映画「スカイ・クロラ」圧倒的3DCG制作の裏側に迫る!ポリゴン・ピクチュアズインタビュー
2008.08.28.Thu
Category : Features / Interview , Movie of Month

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(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「イノセンス」など、世界的にその動向が注目と賞賛を集めるアニメーション監督、押井守。妥協なき映像へのこだわりで知られる押井監督が新作劇場映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」において描いたイメージは、"上空は圧倒的な3DCGで全て作りこんだ、ある意味天国のような世界。地上は2Dの、重厚な大人たちの世界 "だった。結果、全編を通して上空の世界は3D、地上の世界は2Dという斬新な世界が作り上げられた。

上空で繰り広げられる3DCGによる圧倒的な戦闘シーンを手がけたのが、老舗のCG スタジオ"POLYGON PICTURES(ポリゴン・ピクチュアズ)"。臨場感溢れるこの映像表現が実現したヒミツを、CGIディレクターの長崎高士氏とプロデューサーの石原直樹氏に訊いた。


■とことんリアルさを追求した白熱の映像制作
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左:長崎高士氏、右:石原直樹氏
スカイ・クロラの3DCGパートの映像制作において、一番重要だったのは"リアル"を追求すること。戦闘シーンで臨場感を出すためにカメラワークに工夫を凝らすなど、随所にこだわりが見られる。資料として戦争時の記録映画、映像を研究し、記録用カメラを積んだ飛行機が並走し、撮影しているかのような演出が施されている。対象の飛行機をズームで捉えようとするが追いきれずフレームアウトしてしまうようなディテール、手持ちカメラを感じさせる臨場感など随所にそのこだわりがうかがえる。結果、戦闘機はまるで生命が宿り、登場人物の一人のような存在感を放っている。それ故対照的にポイントで使用しているアニメならではの派手なケレン味のあるカメラワークのシーンが更に印象的に情感に訴えかけてくる。長崎氏は「撮影しているカメラマンの気分」で制作を心がけたという。

そして押井監督、メカニックデザイナーの竹内敦志氏らによる、飛行機のディテールへのこだわりもケタ違いだ。主人公のユーイチが乗る飛行機「散香」の制作だけで、なんと半年を要したという。飛行機の材質までをも考慮した細かな設計と演出がなされている。

「押井監督がこだわった"ちゃんと飛べる、リアルな説得力のある構造を"というギミックに対応するのが大変でした。具体的にはメカニックデザイナーの方が線画で起こしたものを3Dに落とし込んだときに、曲線などのディテールにおいてもリアルを追求したため時間をとられたんです。しかし飛行中のプロペラの感じとか、実写映像のプロペラ機と見比べても、より説得力がある映像が生まれたと思ってます。妥協しなくてよかった(笑)」(石原氏)

飛行機に強い面々で結成されたブレーン。たとえ1カットしか出てこない飛行機でもこだわり抜く。薄い鉄骨とアルミで出来た軽量の重爆機は、機体のしなる尾翼を忠実に再現したり、肉眼では見えないが飛行する大編隊一機一機にナンバリングを着けたりと、とことんリアルさを追求し専門家も太鼓判を押す画作りがされている。

更に、驚く事に3DCG上で飛行機を実際のスピードで飛行させている。その理由は、前述した通りのカメラ機の存在を出すためなのだが、そうすると1フレームでものすごく遠いところまで飛んでしまうため、飛行機雲や煙などのエフェクトを付けるのが難しかったと長崎氏は語る。ほかにもコックピットの窓のキャノピーの傷、カメラレンズの埃が反射してフレアになっているのを再現したりと、ディテールを追求する情熱はとどまることを知らない。石原氏はチームのモチベーションがすごく高かったので、クリエイターを信頼し自由度高く制作してもらうことが出来たという。

■2Dと3Dの斬新な融合
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(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
MAYAとVUEを主に使って制作。リアリティだけではなく、夜のシーンのコックピットは情緒的にするために現実ではありえないくらい光らせている。
スカイ・クロラを見た誰もが驚くのが、2Dと3DCGの新たな融合だ。

