鹿野護氏に訊く!あなたの映像制作を変えるソフト「Quartz Composer」
2008.12.04.Thu
Category : Features / Interview
ヘビーなMacユーザーでも、Mac OS Xにバンドルされているオブジェクト指向の開発ツールQuartz Composer(クォーツ・コンポーザー)を知る人は少ないだろう。この知る人ぞ知るアプリQuartz Composerは、開発者向けのツールでありながら実はモーション・グラフィックスなど映像作品を制作するオルタナティブ・ツールとしての可能性も持っているスグレモノ。知らないなんてもったいない!その魅力をQuartz Composerの映像制作ガイドブック「Quartz Composer Book
」著者、鹿野護氏(WOW所属、「未来派図画工作」主宰)に直撃!
■Quartz Composerとは
鹿野護 プロフィール:
東北芸術工科大学卒。WOW所属。WOWビジュアル・アートディレクターとして様々なジャンルのビジュアルエフェクトをシステム面から構築している。パーソナルワークとして「
未来派図画工作」を主宰。
鹿野氏とQuartz Composerの出会いは全くの偶然。OSのシステムを何となく眺めている時に発見し、「これは大変なことが起きている…!」と衝撃を受け、独学でマスター。鹿野氏は2004年よりWebサイト「
未来派図画工作」にてQuartz Composerで制作したスクリーン・セーバーなどの作品を公開。作品のクオリティの高さから、その名を国内外に知られることになった(「
stash 40」にも収録されている)。
さて、気になるQuartz Composerは、アップルが無償で提供している開発者用のツール。直感的にMac OS上のインターフェイスを開発するツールとして作られた。開発者用といっても、プログラミング言語は必要ない。ビジュアル・フロー・プログラミングと呼ばれる手法で、画面上で素材に適応するパッチを選び、レイヤーを重ね、アニメーションさせる一連の作業を視覚的に確認しながら行うことができる。
鹿野氏はその魅力を「Quartz Composerでの映像制作はフィーリングで行うので、DTMで音楽を作る感覚に近いと思います。ミュージシャンが音楽を作るかのように、映像作家が映像を作る事が出来るのです。」と語る。
■Quartz Composerは、映像を映像以上のものにする
これが「Quartz Composer Book」で最初にチャレンジするボルボックス。「
Motion Texture DVD」にもQuartz Composerで制作した作品が収録されている。
Quartz Composerの可能性は無限大だ。プログラム制御による映像制作の為、映像の再生する順番をシャッフルしたり、RSSで配信されるデータを表示させたり、永遠にランダム展開させる等、映像デザイナーが機能の付いた表現を自分で行うことを、簡単に実現してくれるのだ。
「Quartz Composerは基本的にOS Xが使えるメディアを全部扱えるので、写真でも実写映像でも何でも取り込むことができます。これはまだあまり知られていない大きな特徴でもあるのですが(笑)。また、作った作品はiTunesのプラグインとして認識できるので、ビジュアライザーの制作も可能です。従来のビジュアライザーは技術重視でどちらかというとサイケなものが多いですから、デザイン優先のビジュアライザーを作るのが面白いかもしれません。」
「20世紀ボヤージュ」(未来派図画工作)
何十年も昔のニュースとRSSで配信される現在のニュースをシャッフルして表示している。 Copyright © 2008 Futurismo Zugakousaku. All RIght Reserved.
■レンダリング不要!リアルタイムな映像制作
「ホテル・ガジェット」(未来派図画工作)
映像と言葉がランダムに組み合わされる。タイトルの組み合わせが約80万通り、映像の組み合わせは約1,600通り! Copyright © 2008 Futurismo Zugakousaku. All RIght Reserved.
通常の映像制作ソフトとの大きな違いは、レンダリングが不要な点だ。素材をあらかじめ作っておき、それを組み合わせるだけというシンプル・ステップ。その場でプログラミングしていくので、動かしながら変更できるという方法に開放感を感じる。全て、再生しながらリアルタイムに生成される映像なのだ。
「このような即興的な映像制作のスタイルは、今後一つの軸になってくると思います。一つの絶対的なタイムラインに従って進めるのではなく、もっと自由に直感的に時間をコントロールしながら映像を作っていくというスタイルです。これは最近のハードウェアだからこそ実現できる新しい感覚なのです。」
■もの創りの楽しさを知ってもらいたい「Quartz Composer Book」
「フルカラーボッサ」(未来派図画工作)
英語を中心にフランス語、ドイツ語、ハンガリー語、チェコ語、ポルトガル語など、世界中の言語で色の名前と実際の色が表示される。 Copyright © 2008 Futurismo Zugakousaku. All RIght Reserved.
