Behind The Scene vol.08|WOW 阿部伸吾氏
2008.11.19.Wed
Category : Special
東京と仙台に拠点を置く映像プロダクション"WOW"で活躍中の阿部伸吾氏
メディアの枠にとらわれないクールな映像を探索し続けている映像プロダクション「
WOW」。その中で阿部伸吾氏は、水滴のようなオブジェクトで不思議な世界を実現した映像作品「vermilion」で文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品に選ばれたり、オリジナルワークとして発表している静止画を素材にした映像作品がどれも好評を博している注目のクリエイターである。今回は阿部氏の自宅の作業環境を取材させていただき、制作環境を支える液晶ペンタブレットについて話を聞いてみた。
■写真を素材にしたオリジナルワークの草分け的存在
静止画だけしか使っていないのに「ここまで表現できてしまうのか」と驚いてしまう。阿部氏のオリジナルワークといえば、写真をグラフィックとして刻んで展開したものが理屈抜きのスピード感や生々しい動きを実現していることに尽きる。平面の写真のはずなのにその中を自由に動いてしまうような魅力は一目瞭然で、ストーリーを説明する必要もない。恐らく作品を見てからその虜になるまで1秒もかからないといっても大袈裟ではないだろう。
丸山紗綾香とのユニット「UONUMA」による映像作品「4F」は、ビルがポップアップ絵本のように飛び出したり、鋭いカメラアングルで映像の奥に突き進む。建物の内部のスチールを刻んで静止画だけで作られたことをまったく感じさせない不思議な映像で、RESFESTの中でもほんの一握りしか選ばれないワールドツアーで上映された経験を持つ。
yoshio kubo(ヨシオクボ) のファッションブランドを映像で紹介した「yoshio kubo '08 spring and summer」では、服装のステッチに沿ってパーツが分かれて生々しく動く。感覚的にカッコいいといえる映像作品だ。
「yoshio kubo '08 spring and summer」 dir: 阿部伸吾
阿部氏の写真を刻んだオリジナルワークは東北芸術工科大学在学中に生み出されたもので、試行錯誤に明け暮れた在学中をこう振り返る。
「在学中に凄い短いものも含めて40本ぐらい作りました。デジタルカメラを購入して5万枚の写真を撮ったり、ビデオを回してはストーリーものを作ったり、今では誰にも見せられないような作品を作り続けて何をもって自分にとって気持ちがいいのかを試行錯誤する毎日でした。そこで分かったのは“心地がいい”という映像を実現するうえで写真というのは最適な素材だということなのです」(阿部氏)
静止画をメインに使っているものがオリジナルワークだと多いが、「Coke+iTunes」や藤商事のCIなどWOWのクライアントワークとしては、手描きのアニメーションや3D、グラフィックスなどなんでもこなし、さらに活動の幅を広げ続けている。
「3DCGソフトのCINEMA 4Dを使うなどWOWのクライアントワークではさまざまな手法を身に付けているので結果的に表現できるものも広がっています。しかし指摘の通り、個人の作品では写真を使ったものが多いですね」(阿部氏)
■生々しい動きから気持ちよく見える
ロゴが気持ちよく動くWOWOW 15th CI dir: 阿部伸吾
阿部氏は「CIタイトルロゴなどのアニメーションはわずか数秒の映像ですが、それだけでも気持ちいいと感じられるものを目指しています」と語りながら、かちっとしたロゴが気持ちよく動くさまざまなロゴ作品を見せてくれた。
それらの作品はまったく物理的な動きをしなそうなものが妙に生っぽい動きをする、こうした裏切りが阿部氏の映像の気持ちよさにつながっているようだ。普通のムービーで撮って物理の法則にしたがって動くものや看板等、見慣れているベタなイラストに生々しい動きを付けただけで全然気持ちよく見えるのだ。
「私の作品には“気持ちいい”と言葉で伝えられる部分は込めていません。それは言葉で言ってしまえばいいのです。見ていて“気持ちいい” とか“スキッとする”という部分を狙っています。物理の法則に沿った動きをしているものにちょっと生々しい動きが入っているだけで気持ちがよくなる。それは自分だけが感じていることかもしれませんが、少なくとも自分が気持ちよくなければ作れないですし、自分が何をもって気持ちいいのか、という提議は自分で作るしかありません」(阿部氏)
写真素材に動きをつけるのに使っているツールはAfter Effectsだ。いったいどんなスキルで気持ちのいい映像を実現しているのだろうか。
「作ってすっきりしない部分は繰り返して直し続けます。ようやく“気持ちがいい”と思うものができたらそれを生かして次のステップに進みます。それを永遠と繰り返すことで、1本の作品を仕上げるという感じですね」(阿部氏)
■パスを切るのが劇的に速くなる
Cintiq 21UXの液晶画面上をペンツールでどんどんクリックしてポイントを追加していくことができます(阿部氏)
「写真を大量に切り抜かなければいけない場合に液晶ペンタブレットがないと時間的にも物理的にも追いつきません」とCintiq 21UXを選ぶ理由をこう語る。写真を映像素材として扱うには、一枚一枚の写真から必要な部分をパスで切り抜かなければならないが、大量の写真を使う阿部氏の場合はこのパス抜きの作業が非常に負担となる。そこでディスプレイに直接ペンで書き込むことができるCintiq 21UXを使えば、切り抜きの負担と作業時間を大幅に軽減できると語る。阿部氏は「最近手がけたある作品では100枚もの写真を素材として使用しました。このパス抜きの作業を初期はマウスで作業をしたことがあるのですが、尋常でないほどに時間がかかります。そんな大量の静止画を素材に使うことが多い私にとって“Cintiq 21UXがあったから納品できた”と言い切れる仕事がいくつもあります」と絶賛する。
