「転々」撮影監督 谷川創平氏に訊く、HDVでの映画撮影
2007.11.09.Fri
Category : Features / Interview
近年の映画製作には欠かせない存在となったデジタル・ビデオカメラ。ここ数年各社ともに個人でも
手の届く価格帯のハイビジョンフォーマットのカメラを投入してきている。
今回white-screen.jpでは劇場公開映画「転々」の技術面での制作背景を、撮影監督を務めた谷川創平氏を中心にお伺いした。
「転々」が事例として使用されたキヤノンのワークショップの模様とともに、
キヤノン業務用ビデオカメラ XL H1を使用して
の映画撮影がどのように成功に導かれたかについて迫りたい。
(「転々」の内容・演出面については
三木聡監督へのインタビューを参照ください)
キヤノンXL H1ワークショップ
左から谷川創平氏(撮影監督)、代情明彦氏(プロデューサー・葵プロモーション)、伊藤太一氏(アシスタントプロデューサー・葵プロモーション)
ユナイテッド・シネマ豊洲で開催されたキヤノンのワークショップは今回で開催第2回目。「転々」を素材に、谷川創平氏(撮影監督)、
代情明彦氏(プロデューサー・葵プロモーション)、伊藤太一氏(アシスタントプロデューサー・葵プロモーション)らを迎え、
カメラの選定から編集のフローまでの制作エピソードが、テストフィルム上映などとともに紹介された。
カメラの選定
「転々」制作にあたり、「ローバジェット、短い撮影期間、機動力」をクリアする撮影ソリューションが求められた。
代情氏がHDVでの撮影を選んだ理由はバジェットと撮影期間によるもので、HDよりも100万から200万円の
コストダウンが見込めたため、とプロデューサーならではの視点だった。伊藤氏にとっては、
ローバジェットの映画の問題(短い撮影期間やゲリラ撮影時の混乱など)を避けるためにも機動力が重要だった。谷川氏も
同じく機動性が重要であったとのことで、今回に関してHDVのシステムはベストだったと語った。
XL H1にMINI35とシネレンズを装備し、「転々」は撮影された。
HDVカメラのなかからキヤノンXL H1を選んだ理由
XL H1の選定は撮影監督の谷川氏が行った。谷川氏と三木監督の理想とする「人物を背景から浮かびあがらせる、
ボケ味の利いた画」
を実現するために、シネマレンズのアタッチメントができるXL H1を選んだ。
シネマレンズのアタッチメントはmini35 Digital Image Converter(以下mini35)を使用し、シーンにあったシネマ
レンズを採用。こうして「転々」はほぼ全編キヤノンXL H1により(一部8mmを使用)撮影されることになった。
テストフィルム
プリプロダクションの段階で、三木監督のイメージを作り出すために様々なシーンでのテスト撮影がなされた。
それをフィルムにレコーディングし、実際の上がりを確認することで十分な下準備が行われた。
テストフィルムの撮影は谷川氏が脚本から浮かんだイメージで本番に近いシチュエーションでCine1とCine2のガンマ違い、
ブラックプロミストフィルターの四分の一、八分の一などを使用して行われた。
またゲリラ撮影のシーンはロケ地が夜も比較的明るい新宿の街が舞台。ナチュラルライトでの撮影の可能性を見極めるために、
とくに入念にテストが行われた結果、本番ではほぼ照明無しで撮影が行われた。
最終的に
谷川氏はXL H1のプリセット1にCine2を設定し、絞りについては、mini35を使った撮影では、絞りが大きいと構造上モアレのよう
な機械の動作の残像が発生してしまうため、4以下に決定した。
夜のシーンではGAINを6dbくらいまで上げて撮影したが不自然さは感じなかった、など設定の詳細に渡って語った。
編集作業について
HDVの難点は、編集フローが確立されていなかった事である。特に24F(24Pとも言う)ネイティブ編集は大きな課題だったが、