鹿野氏が「Quartz Composer Book」を出版した理由は、「もっと創り手が多くなれば、世の中が面白くなる」という思いから。ツールがどんどん高機能になっていく一方で、受け手側で満足してしまうオーディエンスが多い。しかし、満たされた社会だからこそ、敢えて創るということにチャレンジしてほしいと語る。
「今の社会は、がんばって作らなくても、買えば事足りる世の中ですよね。確かに誰かが作ったものを利用するだけで十分かもしれません。でも、創るという行為は、それがどんなものであれ、満足感や達成感を味わえるものです。だから、この本を作る時にも、完全な技術解説本にするのではなくて、創ることを喚起するものを目指しました。もしかしたら、この本を手に取った人が何か創り始めるかもしれない。買わずに作る、というのは現代の社会では反社会的活動なのかも知れませんが(笑)」
では、鹿野氏にとっての「もの創り」とは何なのだろうか?
「ものを形作るだけじゃなく、何かを仕掛けることも作ることだと思います。私は自分の知りたいことに近づくために探求している状況に満足しますね。作品を発表するのはあくまで副産物。作品を作るために、古本やインターネットで調べ物をする過程がすごく好きなんです。例えば、色を表現するために、膨大な種類の色やモニタ上で数値化する方法を調べるとか。それが一番楽しい(笑)。作品発表はセレモニーではなくて、調べ物を終わらせるための行為、と言えるかもしれない」
「Quartz Composer Book」の小扉には本人の日常の写真を使用。鹿野氏は忙しい日常生活の中でも、映像づくりの楽しさを感じて欲しいと語る。
個人ワークのプロジェクト「未来派図画工作」、WOWの仙台メンバーを中心に結成されたデザインユニット「
wowlab」など幅広く活動する鹿野氏。wowlabは作品づくりのプロセスを共有することで経済活動を目指すプロジェクト。制作過程を興味対象とし、共有することで仕事が広がってきたという。
■今後の活動 - インターフェイスへの取り組み
現在、鹿野氏は携帯電話などのインターフェイス・デザインに取り組んでいる。NTTドコモの新しい取り組み「iウィジェット®/iコンシェル®」は、これまで機種ごとにばらついていたインターフェイスを統一し、ドコモの携帯電話に統一的に展開していくプロジェクトだ。wowlabではtakram design engineeringと共同でデザインを手がけている。
「例えばATMでお金を下ろすという行為は、機械との対話、命令と機能実行の繰り返しです。しかしその一連の行為を、ひとつのストーリーを持った映像、ドラマとして考える事も出来る。無機的なインターフェイスに、感情的な要素、エモーショナルなデザインを持ち込んでみたいのです。映像制作に携わってきた人間が作る、素敵なインターフェイスをいずれ作ってみたいと思っています」
現在も仙台を拠点に活動する鹿野氏。「今の自分にとっては、どこに住んでいるかではなく、いかに自分と向き合う場所を確保できるかが問題です。自分に向き合って、深く深く潜る。そして自分の奥底にある小さな針の穴に到達したときに、その穴から普遍的なものが見えるのでは」と答えてくれた。
「Quartz Composer Book」は、映像制作の初心者からプロまで、きっと新しい映像世界に導いてくれるだろう。とはいっても現時点では存在自体がマニアックなため、VJプレイに使用されることはあっても、ユーザーはそう多くないという…。つまり、ライバルが少ない今がチャンス!ぜひチャレンジしてみて、ステキな作品ができたらぜひホワイトスクリーンに教えてください!
5つの質問 一問一答(wowlabデザイナーの丸山紗綾香さんにも参加していただきました)
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください
鹿野:誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)
丸山:トリックアート美術館(新潟、寺泊市にあります)
Question 2: この職に就いたきっかけは?
鹿野:学生時代の延長
丸山:映画のCG技術に感動して
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
鹿野:ライフ・イズ・ビューティフル
丸山:300〈スリーハンドレッド〉
Question 4: 作業場のまわりに必ず置いているものベスト3は?
鹿野:ノート、コーヒー、読みかけの本
丸山:メモ帳、ペン、カメラ
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
鹿野:子供
丸山:本の感想、レビューを書くこと