かなりアバンギャルドな作品です。ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリが実際に見た夢を映画にしたもので、めちゃくちゃなんです。恐ろしいものとユーモラスなものがギリギリでせめぎあっている。ストーリーや文脈に関係なく、イメージを吐き出していくことで映画が出来ていて、それをデザインで解体したらどうなるだろう?というのがコンセプトでした。実は、Namの作品の制作過程は夢のイメージというか、全部思いつきなんですよ。
――実際の作品も、皆さんの見た夢が元になってるんですか?
中沢:いえ、普段ふと閃いたイメージを、最後にグラフィックの夢として落とし込んでる感じです。実際に見た夢って覚えられないんですよね(笑)。「アンダルシアの犬」のダリとブニュエルは、実際の夢を映像にしてますけど意識外のイメージを表現するのが目的だと思うんです。実際の夢をそのまま細部までトレースする事自体が目的じゃなくって。特に僕は夢に色があるかどうかも覚えてないくらいだから、Namの作品においては、夢のイメージに近づけるためにレタッチ時に現実のような非現実のような彩度の低いイメージにしています。
櫻井:ポスプロではその点を最重要視しています。現実離れしているけど、突飛過ぎないというトーンを話し合って詰めていきました。
■決まった段取りは踏まない
The Fall (c)Nam
"部屋の重力を90°変更したら?"がテーマ。
――作品制作の段取りはどのように行うんですか?
中沢:もちろん全部が全部ではないですが、完全にテーマを決めて、きっちり絵コンテを描いて、という決まった段取りはなるべく踏まないようにしています。型にはまってしまうと、既成概念を超えるものが出にくくなってしまうので…。事前にあまり決まってなくて、制作の現場に臨むのってみんな不安なんですよね。おおまかな仕上がりは頭の中にはあるんですけど…ちょっと油断するとそのまま出来上がってしまう。少しはズレていきたいんですよね。要するに変化を受け入れる柔軟性が欲しいんです。例えば「The Fall」だと、"落ちる"っていうテーマと、机を立てかけて、横か縦かわからないイメージを撮ろうというところだけを決めて、撮影に臨みました。そして現場ではその場にあるものを使って作り上げていくという。その場にいたアシスタントを画面に入れたり、飲みかけのコーヒーカップを使ったり。
――そのような自由な制作方法が取れるのも、メンバーの気が合っているからでしょうね。
中沢:バンドみたいなところがありますね。このメンバーでないとこのイメージは作れないっていう。僕が思うに、モノを創る過程で捨てたものの方が面白かったりすることもあるんじゃないか?と。研ぎ澄ます方向にいくと、色々捨ててしまって自分に都合の良いものだけを残してしまうこともありますからね。
商業デザインには社会的な目的があるけど、ここでは沈殿したイメージをただ吐き出すような感じで作ってます。Namでのマインドは、利害が絡んでないからある種純粋というか、ぐっと来るものを出したほうが心意気として面白いと思うんです。逆に価値観として普段無い事を付け加えないと、存在価値がないような気がして。ノーコンテで臨むというのは、普通あるものからずれたい欲求なんですよね。普通にデザインをしてしまうと、カッコいいとか落ち着くとかの方向に行ってしまうので。そこが難しくも楽しいところです。
■作った人が予想もしない機材の使い方
The Kids Aalphabet (c)Nam
ベターライトで撮影した作品。ビーチボーイズの曲の歌詞になっている。
――この軌跡を利用したユニークな写真は、ベターライトというカメラを使用されているそうですね。
間仲:ベターライトは固定して、スキャナーのように画像を読み取るカメラです。精密に撮れるのが特徴で、本来は動かない美術作品などを撮影するカメラです。
中沢:作った人が予想もしてない機械の使い方って面白いですよね。ベターライトで撮影中に被写体が動くと、画像が伸びていくんです。これで子供を使ってタイポグラフィを作ろうと。子供にとって(この時に読み込む)15秒という時間は長いものらしく、なかなか思い通りにならないんですが、それによって予期しない絵が出てくるんです。自分の思い通りにならないことをやるのが面白いんです。
――レタッチで気を使った点は?
櫻井:いかに手を加えないか、合成っぽくない自然な感じに注意しました。中沢さんが求めていたのは非現実的でおかしな感じだったので、コントラストを上げない、かっこよくしないという点を重要視しました。間仲さんの写真の、気持ちいい光の入り方の中に変わった被写体があるっていうギャップを際立たせようと。普通はレタッチしないような、木目や被写体の影の濃さまで修正しています。ゴミ一つでも結構悩みます。取っちゃったらリアル感がなくなっちゃうんじゃないか、とか。そこは3人で話し合って決めますね。
中沢:Namの制作は、磨いていくというやり方ではないんです。レタッチするときも加工されてない感じというか、さじ加減、空気感がすごく大事で。だからNamの感性を理解してくれる人でないと、質感を伝えるのが難しい。例えば豪華なセットの前でこの写真を撮っても、面白くないと思うんですよ。日常の空間で、普通のものが変化していくところが面白みだと思っています。
■フットワークの軽さが大事
Book for Dreams (c)Nam + Ryuta Iida
――Namのクリエイションについて、心がけているところはありますか?
間仲:仕事だと演出が重要になってきますけど、本当の写真の魅力は演出しないところにあるはずだと思うんです。だからNamでは出来るだけ素直に撮影しています。といっても、僕の写真は素直じゃないですけど(笑)。
中沢:間仲君はいろんな引き出しがあるのが面白い。スイッチが出来るというか、一人でやってるときの写真と全然違います。最初、Namを始めたノリはすごく軽かったんです。「いいっすねー、やりましょう!」みたいな。
間仲:フットワークは軽いですね。波に乗っていくタイプです(笑)。
中沢:やってみなきゃわからないことも多いですからね。考えこんでいたらNamのプロジェクトも進んでいなかった。軽さって大事だと思います。どっちかっていうと、自分は積み上げてガッと壊しちゃうタイプなんです。自分の中で両極があって、上手く出来過ぎると壊したくなってしまうという…。何か作る時には、1つは新しいことにチャレンジしてみたい。行き先が全部見えるとつまらないですよね。どこに行くかわからないって位のほうが、創作意欲も沸くと思います。
"Design Conference HIGH5 2"ポスター
2008年11月24日に横浜にて行われた、デザインカンファレンス「HIGH5 2」のポスター。Namもスピーカーとして参加した。
――今後の予定は?
中沢:作品集の出版と、展覧会ですね。本当は2008年に作るはずだったんですけど、遅れてしまっているので。2009年はたくさん作品を撮りたいですね。
――楽しみにしています!今日はありがとうございました。
5つの質問 一問一答
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください
間仲:一番って意外にないです。かかわった物、人、事全てから
中沢:ビートたけしのオールナイトニッポン
櫻井:櫻井 :エミリー・ウングワレーの展示会
Question 2: この職に就いたきっかけは?
間仲:気がついたらなってた
中沢:学生時代の友人が、ADの駿東宏さんを紹介してくれ、そのまんま事務所にはいり
ました。
櫻井:コマーシャルフォトでレタッチャー特集をみて教師から転職
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
間仲:マグノリア
(みんなで歌う所)
中沢:ミツバチのささやき
櫻井:tokyo.sora
、好きだ、
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
間仲:コーヒー、犬、ケータイ
中沢:カッター、ピンセット、たばこ
櫻井:ケータイ、色見帳、ガム
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
間仲:日常が面白いです
中沢:人との出会い
櫻井:見方を広げる事。探しまわる事、人間観察と表情観察