「押井監督から、空に上がったら3DCGで、飛行機含め全て、足が地上に着いたら2Dになるという演出の意向がありました。監督曰く「普通のセルアニメでも背景と登場人物と質感の違うものを合わせて成り立っているんだから」と言われて。セルアニメでは美術は絵筆で、人物はセルでベタ塗りですから。2Dと3Dが混在していてもただ見慣れていないだけで、怖がらずにどんどんやっていいんだよと」(長崎氏)

上空シーンでもキャラクターは2D表現。その2Dと3Dの融合も、常識を覆すやり方だった。通常は2Dでレイアウトを起こし、そこから目合わせで3DCG制作をするが、今回は3Dでレイアウトを起こして仮のライティング、アングルを決定し、原画担当に渡した。そうする事により、飛行機がロールするシーンでは飛行機の陰もキャラクターの影も動くという整合性がとれ、フローとしても親和性がよかったという。ポリゴン・ピクチュアズから提出したアニマティクス(CGのための動く絵コンテ、ビデオコンテ)も精巧に作った為、パースの破綻が原画のほうでも無かったのがメリットだ。
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これが精巧に作られたアニマティクスだ!アニマティクスの時点で既に臨場感のある動きが完成している。
長崎氏は、ヘルメットを装着して目しか見えないキャラクターでも、目が入るだけで命が宿ることに驚いたという。キャラクターデザイナー・作画監督は西尾鉄也氏、整合性の面はビジュアルエフェクツ担当の江面久(プロダクション I.G)氏が手がけた。江面氏はセルアニメで美術の背景と2Dのキャラをなじませる第一人者で、コンポジットワークで既存のセルアニメと違う空気感のある映像創りをしている。「もっと馴染ませることも可能でしたが、お互いの良さを生かすために、得意な質感が出るギリギリを見極めていきました」(長崎氏)

■無限の雲海の制作を可能にした「VUE」
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(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
長崎氏のお気に入りは、雨の中の戦闘シーン。プロペラが回ることで周りに雨の形が残るところや、尾を引いている感じを作るのが難しかったという。
雲海の中を、自由に戦闘機が飛べるように設計するために、3DCGで無限に広がるリアルな雲を作るのが技術的なチャレンジだった。そのために選んだのが景観作成専用ソフトの「VUE」だ。VUEは同社未導入のソフトで一種の賭けだったが、VUEでないと芸術面、制作行程において実現できなかったという。

「3DCGでそこにあるかのような感じで雲を作るのが技術的なチャレンジでした。こういった質感の雲海って美術さんが描くことはできるんです。ただし2Dだと視差が出ないので、実際そこにいる感覚にはならない。VUEは流体で雲を作れるので、無限の雲海が作れる。カメラが手前に動く感覚や、そこにいるような雲海を作るのはVUEでしか出来ません。ただしレンダリングは、1フレーム2時間、3分の映像に2ヶ月かかりました(笑)。他の3DCG部分は、MAYAを使って制作してます」(長崎氏)

■ビッグ・プロジェクトに欠かせない、分業制のメリットとは?
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(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会
「映画の半分は音でできてるんだよ」と語る押井監督のこだわりは音響面にも。最新の6.1チャンネル音響を採用し、米国スカイウォーカー・サウンドにサウンドデザインを依頼。百数十チャンネルを超える膨大な音声トラックを全て使い尽くす、贅沢な音響制作が行われた。
ポリゴン・ピクチュアズでは分業制を導入している。プロジェクトが起ち上がると、各チームから選抜してプロジェクトチームを作っていくのだ。スカイ・クロラ制作のチーム編成は、1.形を作るモデリング・チーム、2.動きを付けるアニメーション・チーム、3. キャラクターに骨を入れて関節を曲げたりするセットアップ(リギング)・チーム、4.爆発や煙などのエフェクト・チーム、5.ライティング、合成のコンポジット・チームで構成されている。多用するエフェクトはツールを自作してコンポジットチームで処理し、エフェクトチームにはもっと難しい処理を任せるという工夫でさらなる効率化を目指している。

ポリゴン・ピクチュアズが分業制を取り入れたのは96年ごろから。アメリカから専門家を呼び、分業制のノウハウを学んで取り入れた。海外のCGスタジオでは定着している分業制だが、日本だと大規模のプロジェクトが少ないためか、一人が最初から最後まで担当する場合が多く、クオリティや納期が安定しないという属人的なリスクが発生する。しかし分業制であれば新人を即戦力にすることも可能なため、大規模なプロジェクトには不可欠な制度だ。現在ポリゴン・ピクチュアズで手がけるニコロデオンやカートゥーン・ネットワークと共同開発したディズニーのTVシリーズも、分業制のメリットを生かして進められている。