Cintiq 21UXを使うと切り抜きが早くなるのは、ポイントを直観的で正確に効率よく打つことができるからだ。阿部氏は写真を切り抜く際にAfter Effectsの「ペン」ツールでポイントを追加してベジェをコントロールしてベジェマスクを作成するが、そんなときにCintiq 21UXを使えば直観的にポイントを追加でき、ペンで自在にベジェをコントロールすることが可能になる。
「直線のようなオブジェクトであれば打つポイントが少なくて済むのですが、ファッションのような人物を切り抜くのは非常に神経を使います。たとえば、人物を切り抜く場合に一番難しいのは、服のシワのようなエッジがしっかりしていないところです。Cintiq 21UXを使えばペンで写真のアウトラインをなぞるようにポイントを追加することができます。1日数十枚パスを抜いていても負担になりません」(阿部氏)
また、液晶ペンタブレットの利点の1つは、ペンで紙に描くスタイルと感覚で作業ができることにもある。アナログと同等の感覚を実現する微妙なフィーリングはすでに漫画家やアニメの制作現場で高く評価されているが、阿部氏も絵コンテをゼロからCintiq 21UXで描き始めるのに使っている。
「私のプロジェクトのスタートはCintiq 21UXからです。Cintiq 21UXは紙にペンで描く感覚と一緒なので、絵コンテは紙に描いてスキャンするのではなく、直接液晶ペンタブレットとPhotoshopで描いていきます。Cintiq 21UXだとガリガリと直接描いても後から消せることができたり、色の変更がいくらでも可能で、試行錯誤を自由に行えます。もしかしたら、紙に描くよりもCintiq 21UXのほうが綺麗に描けるのではと思うぐらいです。あと、私はものが捨てられない癖があり、自分の描いた絵コンテとかすらも捨てることができないのです。そんな理由で絵コンテも最初からデジタルで描き、そのままデータとして保存できることもCintiq 21UXの魅力だと思っています」(阿部氏)
デスクサイドにはサブのモニタも用意していますが、解像度的にもCintiq 21UXが1台あれば問題ありませんね(阿部氏)
|
|
絵コンテもPhotoshopとCintiq 21UXでゼロから描いていきます(阿部氏)
|
■高くてもいいものは買う
恐らくCintiq 21UXの購入を検討している方で一番障害となるのは価格ではないだろうか。Cintiq 21UXはサイズや性能をみても間違いなく液晶ペンタブレットの最高峰モデルであるが、簡単に購入に踏み切れるものではない。しかし、阿部氏は迷わず真っ先に購入したという。
「Cintiq 21UXを購入したときは、ずいぶんと思い切った買い物になりました。私は決してお金を持っているわけではないのですが(笑)、Cintiq 21UXのような便利な周辺機器はたとえ手が届きにくいものでも迷わず購入します。仕事に使う周辺機器であれば、たとえ価格が高くても金銭的に回収することはできますからね。価格だけの価値があると思います」(阿部氏)
Cintiq 21UXには「面白い」とか「気持ちがいい」という快感のサイクルがいっぱい秘められているという。阿部氏の気持ちがいい映像はそうした制作環境も映像に相乗効果をもたらしているのではないか。阿部氏の静止画とCintiq 21UXの組み合わせによるモーション・グラフィックスの新たな可能性に今後も注目して行きたい。
このエクスプレスパッドも非常によく使います。位置とこのサイズ感がしっくりきています(阿部氏)
|
|
Cintiq 21UXの作業用に靴下を改造して手袋を作りました。手袋は小指だけでいい。しかし小指だけでの手袋を探したけれども見つからない。自分で作って試してみるとこれが実に使いやすい!(阿部氏)
|
Cintiq 21UX
ワコム社の数あるペンタブレットの中でも最高級機種であるCintiq21UX。21.3型モニタを搭載した液晶ペンタブレットで直接モニタに描画が可能。Intous3テクノロジを採用しているので、高精度、高分解能、高速読み取りはもちろん、1,024レベル筆圧機能のほか、Intuos3用の各種オプションの利用が可能だ。
最上位モデル「Cintiq 21UX」
(全文はこちら)
阿部伸吾氏プロフィール:ディレクター/ デザイナー。1981年11月1日生まれ。WOW所属。
手がけたクライアント・ワークにはヤクルトCI、エステーCI、VISA CI、WOWOW 15th CI、GAGA USEN CI、矢沢永吉ツアー'06 OP、NISSAN TIIDA campain site movie、FIFA Club World Cup '06 OP、THE JETZEJHONSON Dancetek MV、YoshioKubo '08 VP、UNIQLO JUMPなどがある。WOWでのオリジナル作品として「TENSPACE」、「DECOBOCO」、「WOW10book」などを制作。オリジナル作品では個人ワークに「ray」、「miz」、「vermilion」など、コラボレーション・ワークに「純白都市」、「MEGAHOUSE zapdoor」、「ARCHI LAB」など。