AppleのFinal Cut Pro(以下FCP)の対応により大きく状況は変わった。また今回伊藤氏は効率的で新しいフローを構築することに成功し、
時間と予算の更なる節約を実現した。
「転々」編集フロー
「転々」では直接24FネイティブでFCPへ取り込み、オフライン、そしてHDCAMデッキへの書き出しと、
ダウンコンバートの手順を省くことでコストダウンに成功した。編集にはフルスペックのIntel Mac G5を使用し、
ビデオボードはBlack Magicを採用。
モニタリングはMATROX MXOコンポーネント出力からDLPプロジェクターで120インチのスクリーンに投影した。
従来のフローだとポスプロと編集現場での無駄な行き来が必要だったが、単純化することでクオリティ管理もしっかりできるようになり、
よい結果を生むことになった。
制作に関わったスタッフの総意として、現場、編集、仕上がりともにXL H1での撮影は「転々」においてベストで
あったようだ。ポスプロ前の作業の簡略化もコストダウンに結びつき、コスト面での貢献も大きかったという。
プロデューサー、撮影監督ともに満足な出来だと語っていたのが印象的だった。
谷川創平撮影監督インタビュー
続いて、
「ピーナッツ」、
「紀子の食卓」など、
個性的な映画の撮影を数多く手がける撮影監督の谷川創平さんに今回の撮影についてのお話を伺った。
谷川創平さんプロフィール
撮影:ピーナッツ(2005),紀子の食卓 (2005), 気球クラブ、その後(2006)
撮影助手:踊る大捜査線 THE MOVIE(1998), 踊る大捜査線 THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!(2003)
キャメラマンになったきっかけ
― 谷川さんがキャメラマンになったきっかけを教えてください。どこで撮影の勉強をされたんですか?
谷川:日大芸術学部の映画学科です。昔からキャメラをやりたかったわけではなくて、中学校のころはロックスターになり
たかったんですよ。「こどもばんど」のローディをやってたんですけど、高校二、三年の頃「俺はロックスターに
はなれないな」って諦めて。当時リバイバル上映していた「ウッドストック」を見て「キャメラマンになればロックコンサートに行けるんだ」
とひらめいたんです(笑)。
― 学校を出てすぐに映画の世界に入られたんですか?
谷川:日芸を出た時に、一回撮影についてちゃんと勉強したいと思ってドキュメンタリー制作の会社に就職し、四、五年修行しました。
16mmフィルムでやってたんですけど「35mmを触ってみたい、いろんな世界を見てみたい」と思いフリーに転向して、映画撮影
に携わるようになりました。
テレビと映画の違い
― 谷川さんは主に映画のフィールドで活躍されていますが、テレビドラマの撮影と大きな違いがあればお教えください。
谷川:テレビドラマはテレビで流すものだから、僕らキャメラマンにとってはある意味撮影の自由度がなくなりますね。
例をあげると、
シナリオのなかで「暗い部屋」と書かれていても、本当に暗く撮っちゃうとテレビを見ている人には暗すぎて見えないんです。
テレビは電波に乗せて流すものですが、実は電波で表現できる色幅ってすごく狭いんです。
また、テレビと映画だと撮影の目的に明確な違いがあることも挙げられます。テレビの撮影だと基本的には現場で完成形をつくることが
狙いなんです。そのためにVE(ビデオエンジニア)が付いてカラコレといったポスプロの作業を軽減します。
映画と違って仕上げの期間もすごく短くて、編集が終わったらすぐに放映しちゃうので、ある程度決め打ちで作っていかなくちゃいけない。
映画のほうが撮影の自由がきいたり、
表現において遊べるっていうのはありますね。
「撮影」と「撮影監督」の違いは?
― 映画のキャメラマンは海外だと「シネマトグラファー/撮影監督」と必ずクレジットが出てきますが、日本では「撮影」もしく
は「カメラ」となっていることが多いのはなぜでしょう?