―― CGスタジオではどのカットも100%全力で作ってしまうのだが、そうすると緩急のない映像になってしまう。しかし、押井監督に"一つのシーケンスで3カットくらい良いところがあれば、そこが強調されていいものができる"と教えられたのが印象的だったと語る長崎氏。リアルさを追求したディテールと、最新のCG技術が作り上げた圧倒的な映像。全編にみなぎる作り手の情熱が、お二人と話していると伝わってきた。

■老舗CGスタジオ"ポリゴン・ピクチュアズ"に迫る
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ポリゴン・ピクチュアズのオフィス・エントランス。コンビニのショーケースの中に彼らが生み出したキャラクターの人形、原型などが展示されている。
ポリゴン・ピクチュアズは、日本ではCG黎明期の1983年に設立された老舗のスタジオ。現在は120名を越えるスタッフを擁する、日本でも有数の大型 CGスタジオだ。これまでに「鬼武者2」や「イノセンス攻殻機動隊」のオープニング映像、CMデビューしたCGキャラクターのイワトビペンギン"ロッキー&ホッパー"の制作など常に新しいチャレンジを続ける彼ら。アメリカのニコロディオン社、カートゥーン・ネットワークでの番組など、国内にとどまらない活躍について、代表取締役の塩田周三氏に訊いた。

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塩田周三氏/代表取締役。
ポリゴン・ピクチュアズは、「誰もやっていないことを圧倒的なクオリティで世界に向けて発信していく」というビジョンを掲げる。手がける仕事の割合も、国内と海外が半々だ。海外での仕事が多いのは、CGを全面的に使用したプロジェクトが日本に比べて多いためだと言う。

しかしマーケット規模の違いのみでなく、塩田氏の世界を舞台に活動しようとする情熱と行動力はひしひし伝わってくる。また、アニメビジネスの利益が作り手に還元されない現状を変えたいと言う。「CGを突き詰めることで、産業として日本に根付かせたい。ニューヨークに行くとフィルムカンパニーが沢山あるように、日本でもクリエイターにとっていい環境を作りたい」と語ってくれた。今CGの世界では「これは新しい」という感覚になることがなかなか難しい。CGが定着してきた中でハイエンドなものを継続的に作っていけるかというところが業界では問われていると語る。

現在は、LAでオリジナル・コンテンツの企画開発プロジェクトが進行中のポリゴン・ピクチュアズ。塩田氏は「いずれは自分たちでプロデュースして、世界のマーケットに向けた作品を作りたい」と語る。氏の座右の銘である"I am god, so are you.(私は神、君も神。)"、日本の八百万の神という考えにインスパイアされたコトバが現すように、人間の可能性を無限だと信じる心が新しいことにチャレンジし続けるモチベーションの元になるのかもしれない。効率性と妥協なき映像制作で、前人未踏の地を行くポリゴン・ピクチュアズ。今後も日本、そして世界のCG界の先端から素敵な夢をとどけてくれるだろう。

■映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」
監督:押井守
制作:プロダクション I.G 
演出:久保利彦 
キャラクターデザイナー・作画監督:西尾鉄也 
美術監督:永井一男 
メカニックデザイナー:竹内敦志 
ビジュアルエフェクツ:江面久 
CGIスーパーバイザー:林弘幸 
CGI制作:POLYGON PICTURES 
サウンドデザイナー:Randy Thom・Tom Myers 
音響監督:若林和弘
8月2日(土)よリ、全国ロードショー中
「スカイ・クロラ」公式Web
配給:ワーナー・ブラザース映画
「スカイ・クロラ」あらすじ:函南優一(カンナミ・ユーイチ)は、平和を保つための“ショーとしての戦争”に命を賭けるパイロット「キルドレ」のひとり。新しい基地に赴任してきたユーイチを待っていたのは基地の司令官・草薙水素(クサナギ・スイト)。まるでずっとユーイチを待ち続けていたかのようなスイトの視線に戸惑いながら、ユーイチはいつの間にかスイトに惹かれてゆく。それが定められた運命であるかのように…。
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