谷川:「撮影監督」はアメリカで特に使われる「Director of Photography」っていうクレジットを日本語に訳したものです。日本でこの
肩書きが使われないのは、撮影システムの違いですね。アメリカの撮影システムは
「撮影監督」がいて、その下にキャメラをオペレーションするオペレーターがいて、平行して照明もガファーという肩書きで撮影監督の
下にいるんですよ。日本の場合はそれが「撮影」と「照明」の2本立ての構造になるんですね。ライティングはこういう感じの色にしたい、みたいなことをプリプロ準備
~撮影~最後のポスプロと、いろんな技術的なことを全部組み合わせたうえで現場に指示を出していく、それが撮影監督だと思います。
― 欧米のシステムとは根本的な違いがあるわけですね。
谷川:昔は日本も撮影監督のシステムだったんですが、日本映画がすごく忙しい時期を境に変わったんです。本来撮影監督の指示で
照明を組み立てる照明さんが、あまりに撮影が忙しいので「照明準備(一つの撮影をしている最中に次
のシークエンスの照明を準備すること)」をするようになって。それでカメラマンが徐々に照明を自分の手から離して、任せてしまうこ
とが多くなり、キャメラマン=「フレームを決める人」という
役割分担になっていったんです。
― いつぐらいの話ですか?
谷川:黒澤明監督が活躍するより以前の時代の、本当に日本映画が隆盛の頃ですね。日本は特にオペレーターっていうシステムがないですし、
それまでは全部キャメラマンがやってたんですよ。
欧米の撮影監督は自分で露光を計ります。日本では撮影チーフが行います。撮影チーフはカメラマンの意向を聞き、
照明部と一緒にライティングを決め、露光を決定するのです。でも僕らも肩書きが「撮影」ってだけで、たぶん撮影監督の仕事はしてるんですよね。
― 個人的に好きなシネマトグラファーはいらっしゃいますか?
谷川:「エイリアン4」とか「デリカテッセン」とか、ジャン・ピエール・ジュネと一緒にやっているダリウス・コンジという撮影監督
が好きです。
転々での撮影について
― 「転々」は全編HDV、Canon XL H1で撮影されてますね。撮影のテーマは?
谷川:やっぱり人物、歩いている二人だけを背景から浮かしたかった。埋没してる感じじゃなくて、二人が東京の街中
を歩いているというのを克明にとらえたかったんです。あと色味も前半はあんまりポップな感じではなくて、三木さん曰く
「少し腐ったくらい」の少し抑えめな感じで撮りました。それで麻紀子(小泉今日子)の部屋に入ったときにぱっと赤味が差す撮影にする
ことを決め、それをベースにやってみました。

「転々」は制作面、コスト面、クオリティすべてにおいて満足と語る皆さん。
クリエイターへのアドバイス
― これからの若いクリエイターは最初からデジタルで撮ることも多いと思います。そういう方たちにアドバイスはありますか?
谷川:僕は、映像にはどんなことをやっても間違いというのはないと思うんですね。
例えば「イマジナリーライン(想定線)を越えちゃいけない」とか、映画史100年のなかで出来たいろいろな決めごとがありますけど、あまりそういうものにとらわれずに
好きなものを撮ればいいんです。映像は完成した時点でそれが作品になって、それを認めるかどうかは見る人が決めることであって。
フィルムが最高だって言う人もいるけどビデオだって最高なものができる。何かが間違いかどうかと悩むよりも撮ったほうがいいって思うんですよ。
フランクに話す谷川さんは、豊富な知識と確かな腕を持ちながら、従来の映画キャメラマンのイメージを覆すロックなアニキという印象だった。
「転々」につづいて2008年に公開される劇場映画「カンフーくん」でも撮影を務めた谷川さん。バジェットの大小に関わらず、常に映画の本質を
つかんだ映像を追求し続ける谷川さんの仕事に、今後も注目だ。
谷川撮影監督への5 つの質問 一問一答
Question 1: 一番影響を受けたものを教えてください
ROCK
Question 2: この職に就いたきっかけは?
ROCK
Question 3: 一番好きな映画は何ですか?
WoodSrock
Question 4: 作業場のまわりに必ずおいているものベスト3は?
1位/2位/3位コーヒー(カルディのイタリアンロースト)
Question5: 今おもしろいもの/事って何ですか?
ローマ人の物語
■転々
公式ホームページ
出演:オダギリ ジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重豊、岸部一徳ほか
監督・脚本:三木聡
撮影:谷川創平
上映時間:1時間41分
2007年11月10日より、渋谷アミューズCQN、テアトル新宿ほか全国<和道(なごみち)>ロードショー!